
中国で拘束された邦人男性が懲役12年の有罪判決が下されました。スパイ活動を行ったということですが、中国においては何でもスパイ活動になってしまうため、実際に何が起きたのかはわかりません。ただハッキリしているのは、中国に行きたい人が減るということです。
万里の長城マラソン日本事務局をしていると「参加したいけど中国は安全ですか?」というような問い合わせをしていただくことがあります。これはとても答えにくい質問で、いつも返答に困ります。参加してもらいたいとかそういう気持ちを別にしても、とても難しい質問です。
夜中に1人で歩き回れるという意味では、北京の治安は驚くほど素晴らしく、滞在中の私は日本と同じ感覚で過ごしています。緊張感がなさすぎると自覚しているほど、北京は安全なのですが、いつ逮捕されたっておかしくないとも思っています。
それは何か悪いことをしたというわけではなく、何気なく撮影した写真が「スパイ活動だ」と言われてしまうと、もうどうしようもなくなるためです。私の場合は、パスポートに中華人民共和国と中華民国のスタンプしかなく、それだけで拘束されてもおかしくありません。
実際にそんな人はいくらでもいますし、その程度のことで拘束されたり逮捕されたりすることはありません。でも、リスクとしては確実に「ある」わけです。だから、「安全ですか?」と聞かれても困るわけです。安全だけどリスクがあることを伝えなくてはいけないと思うと憂鬱にもなります。
正直なところ、拘束されるリスクが不安なら参加しないほうがいいとは思います。マラソンくらいのことで、そんな不安を抱える必要なんてありません。そのような人は中国に向いていないので、もっと安全な国を走るほうがきっと幸せになれます。

ただ繰り返しになりますが、北京の治安は東京よりもいいと思っています。少なくとも大会受付のあるエリアは文教地区ということもあって、北京の中でも飛び抜けて静かで穏やか。鶴巻温泉と同じくらい平和です。あくまでも、国としてのリスクがあるということです。
万里の長城マラソンを広めるためにYouTuberに依頼しては?とアドバイスしてくれる人もいます。知名度を高めることがとても大事なので、YouTuberという存在はとても魅力的です。でも、それはあまりにもリスクが高いことに最近になって気づきました。
そもそも中国には建前上YouTubeというものがありません。中国では実質的に禁止されていて、そこに中国の映像を流すというのは、ただただ危険な行為になります。動画を公開したことを理由に、次の訪中で拘束されてもおかしくありません。
宣伝を依頼しておいて、安全を守れないというのでは無責任すぎます。もっと万里の長城マラソンは予算的にもYouTuberに依頼できませんし、何よりも「誰であっても特別扱いしない」を基本スタンスにしています。芸能人であっても政治家であっても参加費は払ってもらいます。
そういう意味では、万里の長城マラソン日本事務局のスタンスは本来の共産主義、社会主義に近いのかもしれません。万里の長城マラソンにおいては、参加者みんなが平等です。誰かを特別扱いすることもなく、同じホスピタリティを提供する事務局であることを目指しています。
もちろん、仲のいい参加者たちと北京で食事に行くくらいのことはします。でも、仲がいいというだけで特別に便宜を図ることはありません。むしろ、いつものメンバーには助けられるだけで何も返せていません。そういう人たちとの出会いや繋がりがあるから、私は万里の長城マラソン日本事務局を続けていけるわけです。