五街道完走プロジェクト第4弾「甲州街道〜2日目〜」

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あっという間に眠りに落ち、その数秒後に目が覚めたような気分。本当に深い眠りというのはそういうものを言うのだろう。甲州街道ラン初日の夜はフラットにはならないチェアで爆睡。

さすがに24時間活動したあとならどんな姿勢でも寝れるもの。

目が冷めたのは午前6時。無料の朝食セットもいただいておきながら、その後マクドナルドでも朝ごはん。旅ランはとにかくお腹が空く。そのくせ疲れてくると「食べたくない」なんて思い始める。ようするに食べられるときに食べておかなくてはいけない。

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旅ランでもっとも厳しいのは2日目だ。1日目はまだ体に余裕があるからいくらでも走ることができる。3日目以降は体が徐々に慣れてきて、効率のいい走り方を体が自然とやってくれる。

問題は2日目。

過去何度もやってきた旅ランでも鬼門は2日目となっている。初日に無理をしているから、体には疲労が溜まっている。でもまだ動けるつもりだから、無駄の多いフォームで走ることになる。

精神と身体の不一致。その結果として2日目の走りは厳しいものになる。それはもう経験上わかっていること。わからないのは「どれくらい厳しいのか」ということだ。

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石和宿をスタートして、栗原宿、勝沼宿へと向かう。まだ午前中なのにも関わらず、真夏の太陽がわたしのエネルギーをどんどんと奪い取っていく。子どもの頃にやったRPGゲームで、毒の沼地を歩いているのと同じ感覚だ。

勇者には使命があるからそれでも頑張れるが、わたしには使命などない。ただ走りたいから走っているだけ。多少チヤホヤされたい気持ちがないと言えば嘘になるが、209㎞を走るなんて本気で尊敬してくれるのは男ばかりだということも知っている。

女はいつだって冷静に受け流してくれる。「またアホなことしてる」と。そういうのも嫌いじゃないが。

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正直に言おう、勝沼宿に入る前にすでにグロッキー状態だ。コンビニで買ったガリガリ君は、口に加えた瞬間に落としてしまうし、休憩中には80歳にはなろうかというようなお婆ちゃんに心配される。

だが、このあたりの人たちは旅人に慣れている。「がんばって下さいね」と行き先も聞かずに声をかけてくれる。行き先はどこであれ、西からやってきたのであれば、このあと笹子峠を超えるというのを知っているのだ。

甲州街道は勝沼宿の手前あたりから、あからさまな上り坂になっていく。そして勝沼宿を抜けてしまうと、そこからは本格的な山道が始まる。とてもじゃないが走れやしない。

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走れないからゆっくり上がるのだが、ゆっくり上がると灼熱の太陽が容赦なく襲いかかる。頑張っても地獄、頑張らなくても地獄。なら頑張らないほうを選んでしまう弱いわたし。これが旅ラン2日目という現実。

笹子峠手前の鶴瀬宿で重要なことに気づいてしまった。

「このままでは食べ物をほとんど持たずに峠に入ることになる」

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道を外れたら500m先にあるコンビニで買い物ができる。だがそれで往復1㎞のロス。しかも15分近く灼熱の太陽と向き合うことになる。甲州街道に向かえばすぐに日陰。ただ、食料なしで山に入るのはリスクが高い。

どんな山道なのか知っていれば話は変わるが、初めての道。朝ごはんを食べながら得た情報によると、笹子峠は標高1096mで甲州街道最大の難所。箱根峠よりも200m以上も高いのだから厳しさは言うまでもない。

だがわたしは、食料を持たずに峠に入ることを決断した。目の前の「楽」を選んでしまったどうしようもない男。

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もっとも無計画だったわけではない。手元にはひと握りのミックスナッツがある。基本は体脂肪を燃やしながら、完全に不足したらミックスナッツを口にすればなんとかなる。しかも問題は上りだけだ。

結果的にはその狙いは成功したのがだ、笹子峠までの道でわたしを邪魔したのは空腹ではなく、自然界に生きるある生き物だった。

それはこの国では「蛇」と呼ばれている。

ファーストコンタクトは壁面の排水口から伸びた緑色の長い体。アオダイショウだと分かっていても、わたしは蛇に睨まれた蛙。もとい河童。そこからはもう、路面に落ちた小さな枝ですら蛇に見える。とにかく蛇が苦手なのだ。

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そして笹子峠までもう少しというところで奴は現れた。

全長が2mはあろうかというようなアオダイショウ。狭い林道に横たわるようにして休憩している。左は崖、右は壁。わたしに逃げ道はない。

いま思えばアオダイショウだと判断できるのだが、あのときは「ヤバいやつに出会った」としか頭にない。安全な蛇だと思ったら毒蛇だったという話は何度も聞いたことがある。

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わたしに与えられた選択肢は2つ。ジャンプして飛び越えていくか、石を投げて驚かせるか。ビビリのわたしはとりあえず石を投げてみる。大谷翔平も驚くコントロールでいきなり石が蛇に直撃した。

いや…当てるつもりはなかったんだよ。

ごめん。

でも微動だにしない蛇。

なんで?

そのあと数回石を投げたところで「めんどくさいなぁ」という雰囲気を醸し出しつつ、のんびりと移動してくれた蛇。あいつはきっといい奴だ。石を当てて本当にごめん。

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そんなこんなで笹子峠のトンネル前に到着した。

このトンネルを走って抜けていけば1分で向こう側につける。だが、ルートはもう1つある。それが本来の笹子峠なのだが、それも今朝の情報によると、上がって下りるのに30分かかるという話だ。

1分か30分か。だがここで悩むほど日和ってはいない。蛇にはめっぽう弱いが、坂道には自信がある。

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迷いなく峠道を選んでさらにそこから登っていく。走る余裕はもちろんないのだが、思った以上に簡単に峠に到着。そこからは一気に下がるだけ。

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ロードをゆっくりと下り、矢立のスギからはトレイルをガンガン下る。時間は14時前で、まだ昼ごはんも食べていない。正直1時間くらい休憩をしたいところだが、視界には新しい敵が入っている。

山の上にある真っ黒な雲。明らかに雨を降らす準備が整っている。

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黒野田宿を通過して、阿弥陀海道宿前にある笹一酒造に到着。このときすでに15時40分。ネットカフェを出発したのが7時でここまで23㎞。峠だったとはいえ驚異的な遅さ。やはり2日目は鬼門。

少なくともここから16㎞先の猿橋までは行っておかないと、残りの2日が大変になる。

下り坂ということも考慮すれば、約3時間で猿橋にたどり着ける計算。まだまだ余裕があるじゃないかというわけで、笹一酒造で麹ソフトクリームを食べ、とりあえずの空腹をごまかすことに。

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2日目、ようやく旅ランらしいグルメにありつけた。

ただ、ここからの16㎞が本当に長い。白野宿手前でラン仲間が車で応援に駆けつけてくれたのだが、疲労していない表情を作る余裕もない。さすがにそういう自分を情けないとは思う。

武士は食わねど高楊枝。

平民のわたしが我慢をする必要なんてこれっぽっちもないのだが、平民だって高楊枝をするくらいのプライドは持っていたい。

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ここからはひたすらのガマン大会。ときどき降ってくる雨に耐えながら、中初狩宿、下初狩宿を通過すると上空には中央自動車道のジャンクション。大月まではもう少しといたっところ。

上花咲宿から下花咲宿、そして大月宿までは1㎞ずつしかない。歩いたって15分ずつしかかからない。

とりあえずは大きな町である大月宿に行けば、美味しいものにありつけるはず。そんな思いだけがわたしを前に進ませる。どうやら人間は食欲によって動くことができるらしい。

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当然といえば当然だ。動物が狩りをするのはお腹が空いたとき。お腹が空いたから動けないのでは狩りにならない。進化論から考えれば、空腹は動物が最も俊敏に動けるときになっているはずだ。

大月で入ったお店は蕎麦屋さん。注文したのは「もつ煮定食」体が白米を欲していた。よく考えたら、旅ランを初めて2日間、ご飯を一度も食べていない。そろそろ限界だと体が脳に訴えたのだろう。

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「ついでに生ビールも頼んでおくよ」これはわたしの脳の声。

大月から猿橋までは4㎞くらいしかないので、食後の散歩で十分に到着できる。だが、大月宿周辺には街中にきれいなベンチがあり、「ここでいいんじゃないか」という誘惑に襲われる。

たかが4㎞、されど4㎞。今日はほとんど進んでいないのだと自分に言い聞かせて、駒橋宿を超えてからの猿橋宿。2日目はトータルで39㎞。1日走ってフルマラソンの距離にも達していない。やはり大月で止まっている場合ではない。

2日目の寝床は猿橋公園。そう久しぶりの野宿となった。

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1年前の日光街道ランは外で仮眠はしたが、しっかりと横になって寝る野宿はかなり長いことやっていない。携帯用ベープマットの電源を入れ、蚊対策をする。寒くなるだろうからとエマージェンシーシートも出して、掛け布団代わりにして眠りにつく。

今夜は深い眠りは難しそうだ。ただ、寝床があるだけで十分ありがたい。

若い頃、40歳にもなって野宿のひとつもできないような大人にはなりたくなかった。そして41歳のいま、山梨の山奥の公園で野宿をしている自分がいる。思ったよりもカッコよくないが、人生は上々だ。


野宿入門―ちょっと自由になる生き方
著者:かとう ちあき
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