美しい所作を大事にして一つひとつを丁寧に積み重ねる

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台湾の花蓮で食事に行ったときに、ほぼすべてのお店で共通して感じたのは「出てくるのが遅い」ということです。これは決して悪いと言っているのではなく、むしろそうあるべきなのかなというお話です。

花蓮で飲み物や食べ物を注文すると、そこからじっくりと時間をかけて調理を行います。とうもろこしの屋台では、客が食べたいとうもろこしを選び、注文を受けてから炭で焼きます。

ですので、注文を受けてから15分くらいは待たされます。混雑時でしたら30分待ちくらいにはなるかもしれません。でも、それを嫌がる人はいません。待つのがあたり前という感覚で、みんなのんびり待っています。

カフェでコーヒーを注文したときも、注文してから出てくるまでに10分はかかります。これはどのお店に行っても同じです。あるお店では挽いた豆の香りをテイスティングさせてから、コーヒーを淹れます。

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その一つひとつの作業がとても、丁寧で美しいんです。

コーヒーを淹れるときの眼差し。海鮮やとうもろこしを焼くときの眼差し。その立ち姿がとにかく美しく、それは日本どころか台北でも見ることのないものでした。

小説「利休にたずねよ」を読んだ後に、所作の美しさにこだわろうとしていた時期がありましたが、花蓮の人たちはまさに所作が美しく、そして提供される食べ物も飲み物も心が込められているのが伝わってきます。

ちょっとした所作もおろそかにしません。なぜそうなっているのかは分かりませんが、むしろ人間のあるべき姿はそこにあるんじゃないかという気がしています。変わってしまったのはわたしたち日本人。

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でも、日本で同じようなことをしていたら、お店としてはやっぱり成立するのは難しいかもしれません。ある程度は効率を求めないと利益を出すことがとても難しいのが現代の日本。いや、世界の都市部はすべてそうかもしれません。

コーヒーを1杯入れるのに10分もかけていたのでは、とても商売になりません。ボタンひとつで機械が勝手に淹れてくれるコーヒーを提供するほうが喜ばれます。

心を研ぎ澄まして淹れた1杯のコーヒーを欲する人はほとんどいません。いや、実際にはいるのでしょう。白金あたりにでも行けば。そういえば美味しいコーヒーを淹れてくれる鎌倉珈琲は、比較的いつ行っても席が空いていました。

駅前のスターバックスはいつも満席なのに。

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涙がでるくらい美味しいお茶をいれてくれる表参道の茶茶の間は、少し前に日替わりランチセットを止めてしまいました。日本茶ソムリエの和多田さんは、いつ行っても疲れた顔をしていました(そういう顔つきなのかもしれませんが)。

日本で丁寧に食べ物や飲み物を出すということは、1日に対応できる客数が限られてしまうということです。そのため、やや高めの値段設定にすることになりますが、それにも限度があります。

何よりも、待たされることにわたしたち日本人は慣れていません。仕事も生活も効率が求められ、スピードアップすることが良いことだと思いこんでいます。それに逆行しようとすると心がすり減ってしまいます。

わたしが機械設計の仕事をしていたときに、若手エンジニアから「仕事はスピードと正確さのどちらを優先すべきか」と聞かれたとき「どちらも手放してはいけない」とわたしは答えました。

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どちらもおろそかにしれないことが、日本のビジネスにおける成功への唯一の道です。仕事が丁寧でも遅い人、仕事が早くても雑な人。どちらも使えないやつの烙印を押されてしまいます。

でも……と思うわけです。

そういう社会だからそれに合わせなくてはいけませんが、もっとゆっくりでもいいのではないかと、花蓮に行ってからずっと思っています。とにかく丁寧にすること。

スピードを上げてもクオリティが変わらなければいいじゃないかと思うかもしれませんが、時間をかけないで作ったものには魂を込めることができません。本当に美味しいお茶、本当に美味しいご飯は、丁寧さの先にしかありません。

花蓮はきっと現代社会のスピードから、少し遅れてしまっているのかもしれません。最近は観光客も減って、衰退しているという話を聞いたことがありますが、そこで現代社会に迎合しない潔さをわたしは感じました。

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台北から特急列車で2時間30分。大理石の産地として知られているこの街は、かつての輝きはもうないのかもしれませんが、心の豊かさというものは間違いなくまだそこにあります。

仕事を丁寧に行い、毎日を丁寧に生きる。急ぐことなく、正しい方法でコツコツ積み重ねる。みんながそうだから、誰も急ぐ必要がないわけです。急がないことで心に余裕があるから、見ず知らずの日本人を車に乗せてくれたりするわけです。

同じような生き方を日本でするのはとても大変ですが、そうありたいという気持ちだけは忘れないようにしたいところです。美しい所作を大事にして、一つひとつを丁寧に積み重ねる。

それが出来るようになったとき、わたしも誰かに優しくなれるような気がします。

今日の1枚

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花蓮の街角 何もかもが美しい花蓮でしたが、マネキンが身にまとう衣類だけは「なぜそうなった?」と首をかしげたくなるものばかりでした。


利休にたずねよ
著者:山本 兼一
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