
マラソン大会は基本的に、速い人から前に並びます。速い人が優遇されてずるいと思うかもしれませんが、速いから優遇されて前からスタートできるわけではありません。速い人が後ろからスタートすると、無理な追い抜きが起きて事故の原因になるというのが、速い人が前に並ぶ理由になります。
ただ、前方に並んだほうが有利なのは事実。たとえば、東京マラソンの最後尾はスタートまで30分掛かっています。東京マラソンの制限時間は7時間ですが、最後尾のランナーの実質的な制限時間は6時間30分になるわけです。最終関門で数分足りずにリタイアした人も、スタート位置によっては完走できた可能性もあります。
速い人から並ぶといっても、それは自己申告制であり、そしてある程度の範囲はひとつのブロックとして区切られて、ブロック内の並び方は先着順になります。同じCブロックであったとしても、早めに準備を終えて並べば、Bブロックのすぐ後ろに並べます(1時間近く待機することになりますが)。
走力が近いランナーがひとつのブロックに入るものの、同じブロック内でも前方と後方とでは走りやすさがまったく違います。タイムを狙いたいなら、ブロックのできるだけ前側に並ぶのがセオリー。同じブロックでも前方と後方では、スタート直後の渋滞も含めてロスタイムがが数分違います。
少しでも前からスタートするために、かつては虚偽申告する人もいて、さらにDブロックのゼッケンをつけてAブロックに並ぶなんてことも珍しくありませんでした。最近はSNSで晒されるリスクもあり、走力に見合わないブロックに入っている人は少なくなったように感じます。
ゼッケンを撮影されてアップされたら氏名を簡単に調べられるので、デメリットしかありません。場合によっては失格になり、大会によっては出禁になる可能性もあります。ただ、タイム狙いのランナーの心理としては、不正してでも前に並びたいというのが本音。それを自制して、正しく並んでいるからこそ、他人に厳しくなりがちです。
ハリー杉山さんが東京マラソンでCブロックのゼッケンだったのにBブロックからスタートして炎上しました。本人はSNSで、主催者の誘導でBブロックの後方に並んだと弁明していましたが、Cブロックの前方に並んだ人からすれば、納得できなくて当然です。
早めに会場入りし、アップもそこそこにして、できるだけブロックの前側に入りたいからトイレも我慢して30分以上整列して待機していたら、芸能人がやってきて自分たちよりも前に入り、それでいて走り終えて「自己ベスト更新」という喜びの呟きをSNSにあげる。
まったくフェアではありませんし、毒付きたくなる気持ちもわかります。ハリー杉山さんはオフィシャルサポーターだから、特別待遇されて当然なのかもしれませんが、一般のランナーからすれば、ハリー杉山さんがオフィシャルサポーターなのかどうかも知りません。
ハリー杉山さんは今回の件について「プロフェッショナリズムの認識の甘さ」としていますが、個人的には「スポーツマンシップの欠如」なんだと思います。それはハリー杉山さんに限ったことではなく、日本のスポーツ界全体にいえることなのですが、自分以外の競技者に対するリスペクトが欠けています。
ただ、それを責められない事情もあります。もう誰もスポーツマンシップを持っていないから、それを教える人がいません。指導がないから身につくわけもなく、競技者同士がSNSを使って無意識に傷つけあっていく。以前から言っていますが、日本のスポーツ界全体でスポーツマンシップについて議論すべき時期に来ています。
自分の言動が周りにどういう影響を与えるのか、相手の立場になって考える。特別待遇を通常運転とする芸能の世界の人たちにそれを求めるのはそもそも無理なのかもしれませんが、少なくともランニングの世界では、スポーツマンシップを行動の規範とする文化を根付かせたいところです。私にそんな力はありませんが。
