ブックレビュー「浅田次郎 日輪の遺産」〜責任の自覚、そして勇気〜

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すこし前に読み始めた浅田次郎さんの日輪の遺産。最近は浅田次郎さんと北方謙三さんばかり読んでいるような気がしますが、浅田次郎さんの歴史小説は、どんどんと小説の舞台に引き込まれていきます。

蒼穹の昴シリーズのおかげで北京がさらに好きになりましたし、なぜか北京に住んでいたことがあるのではないかと思うくらい、自分の中に北京の空気が馴染んでいます。

北方謙三さんの水滸伝シリーズは、寝る時間を惜しんでまで読み続けました。中国が舞台の小説というのは、非現実的でありながら、どこかリアリティがあります。

中国の路地に入ると、もしかしたら物語の主人公たちに会えるのではないかと思うことがよくあります。

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そして今回手にした日輪の遺産。終戦数日前の東京が舞台の小説です。旧日本軍が奪ったマッカーサーの財宝をめぐり様々な事態が発生していくのですが、その時代と1992年という日本経済が傾き始めた時代が同時進行で進んでいきます。

2011年に映画にもなっていますので、頭の片隅にでも覚えている人もいるかもしれません。

戦時中について、好きと表現すると誤解されそうですが、わたしの好きな時代のひとつです。人間の本能がむき出しになりそうなところまで追い込まれているにも関わらず、人間らしさをなんとかして保とうとする人たち。

でも、この時代のことを語るのは日本では暗黙の了解としてタブーとされています。

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中国に行くと、好む好まないに関わらず、どうしてもあの戦争の話になります。決して責められるのではなく「お前はどう考えているのだ?」と何度も問われました。

当然、最初は何も答えることができませんでした。第2次世界大戦は歴史のひとつとして学んだものの、満州事変がなぜ起こったのかは学んでいません。記憶にあるのは年号と何が起きたかということだけ。

戦争にしても、ゼロ戦の話や原爆の話ばかり。そのとき台湾で何が起きていたのかを授業では何も教わっていません。それどころか中華民国と中華人民共和国の歴史についても分からないわけです。

そうい歴史を学ぶことが、東アジアの人たちと同じ土俵に立つための最低条件だと、わたしは考えています。ただ、わたしは勤勉な人間ではありませんので、こうやって小説から学ぶのが手っ取り早いわけです。

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もちろんフィクションの部分もありますが、少なくとも浅田次郎さんは想像だけで小説を書いているわけではなく、膨大な量の資料を読み込み、文章を組み立てています。

わたしが自分で同じ資料を集めて読み込むよりも、彼が分かりやすく小説という形に翻訳してくれたものを読むほうが効率がいいわけです。

もっとも、実際に読んでいるときはストーリーに引き込まれていますので、そんな小難しいことは考えていませんが。

戦時中をひどい時代だったなとは思うのですが、きっとその時代を生きている人たちは、自分たちが生きるのが精一杯で、その中で豊かさを見つけて笑い合っていたのでしょう。

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物質的な豊かさが、必ずしも心の強さに繋がるわけではないことは、現代社会を見れば一目瞭然です。これだけ快適に暮らせる時代において、常に誰かを批判して、自分が優位に立とうとする人たちばかりが視界に入ってきます。

お金や食べ物に困らなくても、心がいつも困っている。

人間というのは自由を手にするよりも、制限された環境の中であれこれもがいているときのほうが充実し、心も強くなるんじゃないかなと、わたしは思っています。

あの当時は「お国のため」という言葉があたり前であり、ほとんど全ての人たちが、日本という国のためにひとつになって前を向いていたように感じます。それが良いか悪いかは、ここで話すつもりはなく、そういう時代だったというだけのこと。

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そして、今は誰もが自由を謳歌して、好きなように生きられるようになったことで、どこを向いていいのか分からなくなってしまったように感じています。敷かれているレールがないから前に進めない。

じゃあ戦時中に戻るべきかというと、もちろんそんなわけはありません。

ただ、何をするにしても覚悟が足りてないのだろうなとは思います。他の人は知りませんが、少なくともわたし自身の覚悟が足りていないことは明らかです。どこかでやっぱり「何とかなるだろう」と軽く考えています。

自分が自分の人生において何をすべきか。自分に与えられた責任を自覚しているつもりでしたが、実際にはどこかで逃げ道を作っていたのだということが、今なら分かります。

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やるべきこと、自分の役割がちゃんと分かっているのに、それと向き合う勇気がないわけです。そんな状態で前に進めるわけがありません。

万里の長城マラソンの帰路でこの本を読み終えたのは、きっと運命だったのでしょう。

わたしの責任は、1人でも多くの人に中国を訪れてもらうこと。そして、あたり前のように日本人に中国人の友だちがいる時代をつくるということ。もちろん自分1人でそれをすべてできるなんて思ってはいません。

でも、イエス・キリストもお釈迦様も最初は1人で立ち上がったわけです。最初から意味がないと思っていたら、誰もついてきてはくれません。

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責任を自覚して、勇気を出して踏み出すことができれば道は必ず開けます。

今回はラン仲間と万里の長城マラソンを走り、北京を案内したことで、自分の役割というのを再確認できました。次は動き出すことです。あれもこれも手を出さずに、万里の長城マラソンに集中する。

それがわたしの責任。

小説の中で少女たちが責任を果たしたように、その時代を生き抜いた登場人物たちが自分の責任を全うしたように、わたしも自分の責任を受けいれて前に進む。

日輪の遺産はそのきっかけになった1冊。何十年後かにそう思い出す日がくるかもしれません。


日輪の遺産
著者:浅田 次郎
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