ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ☆アディオス〜ひとつの時代の終わり〜

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昨日は展示会の帰りに映画の日でもないのに映画を観てきました。ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ☆アディオス。このタイミングで観ておかないと2度と観れないような気がして。

ブエナビスタソシアルクラブが注目されたのは20年近くも前の出来事。村上龍さんが熱くキューバの魅力を語り、わたしはその熱に押されるようにキューバへと向かいました。

社会人2年目の夏だったと思うので、実際にキューバに降り立ったのは2001年。わたしはまだランナーでもありませんでしたし、キューバがどのような国なのかもほとんど知らずに、なけなしのボーナスをすべて使って単身渡航。

運命のいたずらなのか、カンクンからハバナへのフライトで、まさかのブエナビスタソシアルクラブのメンバーと同じ飛行機に乗るという奇跡がありました。

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飛行機を降りた入国審査は、外国人用もキューバ人用も同じ列に並びで、あのオマーラ・ポルトゥオンドがわたしのすぐ後ろにいるという恐ろしい経験をしました。

キューバを代表する大物歌手であっても、みんな同じように並ぶ。未知の国への第一歩がこれでしたので、社会主義というのは実に面白いと感じたのを今でも覚えています。

もちろんキューバに行く前にブエナビスタソシアルクラブの映画も観ています。ただ、そのときは熱狂的な気分になるというよりは、荒い画質の映像を淡々と観ていたような気がします。

まだ世の中をよく分かっていませんでしたし、世の中を分かりきったつもりでいた20代前半の若造でした。

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あの映画からの18年を描いたのが、今回上映となったブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ☆アディオスです。正確にはあの映画の後の数年と、18年後の現在の状況、そして彼らのルーツについて語られています。

今ならわたしでも分かります。彼らがどんな思いでカーネギーの舞台に立ったのか。いや、本当のところは何もわからないのでしょう。ただ、あのとき知らなかった歴史は学んでいます。

なぜキューバが社会主義国への道を選んだのか。なぜアメリカと仲違いしなくてはいけなかったのか。

そして、そうした歴史を知った上で観たブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ☆アディオスは、重たいものがあり、そして同時に希望に満ち溢れている映画でした。

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全盛期を過ぎ、現役を引退した老人とも呼べる年齢の人たちが再び表舞台に立ち、そして自分たちの想像を遥かに超えた注目を浴びたこと。

遅咲きでも花は開く可能性があるという事実は、夢や目標に向かって真っ直ぐに突き進む人にとっては、大きな支えになります。

もちろん、彼らには才能があります。そしてキューバ人だというあの時代だからこそのバックボーンもあります。時代がちょうど追い風になったのは間違いありません。あの時代の風に乗るには10年早くても10年遅くてもいけませんでした。

アメリカとキューバは国交正常化が進められていますが、お互いが歩み寄るためのきっかけになったのがブエナビスタソシアルクラブと言っても過言ではありません。

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カーネギーでの大成功があり映画も大ヒットしたにも関わらず、グラミー賞の授賞式に向かうためのビザが下りなかったという時代を乗り越えて、オバマ政権でのホワイトハウスでの演奏。

その過程で寿命を迎えてしまった天才たち。

ホワイトハウスでの演奏やアディオス世界ツアーで、イブライム・フェレールの歌声のないブエナビスタソシアルクラブ演奏を聞いたとき、わたしの中でひとつの時代が終わったのだと気づきました。

わたしにとってのキューバは青春の残り火のようなもの。それが20年近くもくすぶり続けましたが、ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ☆アディオスを観たことで、すべて過去の記憶という灰になったのを感じました。

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映像の中で現在のキューバが映し出されました。

いずれは再訪したいと思っていたハバナの映像には、スマホを片手に佇むキューバ人の姿がありました。街の雰囲気もわたしの知っているものではありませんでした。当然です15年以上経過しているのですから。

実は、最新の映像を見て「またキューバに行きたい」と思うではないかと考えていました。でも結果はその反対でした。わたしに若さがなくなったからか、映像から伝わってくる人々に怖さを感じている自分がいます。

「ここは今の自分が近づいてはいけないところ」

本能がそう言っています。でもきっと変わってしまったのはキューバの人たちではなく、わたし自身なのでしょう。あの頃のように尖ってもいませんし、勢いだけでは行動しなくなりました。

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それでも、ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ☆アディオスはしっかりとわたしの中に沁みています。オマーラやイブライムなどの発した言葉が心を揺さぶっています。そしてわたしに問います。

「お前の愛はどこにあるのだ?」

走ること?中国や台湾?モノを書くこと?そこに愛はあるのかと強く迫ってきます。さてわたしの愛はいったいどこにあるのでしょう。彼らはいつも愛を基準に語ります。「愛がなければ、人生はない」と。

キューバは貧しい国ですが、そこには紛れもなく真実があります。20年前に理解できなかった愛することの意味が、今なら少しだけ分かるような気がします。40にして未だ熟せずですが。


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著者:中野 健太
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