「マラソンは退屈」だがそれがいい!

「マラソンは退屈」だがそれがいい!

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金曜日のダウンタウンなうで、マラソンの大迫傑選手が登場し、いろいろと話題になっています。わたしはそれを見ていなかったので、その話題についていくことができません。

ただ、その中に「マラソンは退屈」という発言がありました。これはとても興味深いことです。

かつて高橋尚子さんは、シドニーオリンピックのあとに「すごく楽しい、 42キロでした」と語りました。42キロという距離をどう感じるのか、それは選手によって違い、速さとはそれほど関係ないということが分かります。

ただ、この大迫選手の退屈という発言には、やはりナイキのヴェイパーフライが影響しているのではないかと思います。このシューズは正しい走り方で走り続けることを求められます。

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このため、シューズが出たばかりの頃は、多くの選手がフォームばかり気にしているように感じました。

最近の走りは知りませんが、おそらくもうフォームは固まっているはずですので、走りが安定しだしたら、とにかくすることがないのでしょう。設定したペースを守って走り続けるだけ。いや、足を動かし続けるだけ。

ヴェイパーフライ発売以降のマラソンには駆け引きがほとんどありません。無理に誰かについていくと、正しいフォームで走れなくなり、結果的に失速することになるからです。

今のマラソンはとても科学的です。気合や根性というものだけで何とかなるものではありません。もちろん、根性は大事かもしれませんが、つらいのを我慢する力だよりも、頑張りすぎないように自分をコントロールする力が求められます。

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飛び出したいけど飛び出さない。「今日は調子いい」なんて勘違いしない。自分を律する力。

これはトップランナーだけでなく、わたしたち市民ランナーにも同じことがいえます。いや、市民ランナーの弱さの原因はむしろそこにあります。自分で決めた設定タイムで走りきれない弱さ。

1キロを5分で走ると決めたら、5分を貫くことが大事です。

設定タイムというのは、ほとんどのケースで無理なく出せるスピードです。だから、余裕があるため「少しでも前半で貯金を作りたい」と考えて、少しだけ飛ばしてしまう。1キロで5秒速いとトータルで3分30秒も速いわけです。

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よほどコンディションが良くない限り、それでは間違いなく潰れます。

そもそもの設定タイムも自己ベスト更新を狙っているわけですから、無理があるのにそこに無理を重ねるとどうなるかは言うまでもありません。最初に決めたタイムで黙々と走る。これがマラソンの正解です(少なくともいまのところは)。

だから、いいタイムで走ろうと思うと基本的には退屈です。

わたしはフルマラソンを3分割して考えています。その日の調子を確認して、スピードを決めるのが最初の14km。そのペースをただひたすらに守るのが次の14km。残りの14kmは気合と根性でペースを落とさないようにします。

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この中盤の14kmがとにかく退屈です。退屈だから音楽を聞きながら走ることもあります。最近は「考えない」ということを覚えたので、できるだけ風や空気を感じながら走ることもあります。

最初は「考えないこと」に慣れませんでしたが、最近はいい感じに集中できて、むしろ音楽なしで走ることのほうが増えてきました。練習中も半分は音楽を聞きながらで、残り半分は無音にします。

そうすると、これまで見てなかったものが目に入ったり、季節の空気を感じられたりと、退屈なりに楽しめるようになってきました。「そこには何もない。だがそれがいい」というわけです。

忙しい毎日を過ごす中で、何も考えない時間を持つことはとても贅沢なことです。

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わたしは小さな頃から常に何かをしているタイプでしたので、「暇」ということをあまり口にした覚えがありません。もちろん覚えていないだけで、言っていたとは思いますが。

そして今は、起きている時間はほぼ仕事という状態ですので、何も考えないでいいというのは本当に貴重な時間です。わたしが毎日走り続けているのも、その貴重な時間が気に入っているからです。

マラソンに何を求めるかなんて人によって違うと思います。わたしはマラソン大会を走りたいという気持ちがだいぶ薄くなっていますが、同年代でも「自己ベスト更新!」と気合が入っている人もいるはずです。

どういう向き合い方をしてもいいのですが、「退屈なのが心地良い」「退屈だから走る」と言えるようになると、走りの質が少し変わるんじゃないかなと思っています。大迫選手は退屈が好きではなさそうですが。

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若い人が「退屈が好き」なんて言っていたら、ちょっとそれはそれで問題かと思います。でも、走り続けていたらどこかで「退屈もまたいいもの」と言うかもしれません。

もっとも彼がフルマラソンを走る時間はたったの2時間。わたしは裸足でペタペタ5時間。同じ道を走っても違う競技みたいなものです。感じることが違って当然です。

わたしがフルマラソンを楽しく感じられるようになったのは、フルマラソンを裸足でゆっくり走るようになってから。それまでは修行僧のように、ただ苦しむために走っていました。

もうそういう走り方をすることはないかと思いますが、そのときの自分があるから今の自分がいるわけです。人生に意味のない時間なんてありません。だからマラソンの退屈な時間にも意味があるとわたしは信じています。


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著者:峯田 和伸
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