少し前に規定外のソール厚さのあるランニングシューズを販売しているメーカーについて書きましたが、また別のメーカーでも同じようなことがありました。ただ、今回は前回とは違って、メーカーは「マラソン大会で履く」について上手く触れないようにしていました。
前回は「初心者のフルマラソンシューズに」みたいな売り方をしていて、「それは違うだろう」というニュアンスのことをここに書きましたが、今回は「ランニングを楽しむためのシューズ」であることを全面に押し出していて、ソール厚さもきちんと公表しています。
ただ規定外シューズであることを明記していないのは、メーカーとしてのスタンスや信頼性としてどうかとは思います。明記しないのは、わずかながらでも売り上げが落ちるのを防ぎたいという思いがあるからなのでしょうが、それを選んでマラソン大会に出ようとしたら「それ違反シューズ」と指摘されたら、どんな気持ちになるでしょう。
目先の利益を取るなら、規定の範囲内で作るべきですし、規定なんて関係のない部分で勝負したいなら明記すべき。それがメーカーとしてのあるべき姿であり、ユーザーとの信頼関係を築く基本。上手くごまかそうとするのは3流の営業マンがやるようなことです。
ただ、今回気になったのは、メーカーのスタッフに「ソール厚さ40mm」を認識していない方がいたということ。「マラソン大会では履けない」というニュアンスのことを伝えても、「お前は何を言っているのだ?」みたいな表情をして、トンチンカンな回答をされました。
その方がメーカーのスタッフなのか、それともお手伝いの方なのかはわかりません。ただ、シューズの試し履きの場で対応されていたわけで、それはもうメーカーを代表しているのと同じことです。展示会などのブースで説明員に質問したら「私はここの会社の人間でないので……」と言ったら、それだけで信用を失います。
そもそもはメーカーが規定外であることを明確にしておけば、説明する方もきちんと理解できるはずですが、表に出そうとしないからその情報が共有されていないわけで、対応してくれた方が必ずしも悪いというわけではありません。ただ、不勉強なのも事実。JIS規格も知らずに、モノを売っているのと同じレベルです。
実は規定外シューズというのはここにきて誕生したのではなく、厚底がトレンドになり始めた頃から存在します。アディダスはかなり早い段階で「レースで使えない規格外シューズ」として高機能シューズを売り出しました。一発屋的なアイテムかと思っていましたが、今でもちゃんとラインナップされています。
それができるのも、最初から規格外であることを明記していたからで、むしろ規格外であることを売りにしていたので、その懐の深さに「さすがアディダス」となるわけです。不都合な真実を隠さないで、むしろ目立つようにアピールする。これがいまの時代の商売の仕方になります。
「聞かれていないから答えない」。それもビジネスとして考えればありだとは思います。そうしたくなる気持ちもわかります。不都合な真実を隠して売っても、それに気づく人なんてほとんどいませんから。ただ、私は「そういうメーカー」として受け取ります。
一事が万事ではありませんが、ひとつの製品でそれをするということは、他の製品でも同じことをしている可能性があります。きれいごとだけを並べて、不都合な真実を隠す。そんなメーカーの製品を購入する理由などどこにもありません。当然、紹介するときの熱も変わってきます。
何かを紹介するとき、私は商品の説明だけでなく物語も伝えるようにしています。そのとき不都合な真実を隠していると、物語にしにくいというのもあります。いずれにしても、ソール厚さ40mmという規格はあちこちに不要な歪みを生み出しています。私はそれを快く思いませんし、ランニング業界全体で解消すべき大きな課題だと考えています。
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