さいたま国際マラソンが終了になる理由と今後の展望について考えてみた

昨日のニュースで、今年のさいたま国際マラソンが開催されないということを知りました。facebookやtwitterなどのSNSでも話題になっていて、それなりに衝撃的な展開というか、もしかしたらマラソン業界において2020年最大のニュースになるかもしれません。

ただ、受け取り方は「やっぱりな」という人もいれば「残念で仕方ない」という人に分かれています。この大会は女子日本代表の選考レースにもなっているので、ランナーごとに大会の見え方がまったく違います。

そこで、ここでは大枠としてさいたま国際マラソンが終わることについてまとめつつ、今後の展望なども予想していこうかと思います。

目次

さいたま国際マラソンのはじまり

さいたま国際マラソンの終了について話をするときに、まずはなぜ始まったのかについて話をしておく必要があります。さいたま国際マラソンは横浜国際女子マラソンの後継大会として2015年に開催されました。

その横浜国際女子マラソンも東京国際女子マラソンの後継大会として始まりましたが、財政難を理由に2014年の第6回大会を最後に終了しています。

東京国際女子マラソンが終了したのは、東京マラソンの影響です。年に2回も東京の主要道路を止めて警備するのは無理だということで、押し出された形になります。そのときに手を挙げたのが横浜だったので、経済的負担が大きすぎて継続ができなくなったわけです。

そのタイミングでさいたま市が既存の大会のフルマラソン化を検討していたので、市民マラソンと同時開催という形で横浜国際マラソンの後継大会の開催に手を挙げます。これがさいたま国際マラソンのはじまりです。

時代の流れに合わなくなったさいたま国際マラソン

さいたま国際マラソンが始まった2015年、マラソンそのものは高速化が始まっていましたが、まだタイムよりも順位を重視される時代でした。マラソンはコースごとに特性があり、開催時期によってもタイムが違うのだから「レースで勝つこと」が、1番重要でした。

ところがナイキがヴェイパーフライを出したくらいから、流れが一気に変わってしまいます。世の中は順位よりもタイムを重視し始めます。日本記録や世界記録を更新しない優勝よりも、記録を更新することを重視しはじめます。

そうなってくると、アップダウンのあるさいたま国際マラソンは、マラソンで食べている選手にとっては「出たくない大会」になります。

昨年話題になったMGCですが、女子が出場するときのタイム設定は次のようになっていました。

さいたま国際マラソン(11月開催)
日本人3位以内・2:29:00以内
日本人6位以内・2:28:00以内

大阪国際女子マラソン(1月開催)
日本人3位以内・2:28:00以内
日本人6位以内・2:27:00以内

名古屋ウィメンズマラソン(2月開催)
日本人3位以内・2:28:00以内
日本人6位以内・2:27:00以内

北海道マラソン(8月開催)
日本人1位・2:32:00以内
日本人6位以内・2:30:00以内

さいたま国際マラソンだけは1分ほど設定タイムが緩くなっていました。条件が良いじゃないかと思うかもしれませんが、1kmあたりで見ると1.4秒しか余裕がありません。しかも11月開催ですので、他の大会よりも気温が高いので普通に考えれば2〜4分は遅くなります。

これでは誰もさいたま国際マラソンには出たくないですよね。しかも、現在行われているMGCファイナルチャレンジでは、さいたま国際マラソンのアドバンテージはありません。どの大会でも2時間22分22秒を切ることが必須条件です。

MGCそのものは面白いシステムですが、これでは完全にさいたま国際マラソンが割りを食った形になります。勝つことよりもタイムを重視される時代になったことで、タイムが出にくいさいたま国際マラソンは存在意義を失ってしまいました。

そもそも5年契約だったのではないかという憶測

タイムが出ないから有力選手が出ない。当然の結果ですが、そんな大会を5年間も継続してきました。開催すればするほど女子の選考レースとしての注目度が下がっていくのは、2〜3年前にすでにわかっていたことです。

その時点で止めなかったのは、手を挙げたときに「5年間は開催する」という約束だったのではないかということが、容易に想像がつきます。日本陸連にしてみても、開催してすぐにやめられたのでは面子が立ちません。

さいたま市にしてみれば、5年の間に収益があがる大会になれば継続、損失が大きいなら撤退というのは決まっていたのでしょう。そして市民マラソンと組み合わせたものの、7億円の費用をペイできるほどの経済効果がなかったのでやめると決めたというのが想定できる筋書きです。

ただ、市民マラソンとしては継続を考えているということなので、女子マラソンを切れば経済効果も考えると成り立つということなのでしょう。注目もされずお金ばかりかかる女子マラソンだけを終わらせる。

税金を投入している以上、シビアになるのは仕方のないことです。5年間でこんなにもマラソンのあり方が変わるなんて、誰も想定していませんでした。よく5年間も耐えてくれたものです。ただ、こうなってくると、もうどこも「次はうちが」とは言えません。

大阪国際女子マラソンや名古屋ウィメンズマラソンに対抗できるほどの、高速コースを用意できる地域はほとんどありません。このままタイム重視が続くのであれば、さいたま国際マラソンを引き継がれることなく、消えてしまうのでしょう。

市民マラソンとしてのさいたま国際マラソン

さいたま国際マラソンは、市民マラソンとして2021年からの開催を目指すとしています。このとき、さいたま国際マラソンの名前やコースを引き継ぐのか、それとも心機一転やり直すのかはまだ見えていません。

2万人も走る大会ですし、そもそもフルマラソンを開催したかったという想いがあるので「継続したい」というのが基本的な考え方なのでしょう。

でも実際に市民ランナーとして出場した人からすれば、「継続する意味はあるのか?」と疑問に感じているかもしれません。さいたま国際マラソンは決して人気の高い大会ではありませんし、参加者からの評価もよくありません。

もちろんある程度のニーズはあります。

  • 関東圏なら日帰りで参加できる
  • 人気がないので確実に走れる
  • 大規模マラソンならではの活気がある

運営の良し悪しをあまり気にしない。マラソンなんて走れればそれでいいという人にしてみれば、さいたま国際マラソンは手軽に参加できるという意味で、決して存在意義がないわけではありません。

でも経済効果を考えると、さいたま市にはあまり大きなメリットがありません。宿泊者はそれほど多くありませんし、前日受付もなくなったので人の流れが半分に減っています。第3回大会では経済波及効果が41.8億円あったそうですが、さいたま市の支出は2.5億円です。横浜マラソンは1億円の支出で52.8億円の経済波及効果がありました。

横浜は観光地としての魅力もあり、海外からの参加者が期待できます。さらにレース後に中華街などで食事をして帰るランナーもいます。さいたま新都心で開催されるさいたま国際マラソンではそのような人の流れが期待できません。

費用対効果がよくないうえに、インターネット上では酷評される。もちろん、酷評されるのには理由がありますが、「税金を使ってまで本当に続ける意味があるのか?」と、ランナー以外の市民にしてみれば疑問を感じるでしょう。

ここが撤退しどき。そういう意見が出て当然です。

さいたま国際マラソンはこれからどうなっていくのか

まず女子マラソンですが、おそらく後継となる大会は出てこないでしょう。あるとしたら、既存の大会と同時開催となりますが、かかる費用を考えたときにデメリットしかないことは、今回の件で明確になりました。

横浜市とさいたま市が上手くできなかったことを「うちなら大丈夫」なんて言える自治体があるとは思えません。湘南国際マラソンくらいなら、受け入れできそうですが、すでに成功している湘南国際マラソンが手を挙げるとは思えません。

女子の大会としては後継はなく、おそらく東京マラソンが女子の選考レースのひとつに組み込まれるというのが自然な流れです。東京マラソンによって追い出された大会が、東京マラソンに統合されるということに主催者である新聞社が納得できるかどうかですが。

市民マラソンとしては、継続という形で進むはずです。問題はここで大きく変われるかどうかという点です。コースは基本的にこれまでのものを踏襲するはずです。走りやすいコースにできるなら女子マラソンをやめる必要がありません。

多少のコース変更はあたっとして、それでどうやって参加者の満足度を上げていくのか。そして地元の人たちの理解を得るために何ができるのか。継続するにしても課題は山積みです。はっきり言えば撤退したほうが楽です。

さいたま国際マラソンの存在意義から考え直さなくてはいけない。だから2020年は市民マラソンとしての開催もしないという選択だったのでしょう。そういう意味ではリニューアルされるさいたま国際マラソンには少し期待しています。

もちろん完全撤退も想定しておきますが、それはそれで仕方のないこと。ランナーの支持を得られない大会が、淘汰されていくのは自然の摂理です。個人的にはまた4時間制限の大会にしてもらいたいところですけどね。

大田原マラソンが休止に入ったので、関東では4時間制限の大会がなくなってしまいました。市民ランナーが「この大会に出られるようにがんばる」と目標にできる大会がひとつでもあれば、市民マラソンに新しい風が吹くのですが……期待し過ぎはやめておきます。

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