五街道完走プロジェクト第4弾「甲州街道〜1日目〜」

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4日間で209㎞(正確な値はわからない)、鳥の旅というレースで走る人たちはこれを48時間以内で駆け抜けるらしい。レースやイベントにするには制限時間は必須だから仕方ないが、わたしには向いていない。

わたしが行うのは旅ラン。時間に追われることなく、なおかつどこで止めたってかまわない。旅先で恋に落ちてそのまま住み着いたっていいのだ。それが旅をするってことだろ。

レースにはレースの魅力があり、旅ランには旅ランの魅力がある。

わたしはもうウルトラマラソンを走るつもりはないが、走ることができるうちは旅ランを一生続けていくつもりだ。自分の足を使って、この地球上をフィールドに走り回る。そこで何かを発見し、新しい出会いに喜びを感じる。

そこに制限時間なんて必要ない。

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出発時刻を勘違いして、急いで鶴巻温泉から電車の乗り込んだのは18時30分過ぎ。すでに20分近くロスをしていたのだが、なんとか八王子で中央線鈍行に乗り込み、予定通りの時間に下諏訪に到着。

こういうときに日頃の行いの良さが出るものだ。もっとも本当に日頃の行いのいいやつには、そもそもトラブルなんて発生しやしない。

スタートは8月11日の午前0時と決めていたので、諏訪大社近くのコンビニで栄養補給。本当はもっと下諏訪の街を楽しみたかったのだが貧乏暇なし。誰もいない薄暗い諏訪大社で旅の無事を祈願していよいよスタート。

いつもならとっくに眠りについている時間。当初の計画では下諏訪のネットカフェに宿泊だったのだが、老化のためか最近は眠らずに走ることに体が順応してきたので、ナイトランからのスタートに切り替えることに。

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できることなら88㎞先の勝沼が目標。ただし、旅ランはいつだって思い通りにはいかないもの。

諏訪湖の標高は759m。雨の後というのもあって、気温はかなり低め。ほとんど汗をかくこともなく、下諏訪から上諏訪へ。下諏訪は中山道との分岐点でもあるのだが、なぜ京都側が下で江戸側が上なのかはわからない。

甲州街道の中でも諏訪だけが上下が逆転している。

そういうことを考えているだけでも旅ランは楽しい。道を進むだけで気になることが次々と湧いてくるのだから、退屈を感じる暇もない。ただし、ナイトランなのでかなり寂しくもある。

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寂しさを紛らわすため、ナイトランのリズムを出すために音楽は聞いている。以前はイヤフォンで耳を塞ぐのが嫌だったので、音楽を聞きながら走ったりはしなかったが、ambieとの出会いによって最近は音楽を聞きながら走ることも珍しくない。

上諏訪宿、金沢宿くらいまではまったく問題なく進むことができている。旧街道が民家の道になっているため、とても走りやすうえに、基本的には下り基調なので、前に進むのに力がいらない。

31㎞地点の蔦木宿に到着する頃には周りも明るくなり、ここからが旅ランの楽しさが始まる。

やはり暗闇の中を走るのは、旅ランとしては楽しくない。ただし、夏に無理をする理由はどこにもない。夏の旅ランは夜に走行距離を稼ぐのが理想。昼はのんびり観光でもしていればいい。

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7時間経過の午前7時山梨県へ。

まだまだ標高も高く、なおかつ曇っているので走りやすい。このペースなら問題なく勝沼まで走ることができるとおもったが、そんなに甘くはない。神様はいつだって試練を与えたがるのだ。

「試練を乗り越えることが人間を成長させる」そう考えている神様は、やたらと人に困難を与えてくる。そういうのは旅ランにはいらない。でも神様はいいことをしていると思っているからめんどくさい。

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旅ランに試練なんて必要ない。今度神様に会う予定のある人はそう伝えておいて欲しい。

今回は、あれほど曇っていた空からあっという間に雲を取り除くという荒業を見せつけられる。

台ケ原くらいまではまだ良かった。金精軒で生信玄餅をつまんだり、麩まんじゅうを頬張ったりし、さらに七賢では日本酒の試飲。これぞ旅ランの醍醐味ということを一気にやったからだろうか。

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その後から強烈な日差しと戦うことになる。もはや神様の嫌がらせや嫉妬の部類だろう。

だが、この時点ではまだ事の深刻さを理解していなかった。台ケ原から韮崎に向かう途中に、なんとなく雰囲気の良さそうな道に誘われて、あっちやこっちへフラフラ。

レースじゃないのだから、風の吹くまま気の向くままだ。

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思いがけず水車のある公園に出たり、ひまわりを鑑賞したり。日本の田園風景は贔屓目なしに本当に美しいものだと思う。特にまっすぐに育った夏の稲からは強い生命力が伝わってくる。

これが生きるということ。そう教えられている気がする。

韮崎宿に到着したのが13時21分。地図上ではまだ59㎞しか進んでいない。寄り道をしているから実際には、もっと長いのだが、それはわたしの都合でしかない。

旅ランのペースとしてはやや遅め。

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ただし、このときには日差しがかなり危ないことに気づき、そこから約6㎞進んだところにある温泉、湯めみの丘で汗を流して小休止することに。一度休んで、気温が下がったらまたスタート。

仮眠も必要だと思ったのだが、結局眠ったのは1時間足らず。それでも温泉効果か「まだ行ける」と思えるのだから人間の体は面白い。

とりあえず22時まで休むつもりだったのだが、そうなると甲州名物ほうとうを食べることができないという、とても重要な問題に気づいたわたしは、あわてて温泉を後にする。

幸か不幸か、休憩中に雨が降ったこともあり外はかなり涼しい。

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ほうとう屋さんのある甲府までやく8㎞。もう汗をかきたくないので、ほぼ散歩ペースを維持。もう甲府市にたどり着く。そうなった瞬間、上空に大きな光の華が広がった。

まるでわたしの甲州街道ランを歓迎してくれるかのように、次々と大空に上げられていく花火。

だが、実際にはこれっぽっちも歓迎されていなかった。いや、その花火を見とれてしまうという罠により、わたしが甲府駅に到着したのは、名店小作のラストオーダー終了後。

もう1つの人気店は本日休業。

神様は本当にどうしようもない試練を用意してくる。あと数分早ければと後悔しても始まらない。きっとあるはずという食いしん坊の勘により、駅ビルでなんとかほうとう屋さんを見つけて事なきを得たが、危うくほうとうを食べずに山梨を抜けるところだった。

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本当は温かいほうとうをハフハフして食べたかったのだが、そんな時間はない。選んだのは冷やしほうとうと生ビール。実は温泉でもビールは飲んでいる。

何度も言うがこれは旅ランだ。これはスポーツ競技ではない。

もちろん勝沼まで行くことはすでに諦めている。目指すのは笛吹にあるインターネットカフェ。この時点では走るというよりは夜の散歩。1時間歩けば4㎞稼ぐことができる。

スタートしてからすでに23時間以上経過しているのだから、走れないのも当然だろう。だが、そんなわたしに最後の試練がやってくる「リクライニングできない席しかありません」の一言。

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それは流石に無理だ。布団を使わずに寝ているわたしでも体は横にしたい。

一瞬野宿も考えたが、スマホの充電ができないのは困る。明日は確実に野宿なのだから確実に充電しておかなくてはいけない。3歩進んで2歩下がる。2㎞手前のインターネットカフェへ移動した。

初日の走行距離は地図上の79㎞+あっちこっちへの移動で80㎞オーバーだ。

ちょっと頑張りすぎた感じがある。今はとにかく深く眠って回復させなくてはいけない。わたしは疲れ切った体をクッション性だけが高いリクライニングチェアに委ねて、1日目を終えていった。


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著者:大川 卓弥
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