東京〜26年前のあの日から〜

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1992年1月7日。全国高等学校サッカー選手権準決勝の朝、わたしは初めて東京の地を踏む。あのときモノレールから見た、ビルで働く人たちの姿。26年近く経過した今でもしっかりと焼き付いている。

いつかこの街で働くことになる。

東京への憧れはなかった。ただサッカーをするなら東京しか考えられなかった。関西の大学でサッカーをしても埋もれてしまうだけ。Jリーグもこれから始まるという時代。東京のフィールドは金色に輝く未来が埋まっていた。

半分はわたしが美化した過去。現実は「おまえが行ける大学はどこにもない」と担任にも見捨てられ、それでも入れる大学を探した。地方の国立大学に行くか、奇跡的にも特待生試験を通過した関東の大学に行くかの決断。

決断というほどでもない。わたしはあの日から東京に行くことは決まっていたのだ。

ただ、あのときわたしに、高層ビルの47階から東京タワーを見つめる未来など見えるはずはなかった。人生は何が起こるのか分からない。サッカーを諦めてなかったら、今ごろわたしはどこに立っていたのだろう。

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追い続けていたキングカズの背中に、指先が触れるくらいのところまでは行けたのだろうか。

あれほどまでに熱狂したサッカーから離れることができたのはなぜだろう。走ることが得意でもないのに、こんなにも走る世界にのめり込んだのはなぜだろう。

26年。

決して短い時間ではない。わたしが東京に来た日に産まれた子どもが、父親や母親になっていてもおかしくはない。わたしの中の時計はあのときからそれほど動いてはいない。

ピーターパンシンドローム。体はどんどん老いていくのに、心だけが同じ時間に留まり続けている。無駄に口先だけは達者になっている。そういえばわたしは成人式に出席していない。

きっと周りの友人たちは成人式で、大人になるためのコツを教えてもらったのだろう。

それを聞かなくてよかったと思っている自分もいる。会社員のような働き方はわたしには合わない。優秀な社員を演じることはできる。ただそれを何十年も続けることはできない。

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真っ白だったあの日のわたし。今では間違っても真っ白とは言えない。みんなと同じように、人には言えないような過去もある。ただ、あの日に戻れるわけではないし、戻りたいとも思わない。

ただ懐かしく思うだけ。

思い描いた未来とはまったく違う場所にいる。会社を辞めたときですら、いまの自分を1mmも想像できていない。ただ漠然と「このままではいけない」という気持ちで飛び出しただけ。

「このままではいけない」という気持ちの根底にあるのは、26年前にモノレールから見たあの記憶なのだろう。

わたしはまだこの街で何も成し遂げていない。

こんなところに立って勘違いしてはいけない。眼下に広がる無数の光の粒を眺めながら、あの日に想像した未来の自分を思い浮べながらつぶやいてみる。

わたしならきっと、今よりももっと高く跳べるはず。


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著者:喜多川 泰
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