クリスマスだからこそ物書きは言葉を積み重ねる

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こう見えてわたしは、クリスマスの雰囲気が好きだったりします。ちょっと街が浮ついた感じになるのを見ているのはそう悪いものではありません。

小さな頃はやっぱりサンタさんの持ってきてくれるクリスマスプレゼントが楽しみでした。なんとか眠らずにサンタさんの正体をつかもうとしたものの、足が見えたところで怖くなって目を閉じたことを今でも覚えています。

普段は怖かった母が、クリスマスイブと大晦日だけはずっと優しかったのも大切な思い出です。実はクリスマスが好きな本当の理由はそこにあるのかもしれません。

プレゼントはワクワクしましたが、本当に楽しかったのは新聞に挟まれているおもちゃのチラシを見る時間でした。プレゼントというのは、もらってしまえばそこで大体の役割を終えてしまいます。

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浮かれ気分でフワフワしてても許される1日。

でもわたし自身は浮かれることが得意ではありません。こういう日でも普通の1日と変わらず働いています。伊集院静さんが先輩の作家さんに「お正月はどうやって過ごすのですか?」と尋ねたところ「お正月だからこそ書くのが作家だ」というようなニュアンスのことを言われたそうです。

あぁなるほどなと、変なところで共感してしまいました。他の人は知りませんが、物書きという仕事に休みというものはありません。もちろん、仲間とお酒を飲むような時間はありますが、それだって自分の創作につながる可能性があります。

物書きは生きていることが仕事なのだから、盆も正月もクリスマスも誕生日もありません。

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もちろんわたしだって、恋人と過ごすクリスマスというのを何度か経験したこともあります。そのころは物書きではなかったので、それくらいあってもいいでしょう。クリスマスの約束をドタキャンされたこともあります。

それらは全部いまのわたしの糧となっています。そういう経験があるからこそ、今は地に足をつけてクリスマスというものを俯瞰してみることができています。少しくらい浮かれてもいいのではないかと思う気持ちもありますが、恋人と過ごすクリスマスというのは1人の努力でどうこうなるものではありません。

結婚はともかく恋愛くらいしてもいいのかな。そんな風に意識が変わってきましたが、いかんせん1日は24時間しかなく、わたしはまだまだ駆け出しの物書きです。

そんなことを言っているうちに歳を重ねて、恋愛どころではなくなってしまう。そう言う人もいますが、わたしは年齢というのは重ねれば重ねるほど素敵になれると信じています。

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どんな人だって、1年前の自分よりは今の自分のほうが魅力を持っています。1年間で何も経験していないという人はいませんよね。男女ともにわたしくらいの年齢になれば目尻の皺が気になりますが、それさえも魅力だと思います。

若さは特権であり、加齢は魅力である

少なくとも歳を重ねることを、ネガティブに感じるような生き方はすべきではありません。残念ながら加齢とともに魅力がなくなっている人はいます。でもそれは加齢が原因ではなく、その人が何かを諦めたからではないでしょうか。

40歳になっても50歳になっても何かを追い続けている人の魅力が失せることはありません。

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仕事にしても生活にしても「何かをしなくてはいけない」という思考回路になっている人は、年齢に関係なくどんどん魅力が消えていきます。自分が何をしなくてはいけないかではなく、自分は何をしたいのかで語り行動する。

そんなこと誰にでもできるわけではない。そう言って逃げてきた人をたくさん見てきましたが、別に逃げたい人は逃げればいいと思います。みんながわたしのような思想だと、この国はきっと滅んでしまいます。

この国が活力を取り戻すには、難しいことを考えずに、ただクリスマスやハロウィンを楽しめる人が増えるほうがいいわけです。考えるよりも本能で楽しさを選べる。そういう人が増えていくことを期待しています。

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わたしはどうしても頭で考えてしまうのですが、それがわたしのやり方ですので、浮かれて幸せになることは他の人に任せたいと思います。

わたしは自分のリズムで今日もまだ仕事を続けるわけです。そこに1ミリも悲壮感はありません。それに気づいたとき、わたしはほんの少しだけプロの物書きに近づいているのだなと感じることができました。

それがわたしにとっての最大のクリスマスプレゼントかもしれません。


女と男の品格。
著者:伊集院静
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