山では足を滑らせてしまう自分の姿を想像しながら走っている

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ランナーの人はすでに知っているかと思いますが、埼玉で開催されていたトレラン大会中に滑落事故があり、1人のランナーが亡くなられました。

山が好きで、近所の山とはいえ頻繁に走りに行く者として、「そっか」では済ますことのできない気持ちでいます。いや、そもそもマラソンだって決して安全なスポーツではありません。

東京マラソンで、タレントの松村邦洋さんが心肺停止状態で倒れたことを、記憶している人も多いかと思います。マラソン大会中の突然死というものも毎年のように耳にします。

しっかりとした準備をすれば防げたのか、安全に注意すれば防げたのか。こういうとき、そういう議論になりがちですが、少なくともランナーは自分のしているスポーツが100%安全なものではないということを認識しておく必要はあるかなと思います。

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普段の練習だって道路を走っているのですから、どこで交通事故に合うかはわかりません。

トレランは山を走るわけですから、さらに危険ではあります。「しっかりとした準備を行えば山は危険ではない」という人もいるようですが、どれだけ準備をしても山は山です。物理的に最大の準備をしても、体は走りながら刻々と状態が変わっていきます。

レースですといつも以上にがんばれたり、ちょっと無理をしてしまう人も出てくるはずです。

ここまで書いて、自分がなぜトレランのレースに興味がないのか、少しだけ分かった気がします。実際には、興味がないのではなくて「怖い」のだと思います。

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知っている人は知っていると思いますが、わたしはかなりのビビリです。いつも言っているように石橋を壊れるまで叩くタイプです。壊れた橋を見て「ほら危なかったやん」と。

レースというのはいつも以上にアドレナリンが出て、気持ちがハイになります。それが気持ちいいという人もいるのでしょうが、わたしのようなビビリはそこで自分のリミッターが外されるのが怖いんです。

ただでさえビビっているのに、リミッターがハズレたら自分をコントロールできなくなります。そうなったときに何が起きるかを本能的に理解していたのかもしれません。でも山を走るのは好きだから、山には行きます。そして自分が自分でいられる範囲までしか走りません。

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流れ弾は臆病者に当たると言われますが、わたしは自分に流れ弾が飛んで来るのを知っているから、自ら戦場に出ないわけです。嫌なことや危ないことから徹底して逃げているわたしらしい判断ですが、それを卑怯だと言う人もいるかもしれません。

トレランのレースには出なくても、やっぱり走ることは安全ではありません。限界まで追い込んだら、体が壊れてしまう可能性もあります。寿命が短くなるという人もいます。

「それは他のスポーツでも同じこと、もっと危険なスポーツはいくらでもある」と言うこともできますが、それによってランニングが安全になるというわけではありません。

じゃあ走らなかったらいいのか。そんなこと考えるランナーはいないかと思います。走らなければ不健康になってしまうと知っているから。そして何よりも「自分だけは大丈夫」と思っているからです。

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ランニング中に事故に遭う確率と、交通事故に巻き込まれる確率、どれくらい差があるでしょう。おそらく交通事故に巻き込まれる確率のほうが高いのではないでしょうか。でもほとんどのひとは運転を止めようとはしません。

毎日のようにラジオから流れてくる事故情報は、他人事でしかないからです。

「自分だけは大丈夫」という根拠のない自信。でも事故を起こそうと思って事故を起こす人はいません。まったく問題のない運転をしていても事故は起こります。

同じようにランニング中の事故は誰にでも起こる可能性があります。最大の準備をしてもそれは確率を下げるだけのことで、どうやってもゼロにはできません。

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もちろん確率を下げる努力は必要です。それと「自分だけは大丈夫」と思うことは違います。

自分にも起こることだと思っていれば、少し臆病な気持ちを持っていれば、ちょっとおかしいなと感じたときに立ち止まれるかもしれません。

日本人で初めて8000メートル峰全14座を登頂した竹内洋岳さんは、ピークの手前、数十メートルであっても違和感があったら折り返すそうです。14座のうちアンナプルナは死亡率が40.8%もあるとのこと。

そういう世界で生きている人たちと、わたしたちを同じ土俵で考えるのはおかしいかもしれません。それでも彼がなぜ14座に登頂できたかを考えると、わたしたちがロードや山を走るときの参考にはなると思います。

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彼の言葉でわたしの心に残り、今でも山に入るときにいつも気にしていることは「滑ると思って足を出す」というニュアンスのことです。足を一歩出したら、その足が滑ってしまう前提で足を出せば、実際に滑っても対応ができます。

それは一例ですが、大事なことは想像することです。この道を走っていったらどうなるのか。これ以上心拍数を挙げていくとどうなるのか。体からのSOS信号をこれ以上無視し続けたらどうなるのか。

想像すれば、どこかでブレーキが掛かるはずです。次の一歩を踏み出せなくなるときがあるかもしれません。

そこで止まったことを臆病だと言う人がいたとしても、それは自分自身の問題です。結果論でモノを語っても意味はありません。自分が危ないと感じたから、危険を想像できたから止まった。それでいいと思います。

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ただ、想像が度を過ぎると、わたしのようにトレランのレースには出ないなんて、ちょっとこじらせてしまいますので、いいあんばいで想像してもらえればと思いますが。

山であれば、少し危険なコースを走るときに足を滑らせる自分をイメージする。崖から落ちていく自分をイメージする。それをきちんとイメージできれば回避する方法を想像できます。

でも、そんなことしているとレースにならないのかもしれません。レースで重要なのはおそらく恐怖に打ち勝って勢いよく走る勇気なのでしょう。すぐに立ち止まってしまう、わたしのような臆病な人間が足を踏み入れていい世界ではありません。

だからわたしは自分のスタイルで、レースとは違うところでこれからも山を走り続けるのでしょう。


だからこそ、自分にフェアでなければならない。プロ登山家・竹内洋岳のルール
著者:小林 紀晴
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