夢の島の悪魔〜ハダシスト夢の島24時間マラソン奮闘記〜

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マラソンの悪魔に会ったことないだろうか。マラソンの神様にいたずらされて東京マラソンになかなか出られない。そういう話はよく耳にするけれども、マラソンの悪魔に会ったという話は聞いたことがない。

ただ、今回はそのマラソンの悪魔にひどい目にあわされたという話だ。

「24時間グリーンチャリティリレーマラソンin東京ゆめのしま」通称、夢の島24時間マラソンの正式名称だ。もはや誰もチャリティマラソンであることを認識していない。

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それでも全員が走った周回数の合計がチャリティとして、都市緑化活動に寄付される。走れば走るほど東京に緑が増えていく仕組み。頭の賢そうな人が考えそうなイベント。チャリティだからたくさんのボランティアが助けてくれる。

大会当日の気温は32℃。1年前は裸足で陸上トラックに立つことが出来ないほどの灼熱だったことを思えば、まだましだが、理屈の上では裸足NGとなる気温。

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それでも1年前はスタートからしばらく待機という作戦を選んだ結果が、自己最低の70㎞未満。今年は根拠はないが、久しぶりに100㎞走れそうな気がしたので、熱さを我慢してスタートラインへ。

この判断は正解でもあり、不正解でもあった。

スタートは集団の最後尾のさらに後ろ。ほとんどのランナーがあっという間に駆け抜けるが、わたしの目標は24時間後に立っていること。できれば100㎞を超えて。

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100㎞という設定はあったが、これは目標ではない。目標設定というのは24時間マラソンでは何の意味もない。10年連続10回目の出場にもなれば、それくらいのことは理解しています。

わたしが今回取り組んだのは、「今だけを考えて走る」こと。

24時間マラソンに限らず、スタートから何分経った、何キロ走ったという情報は意味がなく、反対にあと何キロあるという情報も、精神的に自分を弱くする。

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例えば24時間マラソンで4時間経過後、「あと20時間もある」という思考回路になると、そこでもう精神的な負けの状態に追い込まれる。マラソンではいつだって、過去も未来もない。あるのは今という時間だけ。

いまできるベストの走りをすることが、今回のテーマ。

最初の2時間は、ただひたすらに耐えるだけの2時間だった。確実に足裏には熱が入って、痛みを感じ始めている。これ以上はダメだというところを見極めながら走る。

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13時スタートで15時を過ぎたあたりから、太陽が雲に隠れて走りやすい状況。

ただ、このときにはすでに足裏の皮の裏側のタンパク質が溶け始めている状態。ギリギリまで粘った結果が吉と出るか凶と出るか。

それでもスピードが必要なわけでもないので、上手に休みを入れながら距離を伸ばしていく。12時間経過で60㎞くらいは走っておきたいところ。

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休みと言っても序盤は補給のみ。座ることもなくすぐに走りに出る。

ところが、5時間経過するくらいで、走るのが辛くなってくる。走りによる筋肉疲労が始まってしまい、とてもじゃないが、24時間持ちそうになり。そこでわたしは走り方を切り替える。

足をまったく蹴り出さない、すり足のような走り。これについては近いうちに説明する。

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わたしの中では「無拍子」と名付けている。ひねりを使わずに、背中の筋肉の反発だけで前に進むから、筋肉を消耗しない。まだ実践で使ったことはなかったが背に腹は代えられない。

ところが無拍子が見事にハマり、走ることが楽しいと思えるくらいにまで回復した。無拍子だと足裏がまったく痛くない。夢の島陸上競技場の外周の路面はかなり荒れているが、無拍子ならほぼ痛みを感じずに走ることができる。

喜んで走っていたのもつかの間、一難去ってまた一難とはこういうときに使う言葉なのだろう。無拍子でしばらく走っていると、なぜか両足の親指の付け根が痛み始める。

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実際にはアーチに問題があるのだが、連鎖的に最も弱い場所として親指の付け根に負荷がかかって、痛みが発生。

とはいえ、走り方を戻しても痛みが出るので、走り方を変えたことが原因ではなく、もう足が限界だったのだろう。すでに走った距離はフルマラソンを超えていた。

そこからはだましだましの走りになる。痛みは疲労を引き起こす。無拍子で負荷がかからないはずの足がときどきパンパンになる。痛みを嫌って、フォームが崩れているのだ。

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この時点では、まだ休みをきちんと入れて、足先を高く上げて20分も休めばまた走り始めることができる。

これを繰り返そうとしたところで、異変は発生した。体が急に震えかけたのだ。気温が低かったのもあるが、わたしはこれを風邪であることを瞬時に理解して、すぐに上着を着て震えを止める。

わたしは1週間前から風邪を引いた状態で、直前で治ったつもりだったが、気温の低下でぶり返したらしい。

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とりあえず、足の疲労を抜いて走り出そうとするものの、やはり震えが止まらない。上着を着たまま、歩くように走りを再開して、なんとか誤魔化す。ただし喉の腫れと頭痛が伴う。

普通なら走るのを止めるところだが、自分にとっては記念すべき10回目の参加。走れる足があるなら走るという選択肢しかない。ただし、ここで小さなハプニングも発生。LINEで応援してくれてた仲間の書き込みで、現在の周回を知ってしまった。

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そして100㎞までの残り周回がわかったことと、体調不良がはっきりしたので、やはり目標設定を100㎞にきちんと切り替えることにした。この時点では無理のないちょうどいい設定。

疲労が溜まったら、少し長めに休みを入れたりして、周回を重ねていく。

走りもひどい状態になっていたが、苦痛の表情を見かねたのか、人生のモテ期かと思うくらい、いろんな美ジョガーたちが「がんばってください」と声をかけてくれる。

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そんな声援をもらったら意地でも100㎞は走っておきたいところ。1周が1.25㎞なので80周で100㎞になる。76周、77周と集会を重ねて、あと残り2周というところで、マラソンの悪魔がひょっこりと顔を出す。

それまでは薄曇りで、太陽の光を隠していたにも関わらず、79周目の陸上トラックに入る直前に雲がなくなり、陸上トラックは灼熱地獄へと化してしまった。ただし、そこに入らないという選択肢はない。

「夢の島には悪魔がいる」わたしはそうつぶやいた。

いつだって24時間マラソンが、思い通りになったことなんてない。絶対に想定外のトラブルがやってくる。

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慎重にトラックの白線を踏みながら走るが、スピードが出ないから足裏が焼かれていくのがわかる。気合と根性でなんとかトラックを抜け出したが、もうまったく走れない。足の長さ分の1歩を進むことすらむずかしい。

残り1周で100㎞というところなのに。

足の裏は一度熱に反応してしまうと、それは数日間痛みを覚えてて、通常の何倍も痛みを感じやすくなる。それまでなんとか耐えてきた外周の荒れた路面。一歩踏み出すだけで涙が出そうになる。

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通常は1周に15分もあれば余裕で回れるのに、80周目は30分かかってもまだゴールにつかない。

ただし、太陽は再び雲に隠れて路面温度を下げてくれた。わたしが陸上トラックに入った、あの瞬間だけ灼熱地獄だったのだ。これを悪魔の仕業と言わずしてなんと言おう。

死に物狂いで、ゴール200m手前の個人参加者用のテントに戻り、最終的にはラン仲間と揃ってのゴール。余裕があったはずなのに、なぜか命がけの100㎞になってしまった。

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それでも100㎞は100㎞。

ウルトラマラソンを裸足で走ったことのある人にしてみれば、なんで100㎞に24時間もかかっているんだよと思うかもしれないが、そう思うなら来年の夢の島24時間に出てみるといい。

もちろんわたしも出場するが、天候によっては100㎞は無謀な挑戦になってしまうのが24時間マラソンの難しさであり、魅力でもある。

正直、じゃあ次は120㎞目標なんて気軽なことはとてもじゃないが、口には出来ない。

それでも来年はもっといい走りをできるはず。そういう確信のようなものはある。着実に裸足のウルトラランナーとしての自分の形が作られつつある。足裏はぼろぼろになってしまったが、得たものは決して小さくはない。

無拍子の走り方。まずはこれを早い段階で身につけなくてはいけない。

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著者:H.M. エンツェンスベルガー
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