堂場瞬一『ヒート』速くなりたい強くなりたいランナーたちへ

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少し前に堂場瞬一さんの『チームⅡ』を読んだ話を書きましたが、結局あれからすぐに『ヒート』を買っちゃいました。いまは本屋さんに行かなくても電子書籍で買えるから便利です。

電子書籍の話は明日にでもするとして、『ヒート』です。

『チーム』は箱根駅伝を舞台とした小説で、『チームⅡ』はその箱根駅伝で同じチームだった仲間たちが再び集結します。そして『ヒート』は『チーム』と『チームⅡ』までの間のストーリーです。

本来なら『チーム→ヒート→チームⅡ』の順番で読むべきなのでしょうが、わたしは『チーム→チームⅡ→ヒート』の順で読むことになりました。

でもそれで正解だったような気がします。

ネタバレにならないように紹介すると、日本人最速のランナーである山城悟が、世界記録を出すために作られた東海道マラソンに出場するのがストーリーの大枠になります。

ただしこの山城悟がとにかく自己中心的なランナーで「出てくれ」と依頼されても簡単には首を縦に振りません。

それを説得しなくてはいけない神奈川県庁職員の音無太志の奮闘、そして東海道マラソンのペースランナーの依頼をされた現役のマラソンランナー甲本剛の葛藤が描かれています。

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どうしてこうも堂場瞬一さんの作品は心を熱くさせてくれるんでしょう。

山城悟がマラソンランナーのひとつの完成形を示し、不遇のランナーである甲本剛がマラソンを走るということの意味を、マラソンランナーとは何なのかを示してくれます。

マラソンランナーに必要なのは速さだけではなく強さも必要であり、そして速さと強さを兼ね備えた山城悟に対して、ペースランナーである甲本剛はどうやってランナーとしての自分のプライドを保つのか。

ランナーとはこうあるべき。そんなメッセージがこの小説には込められているような気がしてなりません。

ただの小説なのですよ、でも「ただの小説」では片付けられません。

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この小説の面白さは、マラソン大会を作るという視点からも書かれている点です。しかも普通のマラソン大会ではなく、世界記録を出すためのマラソン大会です。

世界記録を出すために完全無菌で過保護と言っていいほど、ランナーが走りやすいコースに仕上げていく音無太志の強い気持ち。揺らがないまっすぐな想いが多くの人を動かしていきます。

マラソンは何もランナーだけのものではないんです。

主催者もそうだし声援を送る人もそう。もちろんボランティアスタッフも。マラソンはみんなのもので、ランナーだけが主役なわけではありません。

でもそんなきれいごとも笑い飛ばす山城悟。やっぱりわたしは彼の考え方が好きです。

わたし自身は声援が力になるタイプですが、山城悟は「声援は邪魔」だと考えています。そして音無太志が作りあげた完全無菌のコースを「やりすぎ」とこき下ろす。

絶対に友だちになれなさそうなタイプなのに、山城悟を好きにならずにはいられません。

いや、もしかしたらわたしは傲慢なタイプの人間が好きなのかもしれません。自分にないものを持っているから、そこに憧れる。自分もそうありたいと感じて好きになってしまう。

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世の中に傲慢な人ってあまりいなくなりましたよね。わたしのように争いが嫌いって言い切る人間が言うのもなんですが、みんな丸くなって、自分の主張を無理に押し通そうとしなくなっています。

「いいから俺の言うことを聞け!」っていう人間。どこにいったんでしょうね?

いや本当に「お前が言うな」ですけど。

でもこんなわたしでも、ここ一番は「いいから俺の言うことを聞け!」なんですよ。まぁそれであからさまに嫌な顔をされたのが最近の出来事ですが。

「いいから俺の言うことを聞け!」を、わたしが多様しないのは争いが嫌いだから。でも大切なモノを守らなきゃいけないとき、何かを成し遂げなくてはいけないとき、争いは嫌いとか言ってられません。

そう思うとわたしの中に、もしかしたら山城悟がいるのかもしれません。傲慢でわがままで自己中で。まぁ中田英寿さんと同じく、村上龍さんに影響を受けたタイプですので、傲慢でわがままで自己中が深いところにあるのは否定しません。

ヒートまで読みましたので、ここまでくると、もうひとつの関連作品である『キング』も読まないわけにはいきません。きっと『キング』もわたしの魂を揺さぶってくれる1冊なのでしょう。

1kmをまともに走れるようになったらご褒美に『キング』を買おうかな。

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