伝える力:自分の言葉が伝わっていない可能性を常に考える

文章力とは何か?どのような文章だと評価が高くなるのか?これはライターとして常に頭の片隅にある問いのひとつです。私にとっての最高の文章は、ページを次々に捲りたくなる小説。よくないと分かっていながらも読み終えられなくて、夜更かしをしてしまう文章を最高峰としています。

最近ではそういう経験をしなくなりましたが、20代30代のまだ経験値が低い時代には、何度もそういう読者体験をしてきました。私にそういう文章が書けるのかは分かりませんが、視線は常にそこに向けながら、文章を書いていきたいと考えています。

ただ、この考え方を拗らせると、誰も理解できない難解な文章になってしまいます。読む側に教養を求めるような文章になってしまい、それはライティングの本質を理解していないから起きてしまう失敗のひとつ。文章は読み手に伝わってこそ活きてくるわけで、大前提が「伝わること」なわけです。


日雇い派遣の仕事をしていると、自分の考えを文章にすることを苦手にしている人が多いことに気づかされます。本人は苦手という意識はないというより、「言ったはずなのに伝わらない」というストレスでイライラする。そういう人をたくさん見てきました。

反対に温厚だと感じる人はみんな、説明が上手く、仕事での手戻りがあまり発生しません。こちらも本人は無意識なのでしょうが、周りからすると、どちらの方が仕事ができるか、どちらの人と仕事をしたいかは明白です。誰だって説明がわかりやすく、温厚な人と働きたいわけです。

では、どうすれば自分の考えが伝わるのか。これは文章でも口頭でも同じで、「この言い方では伝わらないかもしれない」という感覚を常に持っておくことです。ひとつの文章から無駄を省きつつも、誤解を受けないように情報を織り込む。これをできれば、大抵の意思疎通が可能になります。

日本語の素晴らしくもあり、大きな欠点でもあるのが、「言葉を省略できる」ことです。たとえば「私はこれからランチに行くけど、あなたも一緒に行きますか?」を日常会話で伝えようとすると「ランチ一緒に行く?」になります。これだけで伝わるからこそ、誤解が生まれます。

仕事現場でよくあるのが「それ片付けておいて」という言葉。そこにいるのが私だけならいいのですが、複数人いる場合、そもそも誰に依頼しているのかがわかりません。そして初めての仕事の場合、どこに片付ければいいのかもわかりません。その他の付随するルールも。

荷物を片付けようとしたら「持ち方が違う」と注意されるなんてことは日常茶飯事。それはきちんと伝えていないから起こることなのですが、伝える側にとってはいつもの作業なので、なぜその指示だけできちんと動いてくれないかがわからないわけです。


プレイングマネージャーになっている人の多くが、このタイプになります。プレイングマネージャーと聞くと優秀なイメージがありますが、部下に適切な指示を与えられないから、自分が動くことになっているだけ。それもこれも伝える力が足りない結果です。

ただ、伝える力というのは学校では教わりません。そんな科目はどこにもなく、あえていうなら国語が該当しますが、論理的な説明を受けるわけではありません。「この文章を読んでAさんはどう思ったか」の問いに対して答えがあるだけ。なぜその答えになるのか、なぜ他の答えが違うのかまでは説明がありません。

「あなたの言葉は相手に伝わっていない可能性がある」。これを大前提とした会話や文章を教える時間が足りていません。そして足りていないという共通認識さえありません。だから言葉の行き違いが生まれ、そこに不毛な争いが発生する。それはとても悲しいことです。

著:青木 仁志
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