万里の長城マラソン2018PV撮影の旅〜再会と祝福の一歩先へ〜

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予定外にスケジュールが空いてしまった撮影3日目。

午前中は出発前に終わりきらなかった仕事を片付ける。どこにいても仕事ができるというのはメリットでもありデメリットだと思う。ただ、物書きが小さいディスプレイで作業をするのは無理がある。

いつもの倍くらいの時間をかけてできたものは駄文。帰国したら手直ししなくてはいけない。この作業環境というのはもう少し真面目に考えなくてはいけない。自分のブログやRUNNING STREET 365の記事ならいいのだが、依頼を受けている仕事だとそうはいかない。

外の天気は雨ということもあって、徐々に自分が苛ついてくるのがわかる。ただ、その理由は雨だけではない。この日の夜に会う人のことを思うと、心の奥がざらっとしてしまう。

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仕事を途中で切り上げて、わたしは雨が降り続く北京の街に繰り出した。撮影をするという目的だが、少し気分を変えなくてはいけない。まだ、自分自身をそう冷静に判断できる。

北京はあまり雨が降らない街だが、この日の雨はしつこく振り続ける。

雨だからこそ画になる映像が撮れる。そんな考えで街を歩いてみたが、PVで使えそうな映像はなかなか撮れない。偶発的なものを狙って撮るのはとても難しい。ましてやわたしは素人なのだから、アングルから撮影時間まですべてが直感。

雨が降っていることでひとつだけいいことがある。それは、人が少ないということ。中国には日本の10倍以上もの人が暮らしている。北京だけでも人口が2150万人いると言われている。

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その人たちが観光で北京の中心部にやってくるのだから、どこに行っても人だらけ。

雨のおかげで胡同には人気もなく、時間をかけて雰囲気のある映像を撮ることができる。腕がないのだから量でカバーするしかない。編集時に困らないようにたくさんのカットを撮影する。

とにかく材料を揃えなくては料理にはならない。プロのカメラマンの撮った最高の材料も、わたしのような庶民が撮ったサイドメニュー的な材料があって初めて引き立つ。

雨のせいで靴の中はずぶ濡れ状態だが、これはこれで悪くない。ホテルに引きこもって、駄文を積み重ねるよりはよっぽど健全だろう。美しくない文章ほどやりきれない気持ちにさせられるものはない。

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ある程度の撮影が終わったところで、一度ホテルに戻って気持ちを切り替える。

これから会いに行くのは、2年前の万里の長城マラソンPVで共演した女の子。デート気分かというとそうでもない。数週間前に知ったことだが、結婚したということ。

祝福の意味も込めて、会っておかなきゃと思ったのだが、わたしは彼女に少し惹かれている。男としてやはり悔しいような気持ちがないわけではない。もちろん嬉しいと感じる気持ちもちゃんとある。

どう考えても、わたしには彼女を幸せにしてあげることができない。

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いつだって気づくのは失ってから。これは恋だったんだろうなと。鈍感なのだろうか、失うまでは気づくことはない。ただの仲のいい友だちくらいの気持ちでいるが、ぽっかりと空いた穴に気づく。

今回は、スケジュールの都合も会ったので、会わないという選択肢も考えた。このままそっとフェードアウト。

でも、男にはやらなくてはいけないことがある。少しでも好きになったのであれば、これからも好きなままでいるために会う。これまで何度もやってきたこと。

幸運だったのは、彼女が旦那さんを連れてきてくれたということ。そしてわたしはその人が好きになったということ。もちろんそれは人間として。

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20代の後半くらいの年齢だろう。ちょうど日本のアニメやドラマを海賊版のDVDで買い漁っている世代。あまり知られていないが、10年前の中国では日本のドラマを放送日の翌日には観ることができた。

親切な誰かが中国語字幕までつけてDVDにして販売している。

今の若い世代はネット世代。日本のアニメくらいは観ることができるが、ドラマに関しては自国のものを楽しんでいる。わたしも華流ドラマは嫌いじゃない。語学勉強のために観ているが、あの空気感がたまらなく好きだ。

日本に憧れを持っていた最後の世代。今はもう日本に憧れている若者はいないだろう。行きたければ、観光で訪れることができる。国内旅行とは少し雰囲気が違っても、昔ほどの特別感はないだろう。

2人は英語が堪能で、わたしは片言の英語と片言のさらに半分以下の中国語。

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思った以上に会話が弾む。チョイスしてもらった雲南料理もわたしの好み。ピザか雲南料理を食べたいと依頼したのだが、ピザはなかったことのように却下された。

最近の北京はピザやイタリアンが美味しいらしい。ただ、日本人が来たのにイタリアンはないだろうという感覚なのかもしれない。それはまぁそうだろう。こういうときは自国の料理でもてなしたくなるものだ。

もちろん中国料理も好きなのだが、中国だからこそ中国料理以外を食べてみたくなるものだ。北京で無性に吉野家に行きたくなるような感覚。

ときどきまっすぐにこちらを見つめてくる彼女の視線にドキッとしてしまったが、会いに来て正解だったと思った。もしかしたら、今回の撮影の旅で最も重要なイベントだったかもしれない。

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中国人の結婚感や夫婦のあり方というのを、これからわたしは2人から知ることができる。そして、何よりも利害関係がないからこそ頼れる仲間ができたような感覚がある。もちろんわたしも2人に何かあれば全力で助けるだろう。

ただ、自分より若い2人にご馳走になるという感覚は、きっとこれからも慣れないだろう。今度は日本の美味しいものを山ほど持って会いに行こう。

「再见」そう言って2人と別れて、夜の北京を歩きだす。

会いに行く前の憂鬱さは、朝から降り続いていた夏の雨とともにきれいに消え去っていた。


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著者:江國 香織
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