わたしはトレランのレースは走りませんが、UTMFなら走ってみたいとちょっと欲深いことを思っています。もちろんUTMFに出るには、きちんとトレランのレースに出なくてはいけませんので、わたしがUTMFに出ることは一生ないのでしょう。
UTMFに魅力を感じていた理由のひとつが、富士山の周りをぐるっと1周して戻ってくるというロマンにあります。
ただ、今日発表された開催予定では、富士山の周りを1周走るコースを断念し、確実に迂回路を確保できるレースに変更されることになりました。
迂回路を設定できない裾野市、御殿場市、小山町を通過しない。これはもう苦渋の選択だったと思います。そこだけ無理して通過させるという選択肢も合ったのでしょうが、UTMFの運営は1周走らないという道を選びました。
なかなか出来ない判断です。それでいて170kmと100マイルを確保するという執念。
ただ参加者の安全を守るというのは、これくらいのことをしなくてはいけません。もし来年も大雨になって中止にでもなったら、おそらくUTMFは2度と開催できないくらい大きな痛手となります。
逆を言えば、どんな天候になっても、オールロードになっても開催するということです。ULTRA-TRAIL Mt.FUJIはその年だけULTRA MARATHON Mt.FUJIになるわけです。
そして何よりも、この大会には富士山の周りを1周するというロマンはなくなりました。
ハセツネと並ぶほどの人気のある大会ですので、おそらくしばらくは参加者希望者が減るということはないのでしょうが、大会側がこれまでにない魅力を付加できなければ、徐々に参加者が離れていくことは避けられません。
きっとそこまで考えての開催でしょうから、いったいどのように変わるのか気になりますが、万里の長城マラソンの関係で、取材に行けても初日だけかもしれません。
今回のことでわかったことは、日本のトレイルで100マイルを確保するのがとても難しいということ。もちろん他にもいくつか100マイルレースがありますが、アメリカほどではありません。
鏑木さんを始め、大会スタッフはあくまでも日本で100マイルレースを開催するという強い思いをもって、運営を行っているのでしょう。しかも世界から注目される富士山の麓で走れるわけです。
こうなってくると、トレランってなんだろう?山を走るのってどういうことなんだろう?トレランのレースに出ない者としては、そんな基本的な疑問が湧いてきます。
自分の限界を超えたいから山を走る?自分と向き合いたいから?誰よりも早く走れることを誇示したい?
きっと山を走る理由は1000人の参加者がいれば、1000通りの答えがあるのでしょう。わたしは100kmのロードを走る理由を見つけられずに、100kmのウルトラマラソンから撤退することを決めました。
UTMFのような超長距離のトレイルレースに出る人は、どのような思いを持ってエントリーをするのでしょう?それに関してはとても興味があります。
そして、今回のコース変更をどう受け止めるのでしょう?
100マイルへの挑戦さえできれば問題ないと思うのか、それともオール迂回路になってはたまらないと、参加を回避するのか。はたまた、自分で自由に富士山の周りを1周するようなランナーが出てくるのか。
そもそも、なぜレースでなければいけないのか。これもトレランに限らず、ずっとわたしが持っている疑問です。
フルマラソンくらいなら、ちょっとしたお祭りみたいなものですし、毎週出場したって、追い込まなければ体に負荷はかかりません。ウルトラマラソンとなると話は違います。知り合いに毎週ウルトラマラソンを走っている人が1人いますが…
100マイルものレースを走るくらいなら、自分で100マイルを好きなように走るというふうにはならないものなのでしょうか?レースだから頑張れるのかもしれませんが、好きに走ってもレースで走っても100マイルは100マイルです。
レースならば山の安全が高まっているというのもひとつの理由かもしれませんが、山ではそもそもリスクを負うようなことをしないのが基本なはずです。レースじゃなくても常にリスク管理をしておくのは当然のことです。
トレランもウルトラマラソンも、レースが終着点になっているような気がして、本当にこれでいいのかと感じることがあります。
100kmを走れるようになることを目標に体を作って、レースに出て完走して満足する。それもひとつの楽しみ方ですが、100kmや100マイルを走りきれるようになったから、それを使って何かをしたい。
その選択肢を選んでいるのは圧倒的に少数派です。
レースは自分を高める目標としてはとても分かりやすいものですが、そこはあくまでも過程であるほうが、走ることをもっと楽しめるんじゃないかと、わたしは思います。
今回のUTMF実行委員会の判断によって、そこに目が行くランナーが増えると、面白いことになるような気がします。日本には「試合」という言葉があります。レースは日頃の成果を試し合う場。
実践の場は他にあるというのがわたしの考え方です。
ちなみに「試合」の本当の意味は「試し合う」ではなく「為合」で、「〜し合う」が語源です。「お互いの技術を披露し合う」のような感じでしょうか。それでもやはり実践の場は試合ではないはずです。
それぞれのランナーが、それぞれ高めた技術を披露し合い、良いと思ったものを学び合う場がレースです。
マラソンならレースは試合ですが、例えば東日本大震災のようなときに、自分の家まで走って帰るというのが実践の場のひとつではないでしょうか。わたしがよく行う街道の旅ランなども実践の場です。
トレランも、そうやって山を走って旅する人がこれから増えていくかもしれません。UTMFはあくまでも試合であって、その先に走りの技術を活かす場がある。今回の決断で、トレランの世界がそういう方向に向いていくと面白いのですが、さてどうなるのでしょう。
著者:山と溪谷社
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