大迫傑選手の入賞に日本人ランナーは続けるのか【オリンピックをラストレースにした意味を考える】

オリンピックが無事終わりを迎えました。日本は過去最大のメダル数というのもあって、予想以上の盛り上がりがあり、私もサッカーはニュージーランド戦以外はすべて観ましたし、野球やソフトボール、卓球なども少しですが仕事の合間に観戦しました。でもやっぱりマラソンですね。

ただ走っているだけなのに、2時間も見続けられるのはそれだけ見どころの多いレースだったから。大迫傑選手が最後の最後まで、見せどころを作っていたのも大きかったかと思います。最後は本当に2位集団に追いつくのではないかという期待。結果的には6位でしたが、出せるものをすべて出した結果で、本人が満足しているなら傍観者の私が言うことは何もありません。

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日本人でも入賞できるという事実

マラソンといえばケニアとエチオピア。今回は圧倒的にケニアが強い印象があり、単純にタイムだけで考えれば上位6人はケニアとエチオピアで占められる可能性もありました。オリンピックで国ごとの人数制限がなく、上位ランカーだけが出場できるならトップ10だってケニアとエチオピアだったかもしれません。

それくらいこの2ヶ国が強く、日本人が速かったのは過去のことです。長距離への適性を考えたとき、日本人が優位になれる理由はほとんどありません。でも大迫傑選手は6位に入賞しています。5位入賞のアヤド・ランダッセム選手はスペイン人でアフリカ系ランナーを除けば1番速く、大迫傑選手はそこに肉薄しています。

レースは何が起こるかわかりませんし、速ければ勝てるわけではないのがオリンピック。もっともキプチョゲは速いだけでなく強さも兼ね備えている絶対王者ですので、彼がターゲットにしたレースでこの牙城を崩すのはほぼ不可能です。でも日本人でも入賞はできますし、大迫傑選手を見ているとメダルだって不可能ではない気がしてきます。

いや不可能ではないと確信しているのでしょう。誰よりも大迫傑選手自身が。だからこそこのタイミングで終止符を打ったのかもしれません。今の自分のノウハウをもって若手を育成すれば、2024年や2028年に日本の逆襲が可能になる。そう信じているからこそ次の世代に期待して身を引くのでしょう。

これまでのやり方ではアフリカ系ランナーには追いつけない

日本人でも可能性はあると信じてはいるものの、きっと既存の日本陸上界のあり方では世界とは戦えない。きっとそんな想いもあるのでしょう。箱根駅伝を目指し、そして実業団に入って駅伝をしながらマラソンを走ることに無理がある。このシステムを変えないかぎり、アフリカ系ランナーの背中ばかり見続けることになる。

ここから変えていきたいというのが彼の本心なんじゃないかなと、個人的に感じています。要するにマラソン特化型の進路を作るということ。箱根駅伝を目指すのはいいとしても、その後の進路が実業団駅伝とは別にプロのマラソンランナーという道を作れれば、日本も世界で戦えるようになる。

それは日本陸連もわかっていることなのでしょうが、現実として実業団を無視してその道を敷くことはできません。だから大迫傑選手が自分の経験を基にその道を敷く。それが5年後じゃ遅くて、いまやらなくてはいけないという確信があるのでしょう。それはトップアスリートなりの直感なのか、何らかのデータに基づくものなのかはわかりませんが。

日本人には可能性がある。ただ、過去の道を踏み重ねても無理。これがきっと事実であり、今がそのための分岐点なのでしょう。

世界はアフリカ系帰化選手で溢れてくる

今回2位のアブディ・ナゲーエ選手が3位のバシル・アブディ選手をラストスパートしながら励ましていたのが注目されましたが、彼らは2人ともソマリアの難民で知り合い同士でした。それがオランダとベルギーを代表する選手として、オリンピックでメダル獲得を実現しました。

韓国の呉走韓(オ・ジュハン)選手はケニアからの帰化選手です。中東ではオイルマネーでケニアやエチオピアの選手を帰化させて世界レベルの大会で結果を出しています。これからの未来はどの国でもアフリカ系帰化選手が増えてきます。結果論で言えば、この2人の選手がいなければ大迫傑選手は4位だったわけです。

逆に帰化選手が増えていけばもっと後ろの順位になっていたかもしれません。大迫傑選手の結果をどうこう言いたいわけではなく、そういう未来が待っているという現実。これからの日本人選手は、そういう帰化選手たちもライバルになります。きっとこれまで以上に入賞もメダル獲得も難しくなります。

もっと言えば、日本に帰化するケニア人選手が出てきてもおかしくありません。あれだけ多くの留学生が箱根駅伝で走っていますが、彼らが日本に帰化する道だってあります(もしかしたら契約で「帰化しないこと」となっている可能性もありますが)。最初は陸連も抵抗するでしょうけど、世の中の流れを考えればそれも限界があります。

日本で生まれ育ったアフリカ系の日本人だって、そう遠くないうちに出てきます。少なくとも他の競技ではあたり前のように活躍をしているので、マラソンだけその未来がないなんてことは考えられません。そういう中でアフリカ系のDNAを持たない日本人が世界と戦う時代がやってきます。そのときに大迫傑選手(その頃は監督でしょうか)がどう活動するのか楽しみではあります。

大事なのは市民ランナーからの底上げ

日本人ランナーが世界の舞台で活躍する。それは私たち市民ランナーには関係のない世界だと思うかもしれませんが、まったく関係ないわけではありません。日本人ランナーがここ数年で記録を伸ばしたのも、少なからずとも市民ランナーの存在というものが影響しています。

どの競技においても競技人口というのはとても重要で、ここの母数が増えないかぎり競技力は上がりません。もし世界記録を更新できるポテンシャルを持った子どもがいたとして、マラソンの魅力を感じず、サッカーや野球を選ぶ。そういうことが実際に起きていて、そこを変えるにはマラソンが魅力あるスポーツでなくてはいけません。

その魅力の目安のひとつが競技人口の多さであり、注目度の高さでもあります。日本人ランナーが記録を伸ばしているのはランニングシューズのおかげもありますが、10数年前に始まったマラソンブームが影響しています。マラソンはマイナー競技ではなくメジャー競技になり、結果的に箱根を目指す子どもも増えたはずです。

だから私たちもランナーである以上は、日本人ランナーの結果に何らかの形で関わっています。1人の力は微力ですが、全体のムーブメントは決して小さなものではありません。マラソンで活躍することで将来の道が拓ける。そういう環境づくりに私たちも関わっているのです。

今回の盛り上がりを加速させるのか、それとも失速させるのかはトップランナーだけの努力ではなく、私たち自身も影響を与えている。そう思うとコロナ禍でランニングをお休みしていた人も、また走ろうかなという気になるのではないでしょうか。自分の走りが未来の金メダリストへと繋がっていく。ちょっとワクワクしませんか。

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