
先日、アシックスのランニングイベントの取材で元プロ卓球選手である石川佳純さんの走りを見る機会がありました。言わずと知れたトップアスリートであり、どんな走りをするのか楽しみにしていたのですが、走り方については「おや?」と感じるところが多々ありました。
誤解を恐れずに書くなら、アスリートというよりは普通の女の子の走りで、しかも左右バランスが崩れているように見えます。ただ、よく考えてみれば当然のことで、彼女は幼い頃からひたすらラケットを振ってきたわけです。必然的に体に左右差が生まれます。
興味深いのは、石川佳純さんは左利きだということで、ただランニングは右足主導で、左足をうまく使えていない感じがありました。過去に右ふくらはぎの痙攣や、足首を痛めたりしているので、利き足は右なのかもしれません。もしくは卓球において左利きは右足を使う動きになるか。
いずれにしても、世界のトップアスリートになるというのは、そこまで体を酷使しなくてはいけないのでしょう。私はサッカーとマラソンの世界でトップアスリートを見てきているので、どちらも比較的左右バランスに優れており、競技により左右差ができるという当たり前のことが頭から抜けていました。
たとえばゴルフ選手や野球選手なども、トップレベルになると左右差が生まれて、ランニングをするときにはそのクセが出てしまうのかもしれません。大きな何かを得るために、別の何かを失ってしまう。トップアスリートの世界は私が想像する以上に厳しい世界なのかもしれません。
選手によっては、引退してからその左右差を矯正するために体づくりをすることになるのでしょう。もっとも日常生活は現役時代も行っていたわけですから、そのままでも生活に困るほどではないはずですし、そもそも左右差が生まれていることを把握していないケースも多々あるはずです。
ランニングを教えていると、個人差はあれど、ほぼみんな左右差があります。ただそれは骨格や筋肉による左右差ではなく、伝達系の左右差の場合がほとんどです。効率のいい走り方を習得するために、これまで経験のない動きをしてもらうと、利き足は上手くできますが、反対側の動きがぎこちなくなります。
これは伝達系ができていないからなので、何度も繰り返して体に動きを覚えさせることで改善できます。体が動きを覚えるスピードも個人差がありますが、運動経験の少ない人のほうが短い時間で習得できる傾向にあります。運動経験があると、そのスポーツの動きに誘導されてしまうためです。
おそらく、競技と真剣に向き合ってきた人ほどその傾向は強くなります。その競技においては、体が勝手に動くことはとても大事なことなのですが、違う競技をするときにはマイナス要素になることがあります。マラソンも左右バランスは良くなりますが、サイドステップの動きが下手になります。
人間には高い適応力があり、ひとつのことを専門的に続けると、それに特化した体になります。体だけでなく思考も同じで、ひとつのことばかりやっていると、思考が固まっていく。歳をとると頑固になりやすいのはそのせいなのかもしれません。
いつまでも柔軟な発想ができる自分でいたいなら、常に新しいことに挑戦していく。ひとつのことだけ続けないということも大切なのかもしれません。毎日ライティングばかりするのではなく、物流現場にアルバイトに行く。そういうことを意識的にすることが大切。
もちろん何かに特化した生き方をするのも素敵で憧れはあります。ただ私は典型的なオールラウンダーなので、何でも対応できる自分でなくてはいけません。そういう意味でも、ひとつのことに固執することなく、これからも新しい挑戦を続けていく必要がありそうです。