
初心者にランニングを教える場合、まずは「歩く」と「走る」の違いから説明します。初心者でなくても、ケガをしやすい人や記録を伸ばしたい方に対しても、同じように「走る」の説明をします。多くのケースで反発を利用した走り方ができておらず、筋力を使って走ろうとしてしまうためです。
走るのだから筋力を使うのは当然じゃないかと思うかもしれませんが、ランニングにおいては爆発的な筋力の使い方はしません。ランニングは着地するときのエネルギーを推進力として使えるので、地面を蹴らなくても重心の後ろ側に着地すれば、黙っていても体は前に進みます。
では、なぜ多くの人が筋力を使って走ってしまうのか。理由はいろいろありますが、そもそも「反発を使う」という感覚がないことが、最大の理由だと私は考えています。本来は学校で習うべきことですが、もちろん学校でそんなことは教えてくれません。
なぜなら、学校の先生も「走る」を理解していないから。体育の先生になるような人は、大抵が子どもの頃に体を動かすのが得意だったはずで、習わなくても走れていたわけです。だから体育の授業で、前振りもなく「まずは校庭を走って」なんて無理を言うわけです。
言われた側も、これまで当たり前のように走ってきたから疑問を抱かずに自己流で走る。その結果、ランニングはウォーキングの延長になってしまい、太ももの筋肉で脚を動かしてしまいます。もちろん、それでも走れてしまいます。実際問題としてランニングに正解なんてありません。
ただ、もっと効率的に、ケガをすることなく走りたいとなったときに、ウォーキングの延長では限界があります。特にフルマラソンのような長い距離を走る場合には、できるだけ出力を抑える必要があります。そうなると、太ももを使って走るというスタイルは最適解ではなくなります。

ではどうすればいいのかというと、重心の後ろで軽く膝を曲げて着地し、着地した瞬間に膝を伸ばせば推進力を生み出すことができます。膝を曲げて着地するからふくらはぎと腿裏の筋肉が圧縮されるので、そこに反発が生まれ、小さな力で前に進めます。
もしくは少し力をかけるだけでストライドを伸ばせます。言葉にするのはとても簡単なのですが、人生の中でやったことのない動きになるため、初めはかなり戸惑います。伸びた筋肉を圧縮させるという使い方はできても、圧縮させて解放させるという動きは習得に時間がかかります。
とはいえ、難易度は個人差があります。そもそも無意識に反発を使って走っている人もいて、そういう人からすると、自分の動きを再確認するだけ。そして、そのような動きをすでにしている人は、もうそこそこ走れたりします。なので、私がパーソナルトレーニングでそのような人に出会うことはほとんどありません。
アシックスから新しいMETASPEEDシリーズが発売され、少しだけ履いて走らせてもらいました。METASPEEDシリーズには3つのモデルがあり、軽量化に特化したRAYは別として、SKYと EDGEはそれぞれ、まったく違った走ら方を求められるシューズに進化していました。
SKYがまさに私が説明した走り方で、着地した膝を伸ばすことでストライドがより伸び、反対にEDGEは太ももの筋肉を使って地面に脚を下ろすことで、シューズが反発しピッチが上がった推進力を生み出します。そこで気づいたのですが、今の時代は必ずしも膝を伸ばす意識は必要ないのかもしれません。
反発力はシューズが生み出してくれるので、どんな走り方でも反発を活かした走り方ができます。ただ、理屈をわかっていないと、自分の走りの良い面をシューズが消してしまうこともあります。だから、自分の走りを理解したうえでシューズを選ぶことが大事になってくるわけです。
