映画「あの頃、君を追いかけた」〜手を伸ばすことが出来なかったあの日〜

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目の前にガラスの器がある。この器が満たされたとき、きっと美しくなるんだろうなと思っていたら、いつまでも満たされない。この器は最後まで満たされないのかもしれないと、わたしは半ば諦めていた。

物語が終わりに近づいたとき、その器がいつのまにか満たされているのに気づく。ただ、わたしの思っていたものとは違うものでいっぱいになっていた。

映画「あの頃、君を追いかけた」をネタバレせずに印象を語るなら、わたしはこう表現する。

ただ、観る人によって感じることは違うのだろう。乃木坂46の齋藤飛鳥や、若手俳優として存在感を示す松本穂香がただただ美しいだけと感じた人もいるだろう。この2人と山田裕貴が美しかったことは否定しない。

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最近は乃木坂46の曲ばかり聴いている。ただ、「あの頃、君を追いかけた」を観たのは、乃木坂46のメンバーが出ているからではなく、この映画が台湾映画のリメイク作品だから。

わたしは北京も好きだが、台湾もそれに劣らず好きだ(節操がないのは重々承知している)。台湾映画も時々見ている。

台湾で大人気だった映画だけど、それを観ていない。この映画が日本に上映さらた2013は、いまほど台湾が好きにはなっていなかった。だったらリメイクでも観てみたい。そんな思いで劇場に足を運んだ。

ジャンルはわたしが最も好きな青春映画。わたしには青春と呼べるような時間があったのだろうか。42歳になった今でも、ときどきそんなことが頭をよぎる。

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きっと、青春にたくさんの忘れ物があって前に進めないでいる。青春映画はそんなわたしの背中をほんの少しだけ押してくれる。だから好きなのだろう。

映画が始まってどれくらい経ったのか分からない。「なんで器を満たさないのだろう」その気持ちがずっと続いていた。そこで注ぎこめば、青春映画としてキラキラとした美しさを出せるのに、注ぐ気配すら感じない。

きっとこれは、もどかしいという感情になるのだろう。今になって思えば、映画監督にしてやられたのかもしれない。完璧な過程を経た完成品だけが、必ずしも完璧な仕上りになるわけではない。

「それになんの意味があるのか」というシーンがいくつもあるが、その言葉は、この映画の中で何度となく問いかけら「あの頃、君を追いかけた」の本質、いや青春の本質のようにも思える。

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意味がないと思っていたもの、意味を感じられなかったものが、いずれ役に立つことがある。

人生に無駄なものなんてひとつもなく、無駄にする人がいるだけのこと。選んだ道も、途中で歩むことを諦めた道も、そこにかけた時間は決して意味のないものではない。

映画が終盤に進むにつれて、そんなメッセージがゆっくりとわたしの深いところに刺さり始める。

もしかしたら「あの頃、君を追いかけた」は青春映画とは違うのかもしれない。映画に出てくる登場人物たちの背景にあるのは、共に過ごした青い春ではあるものの、それはガラスの器を満たす要素のほんの一部でしかない。

誰もが経験したであろう、戻ることのない日々。
そこからどうやって前に進むのか。

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前に進もうとしたとき、かつて無駄だと思っていたことが意味を持ってくる。それはプラスに働くこともあれば、マイナスに働くこともある。人生の選択肢が与えられたとき、そこが分岐点だと気付かずにボタンを掛け違える。それが若さだ。

若さとは時に甘く、時にほろ苦い。

手を伸ばせば届くのに、拒絶されてしまうのではないかという不安から、引っ込めてしまった手。あの頃の感情が急に溢れ出し、目の前の器が満たされていた。

映画館を出てしばらく歩く。わたしの中でずっと閉じ込めていた想いが、夏のかき氷のように溶けていく。気がつけば目には涙が溜まり、こぼれ落ちる瞬間を待っていた。

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わたしは静かに瞼を閉じて、涙を押し戻した。「そうだよな」とつぶやく。大切だった人と過ごした時間があるから、いまの自分がいる。そんな当たり前のことを、やっと受け入れられたような気がした。

もう一つの世界があるなら、わたしはあの人と結ばれ、もしかしたら何人かの子どもがいて、毎日ケンカしながらも楽しくやっている自分がいるのだろう。

でも、こっちの人生も上出来なんじゃないだろうかと思う。
あの時、追いかけるのをやめたから出会えた人がいるのだから。

映画『あの頃、君を追いかけた』公式サイト:http://anokoro-kimio.jp


あの頃、君を追いかけた (講談社文庫)
著者:九把刀
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