なぜ出版社は再販制度をやめて本の価格を自由にできないのか

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昨日書いた記事でひとつ訂正があります。遠藤周作さんの「沈黙」が楽天koboで紙媒体よりも高値で売られているのは、楽天の都合ではなく、新潮文庫の価格設定がそうなっているそうです。

ですので映画で値上げしているというわけではなく、根本的に新潮文庫の書籍は楽天koboでだけ高値での販売になっています。憤りを感じるべきは楽天koboではなく新潮文庫に対してするべきことだったようです。

電子書籍の価格は誰が決めるべきか、電子書籍が販売され始めた当時からこれは大きな課題でした。

書籍の販売には「ホールセラー」と「エージェンシー」の2種類があり、ホールセラーは販売店が書籍を卸値で買い取り、それを自分で値段をつけて販売を行い、エージェンシーは出版社側が値段を決めて、販売店はその価格に従って販売を行います。

ホールセラーの場合は自由に値段をつけられますので、売れない本は安売りされ、人気のある本は高値で売られることになります。スーパーなどでお店に並んでいる野菜や果物と同じ感覚です。

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日本の紙媒体の書籍がエージェンシーモデルで販売されていることは、ほとんどの人が知っていると思います。日本の場合はこれを「再販制度(再販売価格維持制度)」と呼んでいると言えば聞き覚えくらいはあるかもしれません。

実はこの再販制度は1953年までは独占禁止法により禁止されていました。海外ではこのエージェンシーモデルは独占禁止法に違反しているとされているケースがあり、アメリカではAppleが電子書籍を販売するときにエージェンシーモデルを採用してアメリカの司法省が警告しました。

エージェンシーとは少し違うかもしれませんが、香港では小売店への販売価格の強制が違法になり、小売店はiPhoneを好きな値段で売っています。このことにより香港では日本よりもかなり割安でiPhoneを購入できます。

日本の書籍がなぜ再販制度を採用しているか、そしてなぜそれが独占禁止法にひっかからないかを詳しく説明すると話が長くなりすぎますので、簡単にまとめて紹介します。

再販制度で価格を統制することで、全国同一価格の安い価格で提供することができ、本の価格が不当に高くなることを防ぐというのが建前です。本の価格を自由にされると東京では安く買えるのに、輸送コストもあり沖縄では倍近い価格になることも考えられます。

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卸値が一定であれば、輸送コストが高い場所では本の価格が上がりますが、それでは売れないため輸送コストの一部は本屋が負担することになり、利益がほとんどでなくなり本屋が潰れてしまうということです。

本屋としても売れる本しか仕入れなくなり、売れる本と売れない本の差が開いてしまい、本屋に並ぶラインナップに偏りも出てしまう。それでは隠れた名作に出会える機会を損失してしまうことになります。

ご立派な考え方ですが、本音は既得権益を守りたいだけというのは明らかです。

もちろん作家の収入を守るという意味もあります。印税は書籍価格の10%ですから、1冊が500円で売られるのと、1000円で売られるのとでは印税が倍違います。(細かいことを言うと発行印税と売上印税の2種類ありますが、ここでは割愛します)

輸送コストの平等化は卸値で行えば本の値段が上りすぎるのを防ぐことができますし、本屋のラインナップは再販制度を行っているいまもすでに十分に偏っています。そしてamazonや電子書籍の影響もあり本屋はすでに次々と閉店しています。

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本屋が潰れてしまうのをamazonのせいだとする風潮がありますが、再販制度により本屋が工夫できる幅があまりにも狭すぎることが原因ではないかと、わたしは思います。

話を電子書籍に戻しましょう。新潮文庫はamazonのKindleでの販売をしています。楽天Koboとの価格の比較をしてみましょう。

Kindle(電子書籍):550円
amazon(紙媒体):594円 
楽天市場(紙媒体):594円
楽天Kobo(電子書籍):659円 

新潮文庫はKindleとはホールセラー契約を結んでいるため、Kindleが自由に値段設定をつけることができます。ところが楽天Koboとはおそらくエージェンシー契約を結んでいます。このため新潮文庫が自由に値段設定をすることができます。

楽天Koboの値段が高いのは楽天のせいではなく、新潮文庫のせいだということです。

ところが新潮文庫が価格を上げているのであれば、それは再販制度が独占禁止法に違反しない理由に反することになります。紙媒体と電子書籍はまったく別物だとすれば紙媒体と電子書籍の値段が違うというのはわかりますが、同じ電子書籍で価格が違うというのは再販制度の趣旨からずれています。

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Kindleで購入したものを楽天Koboで読めないのだからそれも別のものという考え方もあります。理屈はいくらでもこねることができます。

まさか天下の新潮文庫が違法になるようなことをしているわけがありませんので、法的な後ろ盾はきちんとあるのでしょうが、利用者側にすると「楽天Koboで読みたい人は他よりも高い金額を払え」と言われているようなものです。

紙媒体でも用意しているし、安く読みたかったらKindleで買えばいいじゃないか。それも正論です。ごもっともとしか言いようがありませんが、やっぱりスッキリとはしません。

新潮文庫はいったい何を守ろうとしているのでしょう。

おそらくこれからは出版社を頼らずに、自分で出版する作家さんが増えてくるはずです。KindleでもKoboでもAppleでも自分で出版することができ、印税なんて気にならないほどの利益を得ることができます。

既存の作家さんは義理もありますので、余程のチャレンジャーでないかぎり自分で出版することはありませんが、村上龍さんは村上龍電子本製作所というサイトを立ち上げ、自分の作品を電子書籍として売り出しています。

村上龍さんの場合は、ただの電子書籍ではなく映像と画像、そして音楽を融合させたまったく新しい電子書籍でしたので、KoboやKindleのさらに先を行っていますが。

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こういう体質を見ていると日本企業が世界から置いていかれている理由が見えてきます。まだ金儲けのためになんでもする企業の方が魅力があります。何かを守ることとだけに精一杯で足もとから崩れていくのをただ待つだけ。

そういう日本企業を見ているとなぜかとても悲しくなります。

もちろん新潮社が何もしていないわけではありません。新潮社のサイトでは「沈黙」についての遠藤周作さんの公演を期間限定で無料配信しています。素晴らしい取り組みだと思います。

それではこの無料配信をどれくらいの人が知っているのでしょう?

そろそろ出版業界は再販制度をやめたほうがいいのではないでしょうか。全国で平等に本を扱えるようにすると言っておきながら、小さな本屋には初版はほとんど回ってこず、来ても本当に少ない数しかこないそうです。

そうなればamazonで買ってしまいますし、本屋がそれぞれに特色を出していかなければ本屋は潰れるしかありません。

そういう本屋を守るために電子書籍の価格を上げても意味はありません。なぜなら電子書籍の最大手のKindleで安く売られているから本屋ではなくKindleで買うことになります。Kindleはスマホがあれば読むことができますから。

少なくとも電子書籍は再販制度にはマッチしていません。輸送コストもなく本の数も無制限です。販売側が値上げ販売する理由はどこにもなく、むしろ高値で売っているのは出版社です。筋も通りませんし、独占禁止法違反だと言い出す人がいてもおかしくありません。

何よりもKindleはホールセラーで販売しているのですから。

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電子書籍が高いから本屋で買おうと思う人も確かにいるはずです。でも小さな本屋では取扱がなかったりするわけです。みんな紀伊國屋書店のような大きい本屋さんに行くことになります。

「沈黙」の価格が楽天Koboだと高いというところから、話がまったく変わってしまいましたが、本が大好きな人間の一人として、現在の出版業界のしていること、置かれている環境をただただ悲しく思います。

今年は2冊の本を出版するつもりですが、どちらももちろん電子書籍です。出版社に義理もありませんし、そもそもわたしの文章力では既存の出版社からは出版できないでしょうから、時代の流れに乗ってしまおうと思います。

わたしがやろうとしているくらいですから、日本国中にそんなことを考えている人がいます。才能ある若手も出版社に頼らずに自力で飛び出していくでしょう。そうなったときに日本の出版社はどうやって生き残っていくのか。

「電子書籍よりも紙で買おうよ運動」でも行うのか。それとも時代の流れを作り出す新しい一手を打つのでしょうか。

新潮文庫の電子書籍が高いのは、時代の流れを作り出す新しい一手を打つための準備。これから新しい出版と本屋の形が増えていく。とりあえずそう思っておくことにします。


まちの本屋
著者:田口 幹人
楽天ブックス:まちの本屋 [ 田口幹人 ]

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