近代史の中でいつだって日本は「キレるとやばいやつ」だった

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サッカー日本代表のW杯。いろいろ言いたいことがある人も多いかと思います。フェアでないという意見や、結果がすべてという考えかたもあります。いずれにしても、日本代表はルールを最大限に利用してベスト16に進みました。

どうするのが正しかったかは別として、なんでこんなにも議論になるのかについて考えてみましょう。

わたしとしては、日本代表の目標やビジョンを共有できていなかったことに原因があるように感じています。W杯で予選突破が目標なのか、それとも日本らしいサッカーで世界を驚かせるのか。はたまた優勝を目指すのか。

代表チームとしての目標は決まっていたのでしょう。少なくともなりふり構わずベスト16に残ること。そしてベスト16で満足せずに勝ちに行くというのがチームとしての方針だったのでしょう。

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それは第3戦の先発メンバーからもわかります。温存という選択。まだ決勝トーナメント進出が決まったわけでもないのに何人かの選手を休ませました。これは決勝トーナメントで相手とがっぷり四つに組むための判断でしょう。

ちなみに同じことを前日にドイツがやって失敗しています。まだ結果の分かっていない第3戦でターンオーバーするのは、別に特別なことではなく、むしろワールドスタンダードな戦い方です。

それで敗退するようなら、いずれにしても決勝トーナメントで勝ち上がることはできないという考え方です。

おそらく、シミュレーションをした結果、まずコロンビアとセネガルが引き分ける確率がほとんどなかったのでしょう。さらに日本が大敗するというのも。むしろ大敗しないためのあのメンバー。負けても0-1でコロンビアとセネガルが引き分けない。

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そういう意思統一が事前にされていたから、最後に攻めないという判断になったのでしょう。

でも、それは多くの日本人、いや世界中のサッカーファンを裏切ることになりました。あれほど期待されてなかった日本代表が、手のひら返しで高い評価を得たのはコロンビアに勝ったからではありません。

彼らが賞賛されたのは、相手から逃げることなく戦う姿勢を見せたからです。個の力は劣ってもチームとしてまとまり、諦めない姿を見せたから。スポーツとは感動の共有にこそ、その魅力があります。

ただ、日本代表チームはベスト16の先に進むことを目標設定にしていましたので、目の前の試合を捨てるという選択肢を選びました(それも他力本願で)。そしてベスト16に残った喜びを共有しようとしたわけです。

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自国民からも見捨てられたチームが、ベスト16に残ればそれはすごいことだろうと。

でも、手のひらを返した人は、そんな計算高いやり方を見たかったわけではなく、飢えた獣のようにゴールの貪欲な、勝利に貪欲な姿を見たかったわけです。

もっとも、そういう人もあの状態から攻めて失点したら、「バカじゃないか」とまた手のひらを返すのでしょうが。

西野監督はチームを率いるときに、目標設定として「優勝」を考えたのかもしれません。優勝するためにはとにかく予選は突破しなくてはいけません。どんなにいいサッカーをしようと、予選を通過しなければ意味がない。

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だから、世界中を敵に回しても、なりふり構わず予選突破を優先したわけです。しかもメンバーをターンオーバーさせて。

この目標設定はバラバラだったチームをひとつにまとめる唯一の方法だったのかもしれません。釣るなら小さな人参よりも大きな人参。誰もケチをつけられない目標を提示してチームをひとつにしたわけです。

そういうことを応援する側ときちんと共有できていれば、こんな混乱した状態にはなりません。

でも、チームには戦略がありますし、口にしないほうがいいことだってあります。相手を油断させるのもひとつの戦略です。勝つためには大きなことをマスコミには言わない方が良かったりするわけです。

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「優勝しか考えていない。弱小国が優勝するなら卑怯と言われてもルールの範囲内でなりふり構わず何でもやる」と言い続けていれば、今回の時間稼ぎだって理解を示してくれた人はもっと多かったと思います。

1,2戦を戦うなかで、応援する側には「勇敢に戦う男たち」という印象を与えてしまった結果、勇敢とはまったく違う一面を見せつけられて、がっかりさせてしまったわけです。

でもチームにしてみれば勇敢に戦ったのは、目標を達成するにはそれしか選択肢がなかっただけのこと。勇敢に戦うことが目標ではないから、決勝トーナメント進出が見えたら勇敢は臆病へと変わりました。

そういう意味では彼らは何も変わっていません。勝手にわたしたちが評価を高くしただけのことで、彼らは上がりすぎたハードルの下を通っていっただけのことです。

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ここまでは、冷静な1人の物書きとしての頭の中です。ここからは個人的な想い。

控えめに言って、日本代表にはがっかりしました。いや、買いかぶり過ぎてたのかもしれません。あの試合で日本代表への一切の興味を失いました。わたしにとってあれはサッカーへの侮辱であり、いずれ痛い目にあうことでしょう。

「ルールの範囲内だからいいはず」と言う人もいるかもしれませんが、そもそもなぜ第3戦が同ブロック同時刻開始になったのかを考えれば、サッカーの本質がどこにあるか分かるはずです。

大会直前の監督解任だけでも世界に不信感を持たれているのに、そこからさらになりふり構わない露骨な時間稼ぎ。目的達成のためには手段を選ばない。歴史の所々で日本はそういう姿を見せます。

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これは日本人の国民性でもあります。子どもの頃、クラスに1人くらい「キレるとやばいやつ」がいたかと思います。近代史の中でいつだって日本は「キレるとやばいやつ」でした。

このスタンスは結果を出しても信頼を失うことは歴史が証明しています。

もうしばらく日本にまともな外国人監督はやってくることをないでしょうし、一流国との親善試合もないでしょう(アディダスが無理にでも組んでくれるかもしれませんが)。世界で信頼を失うということはそういうことです。

W杯は世界一を決める大会であるとともにチームと選手の品評会でもあります。

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最初の2試合で驚きを与えた日本代表は、3試合目が終わるまでは今大会のベストチームのひとつでした。ところが、選手はともかく国としての評価は大きく落とすことになりました。

キレた子が勇敢にいじめっ子に立ち向かった結果、「あいつちょっとやるな」と、みんなの見方が変わったのに、その後もキレ続けたことで「危ないやつだった」となっているのが現時点。

決勝トーナメントは日本は何をしてもブーイングされることでしょう。サッカーを侮辱した罪は、わたしたちが思っている以上に大きなものです。そして「キレるとやばいやつ」であることを世界の人たちに思い出させてしまいました。

失敗をおそれずに勇敢に戦い続ける日本であってほしかった(これは個人的な願望)。その姿があるから、決勝トーナメントでは相手も日本を怖がってくれます。今の日本代表は牙を抜かれた狼どころか、飼いならされた犬と同じ。

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リスクを嫌って何もしないスタンスは、いまの閉塞感のある日本社会と重なって見えます。

わたしは潔くない行動が嫌いです。そして日本代表の試合は潔さのない醜いものでした。なんでこうなってのでしょう。美しさを大事にするわたしとしては、応援する気持ちが萎えたというのが現実です。

もっとも、勝てば官軍という言葉もあります。このまま勝ち続ければ、また手のひらを返してくれる人もいるのでしょう。少なくともロシアW杯ベスト16以上という記録は残りました。

いずれにしても、わたしが勝色をまとった選手を応援するロシアW杯はここでおしまいです。完全にしらけてしまいました。あとは世界レベルのプライドのぶつかり合いを楽しみたいと思います。


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著者:五百蔵容
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