
スポーツには大きく分けて2つの方向性があります。ひとつは「勝者になること」で、これは年齢や性別に関係なく、少なくとも日本でスポーツを行ううえで避けられないというか、最初に進む方向になります。甲子園にしてもインターハイにしても、目指すは優勝です。
もうひとつの方向性は「成長のための自己鍛錬」です。勝ち負けよりも、自分自身を成長させることを最優先にする考え方。「道」かつく日本の文化において、最終的に目指すことになる姿ですが、早い段階で、自己鍛錬による成長を目指す人も少なくありません。
優勝を目指すにしても自己鍛錬するじゃないかと思うかもしれませんが、向いている方向がまったく違います。よくプロスポーツで「○○選手とは対戦したくない」という敬意を表する表現がありますが、勝つためにレベルの高い選手との対戦を避けたい気持ちの表れでもあります。
成長のための自己鍛錬をしている場合、「できるだけ強い相手と戦いたい」となります。大谷翔平選手と同じチームに入るのではなく、大谷翔平選手と試合できるチームに入る。そうすることで、より自分を高いところへ引き上げようとするわけです。
ただ、競技によっては成長するために、優れた選手のいるチームを選ぶしかないケースもあります。典型的なのがサッカーのフォワード。弱小チームに入ると、1試合で与えられるチャンスの数は数回しかなく、それだけ結果を出しにくくなります。
反対にゴールキーパーの場合、とにかく弱いチームに入ることが成長につながります。弱いチームほどピンチの数は多く、それだけたくさんの経験を積むことができるためです。強いチームに移籍するのは、伸び代が減ったと感じてからでいいわけです。

勝利か成長か。どちらを選ぶべきかという議論には意味はありません。大切なのは自分がどちらを好むのかを明確にすることです。もちろん、後から変更することは可能です。ただ、いま自分がどこを見ているのかを明確なしておかないと、簡単に迷ってしまいます。
マラソンはトップアスリートを除くと、みんな成長のための自己鍛錬として走り始めます。30代や40代から走り始めた場合、誰も世界選手権やオリンピックで優勝したいなんて考えないわけです。ところが、マラソンには明確な結果があります。
タイムとして評価されてしまうので、走り始めたころは成長を目指していたはずなのに、いつのまにか、過去の自分への勝利、すなわち自己ベスト更新を目指してしまいます。もちろんタイムは成長を知るためにとても大事な数値のひとつです。
でも、タイムそのものは成長以外の要素も影響します。高額なレーシングシューズや動きをよくするタイツや、体内に糖を溜め込めるドリンクなどなど。それらを使って自己ベスト更新を出したとしても、それは本質的な成長とはいえません(経済的な成長の証ではありますが)。
何のためにランニングと向き合うのか。なぜ走るのかを忘れないこと。これがとても大切なポイントなのですが、ほとんどの人が忘れてしまうことでもあります。ある程度の成長を経て、伸び悩んだときに、道具に頼ってタイムを出したくなる。
そこに意味はありません。自分の足に合う、自分の走り方に合うシューズを選ぶことは大切です。でも、タイムの見栄えを良くするために速く走れるシューズを選ぶのは違います。それを理解したうえで、ハイスペックなシューズを選ぶのは自由。でも、本当に必要なのはそれなのか、一度立ち止まることも時には必要です。
