アディダスのアディゼロ プロ(adizero Pro)はナイキのヴェイパーフライを超えるのか

RUNNING STREET 365でアディゼロプロの紹介をしましたが、そのときに書ききれなかったことを、こちらのブログで書いておこうと思います。裏話とかではなく、情報過多になりそうだったので。アディダスの紹介記事だったので、ヴェイパーフライという名前を出さないようにしたのもあります。

アディゼロプロがどのようなランニングシューズで、ナイキのヴェイパーフライと何が違うのか。気になる人も多いかと思いますので、発売前のレビューという形でお話しします。

目次

アディゼロプロはエリートランナー向けのシューズ

ナイキのヴェイパーフライは、誰が履いても速く走れると言います。実際にそのような実験データもありますし、zoomXフォームを採用することで筋肉への負担が小さくなっているのでしょう。だから、サブ5レベルでも財布が許すなら買ってもいいかと思っています(歩いてしまうレベルだと不要です)。

一方のアディゼロプロですが、こちらはエリートランナー向けの1足です。キロ3分台前半を苦もなく出せるレベルのランナー、もしくはサブ3を狙うランナー向けのランニングシューズです。試走したときに、他のランナーが「履きこなせない」と口を揃えていたことからも、履く人を選ぶシューズであることがわかります。

わたしは「こんな素晴らしいシューズは初めて」と楽しんでいましたが、神宮外苑のコースで試走を行い、2周目を走ったのはわたしだけでした。そのときのメンバーの走力がそれほど高くなかったのもありますが、アディゼロプロに対する評価もいまいちで、わたしだけテンションが上がっていました。

キロ5分程度ではこのランニングシューズのポテンシャルは引き出せません。スピードが落ちれば落ちるほど、推進力が目に見えて下がり、ジョグペースならアディゼロジャパンやボストンのほうが快適です。このランニングシューズは速く走るためだけに作られた製品で、誰にでも合うわけではない。

まずはその部分を頭に入れておいてください。

スピードを出しすぎてしまうリスクがある

アディゼロプロはランナーを選ぶシューズです。無駄を削ぎ落としているので、最低限の安定感しかありません。でも、1歩で簡単に加速します。足の回転数が上がり、歩幅も広くなるので飛ぶように走れる1足でもあります。しかも軽やかに。

ただスピードが出るというのは、マラソンにおいて必ずしも良いことばかりではありません。自分の走力をきちんと見極めないと簡単にオーバーペースになって、レース後半に失速してしまいます。

同じように速さを追求した匠シリーズがいい例です。軽くて力強い走りをできるアディゼロタクミですが、十分な筋力がないと、関節まわりの筋肉が耐えられなくなって故障します。

アディゼロプロの場合は、アディゼロタクミよりもクッション性があり、地面を蹴る必要がないので筋肉へのダメージが少なめですが、心肺機能がついてこなくなります。血中の酸素濃度が足りなくなって、失速するイメージです。同じ速く走るシューズですが、アディゼロタクミとは方向性がまったく違うシューズです。

アディゼロタクミ:地面を蹴って加速する
アディゼロプロ:ランニングエコノミーを向上させる

こんなところでしょうか。

初代ヴェイパーフライ4%と同等という位置づけ

わたしが履いたときには、「ようやく初代ヴェイパーフライ4%に並んだレベル」アディダス社内ではという認識でした。そこから最適化のためにチューニングがされているので、そのレベルを超えたくらいかもしれません。最新のナイキのシューズには劣るかなという位置づけ。

ただ、ここまでくるとほとんど誤差のレベルです。実際に世界記録を作ったのはヴェイパーフライ4%です。NEXT%でも記録が次々と塗り替えられていますが、これは単純に履く人が増えただけのことです。NEXT%という名前になったのも、人によっては劇的な変化が見られなかったからという話もあります。

アルファフライも見た目が凄いことになっていますが、ヴェイパーフライ4%を凌駕することはありません。個人的にはヴェイパーフライ4%よりも劣る可能性もあると考えています。これは勘でしかありませんが、エアユニットは多分失敗します。

その話はいずれするとして、アディゼロプロは間違いなくヴェイパーフライと競い合えるシューズです。それは福岡国際マラソンで、優勝したモロッコのダザ選手が証明しました。

4センチ規制の影響を受けているかどうか

アディゼロプロだけの不安ではなく、アルファフライも同じ不安を抱えている可能性があります。それはヴェイパーフライ問題の着地点となった、ソール材の厚み4cm以下、カーボンプレートは1枚までという規制です。

アディダスもナイキも、規制には引っ掛からず「オリンピックで履ける」としています。

当たり前のことですが、どちらのメーカーもいくつかのパターンを用意していたはずです。だから、わたしやダザ選手が履いたプロトタイプが製品版とまったく同じとは限りません。アルファフライだって、キプチョゲが2時間切りをしたモデルから変更があるはずです。

開発されてからできた規制なので、完全なチューニングができていない可能性があります。もちろん、各社の開発状況も考慮して決められた規制かもしれませんが、考慮されておらず、プロトタイプがに何らかの影響を与えていないとも言い切れません。

なので、いずれも実際に製品版を履いてみないことにはなんとも言い切れない部分が残っています。本当にメーカーが作りたかったものにどれだけ近づけているか。これがひとつの鍵になるはずです。

売れるかどうかはマーケティング次第

アディダスにとって、アディゼロプロは売れるシューズではありません。販売目標は確認していませんが、売りたいのはアディゼロジャパンであり、ボストンです。アディゼロプロはフラグシップですが「これだけの技術がある」と伝われば十分なのでしょう。

ナイキもそのつもりでヴェイパーフライを出したのでしょうから、アディゼロプロも流行る可能性がゼロではありません。ただ、すでにナイキに持っていかれたシェアを取り戻すのは容易ではありません。ポテンシャルの高いランナーをどれだけ抱えているかも影響します。

結局のところ、シェアを取り戻すには結果を出すしかありません。アディゼロプロを履いた選手が、ヴェイパーフライを履いた選手に勝つ。世界記録を塗り替える。これが絶対条件になります。ただ、マラソンはランニングシューズが走るわけでなく、ランナーが走ります。

だから、これから2年でピークを迎えて、世界記録を狙えるランナーをどれだけアディダスが抱えているかが、アディダスの反撃の鍵を握ります。言葉にするのは簡単ですが、世界記録を出せる選手がそう何人もいるわけがありません。そして、現実としてトップレベルはナイキばかり。

これはシューズの良し悪しの問題ではなくマーケティングの話になってきます。アディダスが「勝つ」以外の形でのマーケティングを用意してないとするなら、ナイキの天下はしばらく続くでしょう。でも、それ以外に何かを持っているなら……。

いずれにしても、ランニングシューズの開発競争はアディゼロプロの登場により第2ラウンドが始まりました。おそらく他社も何らかのシューズを春までに揃えてくるはずです。ランニングシューズ好きとしてはワクワクが止まりません。

1足くらいどれか買おうかな……そうなるとアディゼロプロか。でもこれでサブ3を達成してもなぁと思ったり。セルビアでサブ3を達成したら、ご褒美に購入というのがいいかな。サブ3を達成したら次世代シューズに手を出すとしましょう。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次