マラソングランドチャンピオンシップへの期待と不安

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東京オリンピックのマラソン日本代表を決める「マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)」の開催日とコースが発表されました。2019年9月15日ですので、あと1年3ヶ月後の開催。

マラソングランドチャンピオンシップは日本代表を決めるための一発勝負。これまで「過去の実績」や「勝負強さに期待」とか抽象的な理由で選考されることもありましたが、今回は完全に実力勝負です。

ただし、マラソングランドチャンピオンシップで選ばれるのは基本的には2人だけです。優勝した選手と、2位または3位の選手が選ばれるのですが、「2位または3位」というのがやや複雑です。

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自分なりに解釈したつもりでRUNNING STREET 365に書きましたが、完全に勘違いしていて修正しました。

男子の場合は2019年4月までにMGC派遣設定記録である2時間05分30秒を切る選手が出てきた場合は、その選手は3位以内で内定です。2人以上2時間05分30秒を切った場合は、より速いほうが優先されます。

つまり2時間05分30秒以内で走れる日本で1番速いランナーは、3位以内で内定というわけです。その選手が3位になった場合は、2位の選手がどれだけいい走りをしても内定されません。

金メダルを取れる可能性のある日本で1番速いランナーが選考落ちしないための配慮なのでしょう。これはこれで理にかなっています。現状では2時間05分30秒以内で走れる日本人選手がいないため該当する選手がいないのが残念ですが。

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ただここでひとつだけ複雑な状況が生まれます。例えばレース前に次のような状況だったとします。

重松貴志:2:05:29
設楽悠太:2:06:11
井上大仁:2:06:54

この場合、重松選手だけMGC派遣設定記録を突破しています。この状態でMGCの結果が次のようになったとします。

1位 設楽悠太
2位 井上大仁 
3位 重松貴志 

規定通りなら設楽選手と重松選手が内定です。誰も文句はないと思います。でもタイムがこうだったらどうでしょう?

1位 設楽悠太:2:02:56
2位 井上大仁:2:02:56(同タイム2位)
3位 重松貴志:2:07:10 

規定では「2017年8月1日~2019年4月30日までに開催される、国際陸上競技連盟が世界記録を公認する競技会において出した記録が対象」とありますので、MSGでいくらいいタイムを出しても井上選手は選ばれません。

井上選手は世界最高記録突破での2位でも、規定の期間外のレースですので関係ありません。MSGを終えて、あらゆる面で重松選手を圧倒的に上回っていても内定をもらえません。

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ちなみにもう1枠は2019年冬から2020年春にかけて実施されるMGCファイナルチャンレンジで、MGCファイナルチャレンジ派遣設定記録(2019年5月に決定)を上回り、最も速いタイムを出した人が選ばれます。

どうしてこういうことになったのでしょう?

陸連の意気込みはとても伝わってきますし、方向性は間違っていないと思います。でもこの疑問の残る選考基準と、なんといっても混乱を招くネーミングはやっぱり陸連は相変わらずだと思わずにいられません。

現実的には上のようなことはありえないとは思います。でも「金メダルを狙う」と言うのであれば「MGCで2人が世界最高記録を突破する」の可能性も考慮しておくべきです。すくなくとも文面上の選考基準としては。

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普通に考えればMGC派遣設定記録は2017年8月1日~2019年4月30日の期間だけでなく、MGCでの記録も対象としておけばいいだけだと思うのですが、なんらかの思惑があったのか、それとも思いつきもしなかったのか。

そもそも一発選考なのだから上位3名にすれば分かりやすいのですが、あれもこれも考えすぎて陸連内でもきちんと把握しきれなくなっているような気がします。レース当日のテレビ放送できちんと解説できる人がいるのか不安です。

HP上では「MGCファイナルチャレンジ派遣設定記録」を「MGC派遣設定記録」と記載するなど、混乱の一端を見ることができます。

マラソングランドチャンピオンシップ Official Site
http://www.mgc42195.jp 

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これとは別に、わたしはもうひとつ懸念事項があります。

それは東京オリンピックのマラソンが高い気温のなか開催されることが前提になっていることです。夏の東京ですので、普通に考えればかなりの気温になります。

でも、大会当日が大雨にならないという確証はありません。東京でも7月末で最低気温が20℃以下という日がありますし、強い雨が降るときもあります。

そういうときに川内優輝選手のような悪天候に強いランナーは本当に必要ないのかということです。今回の選考では基本的に速いランナーが選ばれます。タイム重視ですので正直なところ川内優輝選手はやや不利です。

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何よりも川内さん自身が暑さが苦手だからという理由で乗り気ではありません。

でもボストンマラソンのような大荒れの天気になったら圧倒的な力を発揮します。川内選手を優遇するわけにはいかないので仕方ないことではあるのですが、すべての前提が夏の暑い日となっているところに危うさを感じます。

陸連も選手も全員が「暑くなる」を前提にしているというのは危機感がなさすぎるというか、危機管理がなっていないように感じるのはわたしだけでしょうか(きっと暑くなるんでしょうが)。

マラソングランドチャンピオンシップはいまのところかなり良いスパイラルを生み出していますが、トータルのところでリスク管理や想像力が欠如しているような危うさを感じます。

これだけ準備しておいて、「想定外の大雨で体が冷えて結果が出なかった」では笑うに笑えません。

もっとも観戦する側のわたしにしてみれば、それも含めてただの酒の肴にするだけなので、完璧よりもこれくらい欠けているほうが面白いのでいいのですが。


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