閉ざされていく世界の中で

こんなところで世界について嘆いたところで何も変わらないのですが、世界がどんどんと閉ざされていくのを感じ、嘆くしかできないことをまた嘆く。アメリカはWHOから脱退し、中国は香港に圧力をかける。そして世界の国は自国のことで精一杯。

鈍感なわたしでも、世界が悪い方向に向かっていることくらいわかります。アメリカがWHOを気に食わないから抜けたのではなく、もっと大きな筋書きがあって抜けたこと。あと30年待てば香港を中国側に取り込めるのに、いま焦って動くのにも筋書きがある。

その筋書きを考えただけでも憂鬱です。

アメリカも中国もほとんど痛みを負うことなく、新型コロナウイルスからの回復を狙っています。シンプルな話です。世界のどこかで中国とアメリカが大きなケンカをする。それが南シナ海なのか香港なのかはわかりません。どのような結果になっても、どちらの国にもメリットはあります。

いや、どちらの国の政権にとってもメリットがあります。

アメリカ国内で起きている騒動から考えても、そろそろ我慢の限界です。ミネアポリスで起きた事件は引き金に過ぎません。多くの黒人が新型コロナウイルスの対応に不満を持っており、恐怖を抱いて日々の生活を送っています。今回の事件がなくてもいずれ暴動は起きていたことでしょう。

日本はどうか?

暴動は起きていませんし、国民性を考えれば起きることもないでしょう。もう三島由紀夫は生まれません。ただし、この国の中に諍いは増えています。誰もが不満を持っていて、自分よりもいい思いをしている人に嫉妬する。その嫉妬を隠すために正義を振り上げる。

以前も話しましたが、正義を掲げて人を叩くのは正義のためではなく自分の嫉妬心を隠すためです。有名人に対する嫉妬、お金持ちに対する嫉妬、自分よりも上手くやっている人への嫉妬はこれからもどんどん膨れ上がります。そして正義のふりをして相手を潰す。

良いとか悪いとかいう話ではなく、日本は日本でもう戻れない道を歩んでいます。この筋書きがどこに向かうのかはわかりませんが、そこにユートピアがないことだけはわかります。弱者と弱者がぶつかり合う未来。それを眺める強者。

この国には希望がないと書いたのは作家の村上龍さん。残念ながら事態はそれよりも悪く、お金もなければ人を想う気持ちもない国になりつつあります。まだ希望だけがない国のほうがよかったかもしれません。憂いても何も変わりませんが。

こんな状況で自分がどうあるべきなのか。いつまでも安全圏で言葉を積み重ねるだけでいいのか。とはいえ表に出て戦う勇気もなく、旗を掲げるつもりもありません。44歳にもなれば自分の正義が他の人の正義でないことくらいわかりますし、争うことはわたしのやり方ではありません。

憂鬱です。

みんなが隣りにいる人に優しくあればいいだけなのに。手にしたパンを半分あげえればいいだけなのに。ごめんなさいと言えばいいだけなのに。すべてが逆の方に流れ、言葉は都合のいいように解釈をされてしまう。剣に勝てるペンなどありません。

世界は閉ざされていきます。これは新型コロナウイルスが広がり始めた頃から言ってきたことで、そしてその先には間違いなく争いがあります。そんな争いとは無縁の暮らしをしたいところですが、きっとそれは無理なのでしょう。

せめて心を失わないこと。わたしにできるのはそれだけ。できるだけ穏やかな心を保ちつつ誰も支援せず、何事もなくこの閉塞感が崩れていくのを祈るだけ。それができるだけの環境を整えておくことはできるかもしれません。

予知能力なんてものはありませんが、そう遠くないうちに閉ざされる速度が加速していくことくらいはわかります。アメリカと中国のトップが変わらない限り。そしてどちらにもつくことができない日本。そんな国で何もできない1人の物書きでいること。

突破口はどこにあるのだろうかと思いながら、虚しく叩き続けるキーボード。これがすべてわたしの妄想で済んでくれますように。

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