日本人がマラソンで世界のトップランナーと競い合える日が来るのか【2時間4分台は出せるのか】

東京マラソンでの日本記録更新を目指している設楽悠太選手。「4分台で走らないと、五輪で走る資格はないと思っている」との発言で話題になりましたが、それくらいで走れないとトップ争いに絡めないし、トップと競い合えないのでは出場する意味がないと考えているのでしょう。

これを聞いて正直「若いな」と感じましたが、やっぱり彼らは勝つためにマラソンをしているのであり、そういう負けず嫌いなところ、勝ちにこだわるところが、あのレベルにまで押し上げる原動力になったんだろうなとは思います。

ただ、本当に日本人がまたマラソンで世界のトップランナーと競い合える日がやってくるのかという視点でお話をしていこうと思います。

目次

日本人ランナーのレベルは上がっているが

世界のトップランナーが2時間切りを目指しているため、2時間5分台を目指している日本人ランナーは、世界と比べてレベルが低いように思いがちですが、少なくとも全体的なレベルはすでにかなり高いところにあります。

日本人のフルマラソン歴代トップ10の中に、MGC出場者が5人も含まれています。これだけ見ても、かつてないハイレベルな戦いが繰り広げられており、そして日本歴代8位の服部勇馬選手と歴代27位の中村匠吾選手が東京オリンピックの出場権を得ていることからも、誰もが抜け出せる力を持っていることがわかります。

ところが大迫選手の記録でも世界歴代でいえば97位で、おそらく今年のうちに100位以下に落ちてしまいます。もちろん、上位の選手すべてが現役というわけではありませんが、世界には2時間5分台の選手がゴロゴロいます。

日本人ランナーのレベルが上っているよりも速いスピードで、ケニアやエチオピアのランナーのレベルも上がっています。そしてあまり語られないことですが、次々と新しい選手が次世代のエースになるべくしのぎを削っています。

そうなってくると日本のレベルアップがどうしても霞んでしまいます。

日本人に2時間4分台は出せるのか

世界的にも日本のマラソンはかなりレベルが高い位置にありますが、それでも世界の第3グループに入るかどうかという位置づけです。2時間3分台で走れるトップグループと、2時間4分台で走れる第2グループ。そして2時間5〜6分台で走れる第3グループです。

日本人で2時間7分以内の記録を持っているのは、大迫選手、設楽悠太選手、井上選手の3人だけですが、そう遠くないうちに2時間6分台を出せる選手が数人出てくるはずです。ただ、それにしても世界の第3グループでしかありません。

第3グループで絶対に勝てないかというとそうでもありません。数年前のボストンマラソンのように悪天候が絡むと、川内選手のように優勝できるチャンスはあります。でも、それは運の要素が大きく、勝てる確率でいえばかなり低いのが現実。

では、日本人に2時間4分台が出せるのか。

結論からいえば、そういう選手が出てくれば出せるかと思いますが、大迫選手や設楽選手、井上選手たちの世代でそこまで手が届くかというと、そんなに甘い世界ではないかと思います。いくらヴェイパーフライNEXT%が優れたランニングシューズだったとしても。

ケニアとエチオピアとは選手層が違う

ランナーの数だけなら日本はケニアやエチオピアよりも勝っています。ただ、ケニアとエチオピアはマラソンランナーという職業があります。日本にも実業団がありますし、プロランナーも最近が増えています。

でも、若いうちから「マラソンランナーとして稼ごう」という考えを持った子どもはほとんどいません。サッカーや野球なら「世界で活躍して」みたいな子どもがたくさんいるのに、マラソンはそういうタイプのスポーツではありません。

なので、身体能力が優れた選手は、マラソンではなく別の競技を選びます。日本において陸上競技は数あるスポーツの中のひとつでしかなく、そして人気があるスポーツという位置づけではありません。どちらかといえばマイナー競技です。

ところがケニアとエチオピアでは、人生を大逆転するためにマラソンがあります。マラソン選手として結果を出せば、家族や親族を養うことができます。これらのくにではマラソンに夢があるので、それなりに走れる子どもはランナーを目指します。

わたしはこの構図の違いが、日本とアフリカ勢との大きな違いだと思っています。日本人に2時間4分台が出せないわけではないけど、その素質を持った人がマラソンを選んでいないというのが現実なのではないでしょうか。

次の世代へと繋げるための過渡期

日本人が世界で戦えなくなったのは、その素質を持った選手がマラソン以外のことをしているから。だとすれば世界と戦えるようになるのは簡単です。マラソンに夢があればいいわけです。日本記録更新で1億円というのはわかりやすい夢です。

さらに、プロランナーとして世界を転戦して稼げるランナーが出てくれば、それを見た次の世代が「自分もやってみたい」とマラソンを選ぶ可能性があります。そういう意味で、設楽選手が来年以降に海外挑戦するというのは期待できます。

彼への期待もありますが、次の世代へと繋がっていく架け橋になるから。

すでに大迫選手はそういう状態にあり、日本の実業団という枠組みから飛び出す選手が増えつつあります。世界の高いレベルに身をおいて、さらに成長しようという選手が増えて、その中から徐々に結果を出す選手が出てくるはずです。

そうなったときに、日本でもマラソン選手という職業が生まれます。それが認知されだした頃、2時間4分台で走れる選手が現れるのだと思います。そういう意味では現在は次の世代に繋ぐための過渡期です。

10年後、20年後には日本人でもあたり前に2時間4分台で走っているはずです。トップレベルの海外選手もレベルアップしているとは思いますが、それでも2時間3分台に数人いるくらいでしょうから、同じ土俵には立てます。

期待はしないが2時間4分台を見てみたい

マラソンファンとしてはやはり、生きている間に2時間4分台で走る日本人ランナーを見てみたいという気持ちはあります。でも、そんなに簡単に出せる記録ではありません。東京マラソンで……みたいな雰囲気になっていますが、東京マラソンはその記録を出すのには向いていません。

せめて2月開催だったらと思うのですが、今年の暖冬がこのまま続いたとしたら東京マラソンの日はかなり気温が上がってしまいます。最高気温が10℃を超えるようなことになると、まず無理でしょう。

それでもきっと設楽選手は2時間4分台のペースで飛び出して、MGCのときのように失速する(失速しての日本記録更新はありえる)。そんな未来予想図しか見えませんが、挑戦した者にしかご褒美が与えられないのがマラソンというスポーツです。

東京マラソンはかなり盛り上がるレースになるはずです。ただ、2時間4分台は厳しいかなとは思います。

日本記録が立て続けに塗り替えられたこととシューズが進化していることで、日本記録更新が簡単なことのようにメディアで語られています。でもそんな簡単に超えていけないから日本記録なわけです。それをさらに1分近くも更新できるかどうか、常識的に考えれば「否」です。

ただ、まれに常識を軽々と超えていく人がいます。そいうランナーが出てくることを人生の楽しみにしておきます。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次