もう1週間前の話になりますが、今年もクリールのシューズトライアルに行ってきました。たくさんのメーカーのシューズを履き比べることができる素敵なイベントですが、人が思ったよりも集まらないのか不思議。
みんなはシューズをどうやって選んでるのでしょう?ランニングシューズは自分の走りを引き出すために、とても重要な役割を果たします。お店で履いて「いい感じ」なんて感覚だけで選ぶ度胸はわたしにはありません。
実際に履いてみて自分との相性を確認し、本当に頼れる1足を選ぶというのがランニングシューズ選びの基本です。
ただ、履き比べてもよく分からないという人のほうが、圧倒的に多いんだろうなとは思います。設計の意図やコンセプトを読み取ることができなければ、何十足履いたところで自分の足にあったシューズを選ぶことはできません。
それはわたしの小言のようなものなので別にいいのですが、今回のシューズトライアルで気になったのが、多くのメーカーがランニングシューズにクッション性を重視していたという点です。
この流れを生み出したのは、アディダスのBOOSTやナイキのヴェイパーフライなどですが、今回10足以上履いて分かったのは、ただ柔らかいだけのシューズが多すぎるということです。
そのようなシューズの多くは、初心者向けとして売られていますが、はっきり言ってやめておいたほうがいい。少なくとも初心者ランナーには、クッション性の高いシューズを選ばせるべきではありません。
ランニングシューズにクッション性を持たせると、膝などの関節への負荷が小さくなります。でも、それだけ力をロスしているわけで、クッション性だけを高めたランニングシューズでは、タイムが遅くなります。
これはあくまでもわたしの感覚ですが、アディゼロジャパンやヴェイパーフライは、自分のかけた力の90〜95%くらいが反発力として戻ってきます。5〜10%くらいがシューズの変形などによってロスしています。
ところが、他のメーカーのクッション性を重視したシューズは、反発性をともなっていないので、自分がかけた力の70〜80%くらいしか戻ってこずに、20〜30%はロスしています。
力が戻ってこないから、関節への負荷が下がるわけですが、反発力も低下するのでスピードを出したくても出せないシューズになっています。こんなシューズを売り出す意味が分かりません。
いや、意味はわかります。メーカーは利益をあげなくてはいけないので、シューズを売らなくてはいけません。クッション性の低いシューズしか作らず、「鍛えて出直してこい」というスタンスではシューズは売れません。
「走力が足りなくても、このシューズなら体への負担が少ないから完走できる」というシューズのほうが売れるわけです。でも、速く走れるシューズじゃないから、完走するのに6時間前後もかかるわけです。
それって本当に完走をサポートしているのでしょうか?
クッション性そのものはあったほうがいいのは、ナイキのヴェイパーフライが証明しました。だから、他のメーカーもそれに習うというのは仕方のないことです。でも、ナイキやアディダスは吸収した力を反発力に替えています。
着地したときに力が逃げないから、より速く走ることができます。そのために、ものすごいお金をかけて解析を行っています。他のメーカーも解析を行っているのかもしれませんが、わたしの感覚では衝撃を吸収する解析とエネルギーリターン解析がリンクしていないような気がします。
ナイキやアディダス以外でも、ミッドソールに「かつてない反発力」を持たせたソール材を使っていたりしますが、明らかに力が逃げています。ナイキやアディダスのシューズが優れているのは、このソールの開発力にあります。
もっともアディダスのBOOSTフォームが出来たばかりのころは、同じように力が逃げて、反発が遅れてくるという気持ちの悪いものでしたが。
きちんと反発させられるから、柔らかくても走れます。なのに多くのメーカーは柔らかさだけを真似して、反発力がないスカスカのシューズを量産しています。今回のシューズトライアルにアディダスが加わったことで、そのことがはっきりと分かりました。
ランニングシューズは基本的にロスが発生します。このため理論的には裸足が最も速く走れます。わたしも1kmくらいなら裸足が速いとは思います。でも痛いので、そのスピードを維持して42.195kmを裸足で走るのは困難だから、勝負レースではシューズを履きます。
だからランニングシューズがあるわけですが、最近のランニングシューズは機能性を持たせようとしすぎて、ロスが大きくなっています。そこにきてクッション性重視になったことで、さらにロスが増えて走れないシューズが完成しています。
「初心者は速く走らないからこれでいいんだ」とメーカーの人は言うかもしれません。でも本当にそうでしょうか?どんなスピードで走ってもロスはロスです。「速く走らない」ではなく「速く走れない」のです。
関節への負荷が少ないシューズを作ることには異論はありません。でも、そのシューズを履くことで、速く走れなくなるというのは認めたくはありません。その2つは相反するものですが、だからこそ両立を目指してもらいたい。
もちろんクッション性重視のシューズがあってもいいと思います。でも、きちんと「スピードは犠牲にした」「パワーロスはある」ことは伝えてほしいなと。設計上どれくらいのロスが発生しているのか、メーカーは把握しているはずです。
そんなこと伝えるとシューズが売れなくなると思うかもしれませんが、現状でランナーがシューズを選ぶための情報が少なすぎます。スマホにスペック表があるように、ランニングシューズにもスペック表があるのが理想。
「どんなレベルのランナーにも最適」みたいな売り方をしているランニングシューズもありますが、それはもう詐欺のようなものです。そういう売り方をしていると目先の利益は出るかもしれませんが、長い目で見ればファンが減ります。
クッション性が高いシューズでないと、アメリカでは売れないということは理解しています(100kg近い体重のランナーを支えるわけですから)。でもそれは本当にランナーのためになっているのかを考えないと、シューズメーカーに未来はありません。
せめてナイキやアディダスのように、ロスの少ないシューズに仕上げてから製品化してもらえればいいのですが。柔らかいだけのランニングシューズなんて、何の価値も感じられませんし無意味です。
わたしたちは休みたいのではなく走りたいのです。それも可能な限り速く。
柔らかくて重たいランニングシューズを履いて走るのは、足かせを付けて走っているのと同じことです。ランニングは自由になるために行うもの。足かせになるものは可能な限り排除すべきです。
とはいえ、こんなところでグチってもメーカーのスタンスが変わるわけはありません。だからシューズを選ぶ人に伝えます。シューズ選びで大事なのは接地したときの力が逃げないシューズを選んでください。
ランニングシューズを試し履きして、その場でジャンプすればロスが発生しているかどうかは感じられるはずです。本当はやっぱり走ってみないと分からないのですが、お店で走るわけにはいきませんから。
シューズ選びで大事なのは「ロスが少ない」ことです。それがあってからのクッション性です。順番を間違ってはいけません。速く走りたいと思わないなら、別に何を選んでも構いませんが。
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