昨日も新しいシューズ「マンダムフライギア」のレビューのために、1kmのタイムトライアルをしてきた。1kmが3分33秒で、ここ最近の最速タイムを叩き出したAdizero Adios Proよりも約10秒ほど遅い。ただ、Adizero Adios Proは税込で27,500円で昨日履いたシューズは税込で3,900円。その差額2万円以上だ。
もう1足、MEDIFOAMのRUNNERS HI 2で走ったときには、同じく3分33秒でこちらは税込13,750円。自分の感覚でも今回履いたシューズは1万円くらいのシューズと同等のポテンシャルと感じたので、まさにそのとおりの結果になった。
1kmを10秒速く走れても7分しか縮まらない
わたしの走力ではフルマラソンを走ったとしても、1kmを4分20秒くらいのペースで走ることになるのだが、おそらくAdizero Adios Proなら4分10秒/kmのペースで走れるだろう。きっとナイキのヴェイパーフライNext%でも同じようなタイムになる。
高機能の新世代ランニングシューズを履くことで、1kmが5〜10秒ほど速くなる。仮に10秒速くなるとして、フルマラソンは42.195kmなので、約420秒速くなる計算になる。420秒というのは7分で、これを大きいと考えるか小さいと考えるのかは人それぞれだろう。
わたしのようにサブ3にギリギリ手が届かないというランナーにとって、7分の短縮は決して小さくはないが、3時間30分で走るランナーが、3時間23分でゴールしても大した喜びもない。1足3,900円のランニングシューズで3時間30分、1足27,500円のシューズで3時間23分。
この7分に2万円の価値があるのだろうか。
これは価値観の問題ではある。例えばわたしのようにランニングのトレーナーもしている人間にとってサブ3という看板は大きい。練習会の宣伝をしても人が来ないのは、わたしに実績がないのもひとつの理由だと思っている。だがわたしは、2万円を出して7分を縮めることに価値を感じない。
シューズによって速く走れることに意味はない
アスリートはともかく、市民ランナーにとって道具によってタイムが縮まることに大して意味はないと、わたしは考えている。ドラクエでロトの剣を手にしたところで、持ち主が強くなければ本当の勇者にはなれない。道具でタイムを縮めて喜ぶことは、スポーツの本質からは外れている。
それではレースでAdizero Adios Proを履かないかというと、そんなことはない。3,900円のランニングシューズを履いて感じたのだが、普通のシューズというのは驚くほどクッション性も反発力もない。MEDIFOAMのRUNNERS HI 2はタイムトライアル後にいろいろ試せたが、3,900円のシューズは疲労度が高く、ジョグしかできない。
足を守ると考えたときに、やはり最新の独自ミッドソールを採用しているシューズは魅力的だ。高いクッション性があるから、走り終えてから休むことなく帰宅できるし、回復も速くすぐに練習に戻ることもできる。速く走れることに意味はないが、新世代ランニングシューズで走ることには意味がある。
だが、普段のジョグで新世代ランニングシューズを履く気にはならない。ベストの選択肢は裸足であり、3,900円のシューズもしくは980円のシューズだと思っている。練習は足を酷使することに意味があるのに、足を守っていては走力はつかないから。
庶民の足にフェラーリはふさわしくない
ランナーが速く走れる新世代ランニングシューズを手にしたいという気持ちはわかる。わたしも道具に頼るランナーだった時代があったから。ランニングシューズを変えればもっと速く走れるかもしれない。そう思っていたマラソン歴2〜3年頃のわたし。
シューズを変えて速くなったことを、自分の実力だと勘違いしたこともある。もちろんシューズには相性があり、自分のポテンシャルを引き出せるシューズとそうでないシューズはある。だがシューズで速くなるのには限界がある。1度いいタイムで走れても、次にまた伸び悩むことになる。
いま新世代ランニングシューズを履いて自己ベストを出したところで、それは自分が今後追いかけるタイムの基準が変わっただけのことで、新世代ランニングシューズを履いても2回自己ベスト更新をしなければ、それは本当に速くなったわけではない。
ランナーだから速さへの憧れはある。やっぱりヴェイパーフライ Next%は魅力的で、Adizero Adios Proも履いていて楽しい。これまで手が届かなかった領域で走ることで、それに見合った筋力アップも期待できる。だが3万円近くするランニングシューズは高級車なのだ。
庶民の足としては軽自動車のほうが小回りが効くし、使い勝手もいい。フェラーリでスーパーに買い物に行くのは無理がある。趣味として手にするのはいいのだが、メインは庶民らしく5,000円以下のシューズのほうが自分には合っている気がする。
クッション性も反発性もないほうが楽しい
3,900円のランニングシューズを履きながら感じたのは、このようにクッション性も反発性も持っていないシューズで走るのは、実はとても楽しいのだということ。これは正直意外だった。同じエネルギーで走るなら速いほうが楽しいものだと思っていたのだが、実際は逆。
シューズが跳ねることなく、淡々と自分のペースで足を動かせるほうが、気持ちよく走ることができる。これは好みの問題なのか、それとも真理なのかはわからない。反発力の高いシューズを履いて「走るのが楽しくなった」という人もいるのも事実。
反発力の高いシューズ、クッション性が高いシューズはどうしても走るときに気を使ってしまうのだろう。頭でいろいろと考えて微調整をして、走りに集中することができない。でも機能性がないシューズは裸足で走っているのと同じで、何も考えずに走ることができる。
「いま走っているのだ」という感覚になる。この感覚はわたしにとってとても重要なものになる。スピードばかり追求するとランニングはどこかで楽しさが失われてしまう。本当はただ走っているだけで頬に触れる風が心地よく、走り終わった後の疲労感は何物にも代えがたい喜びとなる。
むしろ、この楽しさにプラス2万円を払ってもいいような気がする。
3,900円のランニングシューズ「マンダムフライギア」については、近々RUNNING STREET 365でレビューを書くので詳細はしばらく待ってほしい。正直なところ不満を感じるところもあるが、しばらくはこれがメインのランニングシューズになるだろう。直感を信じて購入してよかったと、程よい筋肉痛とともにそう感じている。