UberEatsの配達をしながら物語を作る

  • 2020.09.19
  • (更新日:2020.09.18)
  • LIFE
UberEatsの配達をしながら物語を作る

カツ丼と聞いて思い浮かぶのは、卵とじしたとんかつを丼ご飯に乗せた料理。おそらく99%以上の日本人がイメージを共有しているだろう。だが、カツが豚肉であるという約束は誰もしていない。牛カツだってあるし鶏カツだってあるのだから、実は選択肢は沢山ある。

親子丼というネーミングはもっと複雑だ。確かに卵は鶏から生まれるが、料理になった鶏と卵が本当の親子である可能性は限りなくゼロには近い。ほぼ間違いなく他人丼なわけだが、わたしたちは親子丼と認識している。鮭とイクラの親子丼も同じだ。

いや、鮭とイクラの親子丼なら本当に親子の可能性は高い。卵がを抱えた鮭が獲れて、それを使えば鮭とイクラは親子関係になる。

そんなどうでもいいことを考えながら、ゆっくりと自転車を漕ぐ。配達時間がまだ2〜3時間のうちは、そこそこ真面目なことを考えていたりするが、移動距離が積み重なっていくと、思考力が低下して、こんな訳のわからないことを考えてしまう。人間は追い込まれると本質が出ると、どこかの国の偉い人が言っていた。

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元気なときに何を考えているのか。目先でやらなくてはいけないことのプランニングをすることもあれば、ほとんど何も考えていないこともある。それでは少しもったいないので、物語を考えてみることにした。ピックアップしたお弁当を頼んだ人を勝手にイメージして、物語にしてみた。

ねぎしの牛タン弁当をピックアップしたときは、上京したばかりで仕事が上手くいかない若者をイメージした。見かねた上司がねぎしに連れて行っていき、いろいろアドバイスをしてもらう。それが転機となって、徐々に都会の生活にも馴染んでいけるようになったが、先日その上司が亡くなってしまう。

気力は底をついていたが、何か食べなくてはとウーバーイーツのアプリを開いたら、ねぎしの牛タン弁当が目に留まり注文した。上司に連れて行ってもらったときのことを思いだしたら、牛タンの味がちょっとだけしょっぱくなる(せつなすぎる)。

その数日後、会社で昔の自分のように壁にぶつかっている後輩を誘い出して、ねぎしに向かう彼……

こんな物語を思いかべたら、1秒でも早く届けたい気持ちになる。もちろん、現実に受け取る人はわたしの物語にはまったく関係ない。ただ、こうやって物語を作るのは、創作するときのトレーニングになるような気がして、昨日は脳が疲れるまで、それをやってみた。

わたしは想像力に欠けると思っていたが、意外と色々なストーリーが浮かんでくる。お弁当が2個だったら、どんな2人が頼んだのか想像してみる。恋人同士?親子?物語としては、”はじめまして”の関係なんかも面白い。はじめましての2人が向かい合って、ウーバーイーツで注文した天丼を食べる(なんてシュール)。

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スターバックスのコーヒーをピックアップしたときは、ありきたりすぎて流石に悩んだ。でも考えれば浮かんでくるもの。だって、物語に制約はないから、好きなように考えていいのだから。ただ、ちょっと変わったものの方が想像力が掻き立てられる。1個3000円するハンバーガーとか。

誰が何のために注文したのか。3人家族のお父さんが、1個3000円のハンバーガーを食べたことがあると嫁と娘にふと話してしまい、それはズルいから自分の小遣いで2人にハンバーガーを注文しろと迫られる。そのハンバーガーを食べたときに一緒にいたのが嫁の妹で、そのことについて、深掘りされると困るので素直に注文し……

これはもう想像というよりも妄想の世界。デリバリーを終えたら魔法が解けて現実に戻る。また妄想をしたくて、注文がありそうな場所へ移動する。ウーバーイーツにはこんな楽しみ方もある。物語をゼロから創造するのは苦手だけど、注文された料理とお客さんという縛りにより想像力は膨らんでいく。

面白いもので、繰り返しやっていると駄作になるものもできてしまう。映画のモノローグにでもなりそうなストーリーが浮かぶこともある。何が左右しているのかはわからないが、自分の才能の想像力はそう悲観的になるほどでもないのかもと思い始めている。

これまであまり妄想ごっこをしてこなかった弊害で、ストーリーを作るのが苦手という意識があり小説を書いてこなかったが(まったく書いてないわけでもない)、このまま鍛え続ければ、短編くらいなら書けるような気がする。なによりも、この配達を利用したストーリー作りが楽しすぎる。

いいストーリーが出来たら、近いうちにサラッと書いてみるとしよう。「UberEats短編集」。5冊くらいは売れるだろうか。

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