
マラソンのタイムの速さは、体重でほぼ決まると常々言ってきましたが、実はもうひとつタイムを決める要素があります。それは「痛みや苦しさへの耐性」です。シンプルな話が、痛みに強くて、苦しさにも耐えられる人ほど速く走れます。身も蓋もないように思うかもしれませんが、それが現実です。
普通の人が「もう無理」と思うところで、耐え切ることができれば当然のことながら、タイムは変わってきます。それでは痛みに弱い人ほど速く走れないのかというと、答えは「YES」です。ただ「痛みに弱い」という表現は適切ではありません。「痛みに敏感」というのが適切な表現になります。
痛みというのは感情であり、悲しみや怒りという感情に個人差があるように、痛みに対しても個人差がかなりあります。一般的には辛い食べ物が得意な人ほど、痛みに対して強い傾向にあります。そして、辛いものが得意な人ほど、速く走れたり、長く走れたりします。
トレーニングによって速くなるというのは、筋力や心肺機能を高めている面もありますが、痛みに慣れているという面もあります。インターバルのような追い込む系のトレーニングは、その苦しさに慣れることでトレーニングの負荷を高められるようになります。人間は経験した痛みや苦しみに耐えられるといった特性があるので。
ただ、痛みに鈍感なことが必ずしも良いことかというと、もちろんそんなことはありません。速さだけを考えると、痛みや苦しみを感じない人のほうが結果を出せます。でも、痛みに強いことと、体が強いことはイコールの関係ではありません。むしろ、痛みを感じないから追い込みすぎてしまいます。
人間の体の構造として、速いスピードで長く走り続けることはできません。私の感覚ではキロ4分30秒よりも速いペースでフルマラソンを走ると、筋肉痛が大変なことになります。今回も走り終えてすぐに、まともに歩けなくなるくらい足がパンパンで、翌日は階段を降りるのもいつもの2倍くらいかかりました。
問題はそれくらいまで追い込んだときに、脳がどのあたりでストップをかけるのかということです。痛みを感じにくい人は、ストップの命令が遅れます。ところが、体の構造として、それに耐えられるように出来てないから、体を壊してしまうリスクが高まります。
そして、筋肉痛も感じないから、リカバリーができてないのに練習を再開して、体に疲労を蓄積させてしまう。それも故障の原因になります。痛みを感じないから、苦しさを感じないから無理してしまう。でも良いタイムは出せてしまうので、何を大切にするかというのがとても大事になります。
基本的には速く走る人ほどランニング寿命は短くなります。鍛えているのに弱くなる。それがランニングの面白いところです。速さを維持したまま走り続けることはできません。そして、痛みを感じにくい人ほど、走れなくなる日が早くやってきます。もちろん個人差はありますが。
難しいのは痛みを定量化できないということです。自分では全然大丈夫だと思うようなレベルでも、体には着実にダメージを与えてしまいます。ただ、それくらいやらないとトップレベルでは競い合えないというのも事実。大事なのは未来を自分で決めるということです。
長く走り続ける未来が欲しいなら、痛みに耐えないこと。痛みに強いことを自覚しているなら、痛みが出る前にやめること。長く走り続けるよりもタイムにこだわって走りたいなら、痛みを受け入れること。痛みに弱い人は普段のトレーニングからしっかり追い込んで、痛みに慣れること。
私は次の愛媛マラソンが速く走る最後のレースですので(アスリート枠はできる限り確保する)、弘前・白神アップルマラソンの後はリカバリーにあまり時間を取らず、練習を再開するつもりです。ただ、筋肉痛が引くまでは大人しくしておくつもりです。ここでケガをするわけにはいきませんので。