今年の倒産件数:過去最多の倒産数と倒産するということの意味

今年の倒産件数が、12月の1カ月分を残して2015年以降で最も多くなったとニュースになっていました。物価の高騰と最低賃金の上昇によって、これまでギリギリ耐えてきた企業が未来を諦めたことで、このような結果になったのでしょう。

上場企業も倒産していることを考えると、ある日、自分の勤め先がなくなることは「誰にでも起こること」であり、対岸の火事ではありません。フリーランスの私だって、いつまで自営業でいられるかはわかりませんし、少なくともライティングの案件は減っています。

私は、「経営者は左うちわであるべき」と考えています。いつも金策に苦しんで、お金の計算をしなくてはいけない状態は、資本主義の本筋ではなく、大きな歪みです。もちろん節約は美徳であり、経営者でも意識すべきことですが、経営者が儲からなくては、事業はいずれ傾くことになります。


最近、2件ほど倒産した工場の後片付けをするアルバイトをしましたが、そのうち1件が「それは倒産するだろう」と納得できるような状態になっていました。現場の床は油まみれで、現場のあちこちにペットボトルや空き缶が転がっていました。明らかに使うことのない治具が転がっていたり。

事務所も整理整頓が出来ているとは言い難い状態で、モノづくりの基本がなっていません。溢れてきた話では、金型の紛失も珍しくなかったとか。こういう工場が倒産するのは必然です。ただ、経営者だけに責任があるかというとそういうわけではなく、モノづくりをして適正な売上を得られない社会にも責任はあります。

私たちは長らく「安くていいもの」を追求してきました。それは暮らしていく上ではとても快適で、賃金が上がらなくても困ることはありませんでした。でも、価格の安さは誰かがどこかで無理をすることになります。それは工場であったり、物流であったりします。

後片付けした工場には、ダンボールに詰められて出荷待ちしているのであろう部品がいくつも残っていました。工場が倒産した場合、工場から物を持ち出すことができなくなります。それが注文品であっても出荷できませんので、工場に残ったままになります。

そうなると注文した会社が困ることになります。板金部品や切削部品であれば、他の工場でも対応可能ですが、金型を使って製作する部品は、少なくとも一時的に生産できなくなります。そうなると自社も納期遅れもしくは未納となってしまうわけですが、それが新しい倒産を引き起こすこともあります。

すべての注文を工場側の希望する価格(しっかり利益を出せる金額)で納品できていれば、そんなことは起こりません。ところが過度な値引きが常態化している業界なので、工場側は赤字になるかならないかのギリギリの価格まで値下げするしかなく、ちょっとしたはずみで経営が破綻してしまします。


最低時給のアップがまさにそのきっかけで、私が通っているアルバイト先のひとつは、パートやアルバイトの始業時間が30分遅くなりました。社長からその理由を直接聞いたわけではありませんが、おそらく時給アップが多少なりとも影響しているはずです。

それくらいまで追い込まれている会社にとって、経営者の左うちわは「バッファ」になります。大変な瞬間にだけ経営者が少し遊ぶのをやめれば破綻せずに済む。でも、いまは中小企業のほとんどが左うちわを手放して、常に苦しみながら働いています。

投げ出したいけど社員の生活を考えると投げ出せない。そこで耐えるから傷口はさらに開いていき取り返しがつかなくなる。そんな会社がいくつもあるわけです。だから、これから数年は倒産件数が高水準で推移するはずです。だからこそ伝えておきます。「勤め先が今日倒産する可能性」を常に考えておいてください。

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