秋の万里の長城マラソンを裸足で完全制覇!ハダシストの挑戦

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北京へのフライトのために羽田空港に向かっている途中に、お守りを忘れたことに気づきました。わたしは験担ぎのようなことは基本的にしないのですが、走るときにいつも身に着けているお守りがあります。

メンタルの問題だと思うのですが、これまでにお守りを忘れたレースはすべて散々な結果になっています。

とはいえ、時間がないのでお守りを取りに帰ることはできません。中国で買ったものですので、もう一度買い直すといのも考えましたが、それはまやかしでしかありません。お守りは気持ちが篭っているから意味があります。

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万里の長城マラソンが行われた10月22日の天候は曇り。前夜に降った雨の影響で路面は濡れています。さらに北京市街地はそれほど寒くなかったのですが、八達嶺古長城は冷たい風もあり凍えるような寒さ。

気温は10℃を大きく下回り、裸足で走る宣言をしていなかったら間違いなくシューズで走っています。スタート前から指先が凍傷のように冷えてしまいました。

周りからは「シューズ履けば?」と言われるものの、スタート前から目標を失うわけにはいきません。

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参加者は17人で、フルマラソンのエントリーは7人です。八達嶺古長城での過去の完走率はいずれも50%を切っていますので、単純に考えれば完走できるのは4人まで。

号砲とともに飛び出していくランナーたち。わたしはGPSウォッチのスイッチを入れ忘れたのと、荷物がまとまっていなかったこともあり、最後尾から歩くようにスタート。いきなり出鼻をくじかれました。

とはいえ焦る必要はありません。指先や足裏は冷たさでまったく感覚がありませんし、そもそも万里の長城マラソンはペースを抑える勇気が必要です。完走目標なら最後まで力を温存するくらいの慎重さが求められます。

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ところが先に行った参加者が全員コースをロストしてしまい、2km地点ではなぜかトップに立ちます。過去の大会でも何度か経験しましたが、コースを知っているというのはこういうときに強みです。

今回は中国共産党の党大会中の開催ということで、コース上にマラソン関係のものを一切設置していません。いつもならば、タワーごとにパネルを置いたりするのですが、マラソン大会をしていることを咎める人がいて、それによってレース途中に中止させられるのを防ぐための措置でしたが、それが完全に裏目に出てしまいました。

このため本来ならロストしない場所で、ロストさせてしまったことは運営側としての大きな反省点ではあります。この点に関しては、大会後に対策について本部との話し合いをしています。

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コースは標高644mからスタートして、標高1218mまでの3.5km登ります。最初の1.5kmは軽い上り坂のロードで、万里の長城に入ってから、2kmで500mくらいを一気に上がります。

上がったら次はそのまま下りです。勾配としてはこちらのほうが厳しく、滑って転んでしまう人もいるくらいの傾斜。毎年ケガ人が出ないのが不思議なレベルの坂道です。

フルマラソンは7kmで折り返してスタート地点に戻るのを3回繰り返します。単純に考えて574mの山を6回登山することになります。獲得高度は3200mを超えます。

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折り返し側の下り坂はシューズですとかなり滑るようですが、その部分では裸足のわたしはゆっくりでもしっかりと走れます。上りで離されて下りで追いつくという、普段のトレイルなどとは反対の展開です。

最後尾でスタートしたものの、10kmとハーフマラソンの選手をゆっくりとパスします。最初の折り返しの地点で、わたしの前にはフルマラソンの選手が4人、10kmの選手が1人でした。

まずまずの位置取りだと思いながら、折り返しの上りを進んでいるときに左足裏に異変を感じます。足が冷えて足裏はほとんど感覚がないので、軽い違和感なのですが念のためチェックしてみると、左足の拇指球部分の皮が500円玉のサイズで完全にめくれています。

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フルマラソンでも24時間でもそんなこと起こったことはありません。水ぶくれではなく、円形にきれいに皮がめくれて、本当に薄皮一枚でつながっている感じです。

幸い足裏には感覚がありませんので、無理やりそのまま走り続けます。ただ、お守りがないというのはこうも上手くいかないものかと、ネガティブな気持ちになってしまいました。もちろんお守りがあっても同じことが起きたのでしょうが。

最初の1本目は2時間50分くらいで戻ってきました。

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このコースをきちんと走ったのは初めてですので、この1周から残りのタイムを計算します。2本目は3時間20分、3本目は3時間50分で10時間以内のゴールが見えてきます。もちろん取らぬ狸のなんとかですが。

2本目往路の上りですでに足はパンパンです。気温がやや上がったこともあり、上着を脱ぎますが足の感覚はまだかなり鈍いまま。上着を脱いだことでランニングウェアの日の丸が目立ちます。

勝手に背負った日の丸だけど、日本人の意地を見せたくなります。

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この日はトレッキングイベントが開催されていたこともあり、コース上にはいつも以上に人がいます。特に欧米系の人が多く、裸足で走っていることに対しての声援をもらえます。もちろん中国人も応援してくれます。

誰もが驚きの目で見てくれ、声援を送ってくれる。これはやはり気持ちのいいものです。こういう瞬間には国境なんかなくなってしまいます。なんとか声援に応えようと必死に足を動かすことで、1歩1歩ゴールに近づきます。

ただし、2つ目の異変はまたしても復路の上りで発生しました。階段に右足をかけて力を入れた瞬間に、右足の太ももが攣ってしまいました。すぐに痛みを取り除くことができましたが、これで右足は使えなくなりました。

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そもそも左足首を傷めていたのもあり、右足に頼って走っていたツケが21kmを超えたところで発生。まだ21kmもあるという目を背けたくなるような事実。この日はとことんついていません。

右足に力を入れないようにするしかありませんので、リスクはあっても左足だけで走ります。ただ、この左足だけの走りがさらにわたしを追い込みます。

2本目の戻り直前でトイレに行ったあと、走り出そうとしたら路面に血が滲んでいます。そして左足拇指球の痛みがどんどんと大きくなります。

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恐る恐る足裏を見てみると、薄皮一枚でつながっていた皮膚がなくなっています。左足に頼りすぎて、走りながら完全に皮が剥けてしまったのでしょう。右足にも力を入れられないし、左足は着地するたびに激痛が走ります。

さらに、左足は石の階段でなんども指先をぶつけているため、出血としびれがあります。

2本目が終わったところで6時間13分。思ったよりも時間がかかってしまいました。それでも残り時間が3時間47分ありますので、極端にペースを落とさなければなんとか完走ができるような気がします。

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この時点ではまだ精神的な余裕がありました。3本目に入ったところで4位だった外国人ランナーをパスします。彼は上りが苦手で下りが早いタイプです。

わたし自身も1kmのタイムは明らかに落ちていましたが、3本目の往路の坂道は必死の形相で上がっていきます。ただし、力を入れられないことと激痛に変わりはありません。特に左足は真皮層が出ている状態ですので、小石を踏むと悶絶するレベルの痛みが発生します。

3本目往路の上りで4位に上がったものの、下りきったところで給水をしている間に、また抜かれてしまい5位に転落。ただし、折り返し地点では8時間5分でしたので、残り1時間55分。このまま行けば完走は見えてきます。

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万里の長城に入って最後の上り坂。これさえ乗り切ればあとは一気に下るだけなのに、10歩も上ると心拍数が一気に上がり、足が棒のようになってまったく動きません。半分までは気力で上りましたが、そこがわたしの限界でした。

足を動かそうとするものの、体が完全に拒否をします。痛みが大きくなりすぎて吐き気すらします。これでは完走どころか、ゴール地点に戻ることもできないと判断しました。

時間はないものの、わたしはその場で少し眠ります。眠ると言ってもほんの1〜2分くらい。上りに入ったところでまた4位になっていましたので、5位の選手が視界に入ってくるまで眠ります。

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正直、この時点では時間内での完走は諦めていました。生きて帰ることだけがわたしの目標に変わっています。ただ、5位の選手に抜かれたら、戻る気力すらなくなるような気がして、そこだけは意地で最上部を目指します。

とはいえ足は完全に動かなくなっていましたので、これ以上のロスは完全にタイムオーバーになります。脳内シミュレーションでは何度計算をしても時間内完走が見えてきません。

裸足で完走はできなくても、42.195kmを裸足で走れたならそれでいいじゃないかと、何度も何度も自分に言い聞かせて前に進むモチベーションにしていました。

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それでも万里の長城のトップに立った瞬間に再びわたしの勇気にスイッチが入りました。残り50分で下りきれば完走が見えてきます。

こうなるともはや痛いなんて言ってられません。足裏からの危険信号も、右太ももからの危険信号もすべて無視して、万里の長城を落ちるように下ります。それでも1kmに15分近くかかっていますが。

万里の長城を下りきって、残りはロードの1.5km。GPSウォッチは電池切れで残り時間がわからないので、ここも全力で下ります。走りながら自分の視界が真っ白になっていくのがわかります。

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きっと完走したら気を失って倒れるんだろうな。誰か助けてくれるかな。倒れて打ち上げに行けないのは悲しいな。そんなことを思いながらただひたすらに足を動かしていたのだけは覚えています。

ゴール10m手前、万里の長城マラソンPVで共演したボランティアスタッフでもあるMoxinが「Zhòngsōng!」と大きな声でわたしの中国語名を呼んでくれたことで、わたしは我に返りました。

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9時間49分23秒

気を失うことなく、わたしは自分の足で立って完走メダルを首にかけてもらい、数分後にやってきた5位の選手とお互いを称え合います。

ゴール直前の真っ白な空間、わたしは北方水滸伝でいう死域の状態に入っていたのでしょう。限界の向こう側の世界。

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万里の長城マラソンのスタート地点に立ったわたしと、ゴールをした時のわたし。場所は同じですが、まったく違う人間になったような気分でした。何か大きなものを乗り越えたような感覚。そして恐れるものは何もないという自信。

ハダシストとして、階段をひとつ上がったような気がします。

万里の長城マラソンに裸足で挑戦したのが2011年。そこから6年半が経過して、ようやくハダシストとしての誇りを手にすることができたような気がします。ずっと足りなかったパズルのピースが埋まったような感覚。

今回の経験はハダシストとしての自分のあり方に大きな影響を与えることになるような気がします。

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ただ、今回得たものによる代償は小さなものではありません。数日後に控えた金沢マラソン。今度は本当にスタートラインに立てないかもしれません。ただ、そこに焦りはありません。

なぜかどっしりと構えている自分がいます。これが限界を超えてたどり着いた境地なのでしょうか。

もっとも、まだここは通過点に過ぎません。理想の裸足ランニングを追求することにゴールはありません。いまは、再スタートのための一歩目を踏み出せる日を静かに待つ。そんな心境を楽しんでいます。


自分の限界を飛び越えるマインド・セッティング
著者:オリソン・マーデン
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