ナイキ ペガサスターボはなぜ廃盤になったか【メーカーとユーザーで違う「最高」の意味】

  • 2021.06.24
  • (更新日:2021.06.23)
  • RUNNING
ナイキ ペガサスターボはなぜ廃盤になったか【メーカーとユーザーで違う「最高」の意味】

現在アディダスさんから提供していただいた3足のシューズをレビューしている最中で、そのうちの1足「ADIZERO PRIME X(アディゼロ プライム エックス)」のレビューはすでに公開していますが、2足目のアディゼロ ボストンは明日、さらに数日中にアディゼロ ジャパンのレビューをアップする予定です。

レビューをしていくとシューズを作る人の想いとか、メーカーの思惑というのが見えてきて楽しいですが、シューズを提供していただいた場合には、レビュー記事を書くときには他社との具体的な比較は避けるようにしているのもあり、今回感じていることはこちらに書こうかなと。

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ナイキの成功は2足目のシューズを買わせたことにある

タイトルは「ナイキ ペガサスターボはなぜ廃盤になったか」としたのは、そのほうが分かりやすいから。伝えたい内容というか本質は別のところにあるので、あまり深く考えないようにしてください。キャッチーなタイトルでないとクリックしてもらえないのは、ブログもYouTubeも同じです。

今回のレビューをしていて感じたのは、メーカーは最高のシューズを開発するとともに、自社に最大の利益をもたらしてくれる方法を考えているのだなということです。ナイキは厚底シューズでブレイクしたという印象がありますが、ヴェイパーフライの本質は市民ランナーに2足目のシューズを買わせたことにあります。

世界のランナー人口というのは時代とともに増減していますが、ある程度飽和状態にあります。ここから1年でランナー人口が倍になるようなことはありません。そうなるとランニングシューズの売れる数にも限界があります。そこでナイキが行ったのは、シューズの履き分けを広めるということでした。

まずはスピード用とジョグ用に分けてラインナップし、使い分けも含めて展開することでランニングシューズの売れ行きが単純に2倍になります。これに成功したのはヴェイパーフライのような、特別に速く走れるシューズがあったからこそで、それに対して定番のペガサスをジョグ用として組み合わせて販売しました。

契約選手にもその組み合わせで使ってもらえば、「◯◯選手はこう使い分けしている」とアナウンスするだけでもれなく2足売れるわけです。これはランナーにとっても良いことで、実際に使い分けするメリットは多数あります。それについてはこれまでも話してきたので、ここでは割愛します。

ランナーが欲しかったものと開発者が作りたかったもの

スピード用とジョグ用の2足のシューズを作ったものの、ここで大きな問題が発生します。ヴェイパーフライが品薄だったことと、ヴェイパーフライがオーバースペックだった人が多数だったということです。結果的にはヴェイパーフライは「誰が履いても自己ベスト更新できるポテンシャルがある」となりましたが、価格も考えると高嶺の花。

そこを埋めるのはズームフライという存在でしたが、どうもこれが跳ねません。それは初代がカーボンプレートではなくナイロンプレート内臓で、ソール材もzoomXではなかったので、思ったほど速く走れなかったからです。サブ4よりも遅いランナーは、コスパを考えたらペガサスでいいやとなる。

これはシューズ開発者にしてみれば嬉しくないことで、やはりランナーのニーズに応えられるシューズを作りたいわけです。そしてランナー側もペガサスよりも速く走れるシューズが欲しいわけです。そこで誕生したのがペガサスターボというわけです。これはソール材にzoomXを採用したペガサスです。

このシューズは軽量で、おそろしく快適に走れます。私も好きなシューズのひとつでスピードが出せるのにクッション性もあり、初代がヘタってきたときに追加で購入予定でしたがペガサスターボ2で廃盤になりました。代わりに出てきたのがテンポネクストです。こちらはシューズが重くて、とてもペガサスターボの代わりにはなりません。

ペガサスターボはランナーが本当に欲しいシューズであり、開発者も強い思いを作ってデザインしたものなのに、短命に終わってしまいました。なぜこんなことが起きるのか。

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ペガサスターボでは利益を最大化できないという判断

ある程度推測も入るので、話半分で読んでください。ナイキのペガサスターボは、サブ3を狙うレベルのランナーから完走が目標までのランナー、すなわち全ランナーの約97%にとっての理想のランニングシューズでした。それもレースでも履けて、練習にも使えるオールラウンダー。

これが広まってしまうと、ナイキの「シューズを2足売る」という販売戦略が崩れてしまいます。かといってヴェイパーフライとペガサスターボという組み合わせではバランスがよくありません。どちらもキロ3分台で走れるシューズなので、価格を考えたときにペガサスターボを履いた人は、わざわざヴェイパーフライを買いません。

ペガサスターボとペガサスの組み合わせも、大きな差がありませんし、ペガサスでできることをペガサスターボがカバーするので売り出すことができません。メーカーは利益を上げることが最優先事項です。オリンピックや世界選手権で勝てるシューズを作り出すという理念の半分は自社のシューズを売るためでもあります。

1足でも多く売るための戦略がシューズの履き分けなのに、ペガサスターボがあるとその戦略が成り立たなくなるわけです。だったら廃止すればいいというわけで、ナイキは簡単に市民ランナーにとっての最高傑作を手放しました。そして履き分け戦略をさらに進めていったわけです。

これは決してナイキを批判しているわけではなく、他社も同じことです。すでにどのメーカーも履き分けで複数のシューズを売るというのが戦略になっています。それを成立させるのに必要なのは、レース用シューズとジョグ用シューズのポテンシャルに明確な差が必要になります。

だから、あえて市民ランナーにとってベストのシューズを売り出しません。それをすると自社の利益が小さくなるから。一方で世界で戦えるシューズは広告塔として必要なので作るわけですが、やはりサブ3よりも遅いランナーにはオーバースペックで価格も高すぎます。

市民ランナーにとっての最高傑作を出せるかどうか

どのメーカーも技術の高さを見せるためにトップランナー、エリートランナーが履くシューズを作る必要があります。車で言えばかつてのF1のようなもの。ホンダにはこんなテクノロジーがあるのだと見せつけて、ホンダの市販車を売る。これは古くからある手法で、これからも変わりません。

でもランナーが本当に望んでいるのは、自分のポテンシャルを引き出してくれる1足です。軽量でありながらも最高品質のソール材を使っていて快適な推進力を生み出してくれ、さらに高いクッション性で着地の衝撃をエネルギーに変えてくれる。でもピーキーではなく誰でも走りやすい。どのメーカーもこれを作る技術はあります。

でも作らないのは利益にならないから。本来ならランニングシューズはトップランナーのためのピーキーな1足と、市民ランナーのためのオールマイティな1足があれば十分なのですが、それではメーカーとして生き残れない……と思い込んでいるから。こういう状況を打破するメーカーが現れると面白いのですが。

ただ現在のランニングシューズ開発はコンピュータ解析を使うなど、とにかく開発費がかかります。ぽっと出のメーカーにはその資金もないのでやはり難しいのかなと。ワークマンが本気になってくれると面白そうなのですが、期待できるのはそれくらいでしょうか。でも時代は動くものです。2〜3年のうちに新しいファブレスメーカーが出てくる可能性もあります。

そういうメーカーが出てくるのを期待しつつ、私は現行のメーカーの思惑がこもったシューズ開発を楽しもうかなと。シューズがいいものかどうかだけでなく、背景にどのような想いがあるのかを想像するのはとても楽しいことですから。そして気持ちがこもったシューズを履いて走るのも楽しいものです。

さてボストンのレビューを書くとしましょう。

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