フルマラソンを2時間で走るということを物理的に紐解いてみた

2019年10月12日に達成された人類初のフルマラソン2時間切り(非公認)。当時はただ「すごい」というだけで盛り上がっていましたが、あれから2年の月日が経ち、そろそろ人間がフルマラソンを2時間で走るのはどういうことなのか、物理的に紐解いてみるのもいいのかなと思い、できる範囲で考えてみました。

まずフルマラソンを2時間で走るということを、こまかく分解していこうと思います。42.195kmを2時間ですので、7200秒で走ることになります。1kmあたり170.6秒ですので2分50秒/kmということになります。100m換算すると約17秒。実際に走ってみるとわかりますが、100mを17秒で走るというのは思ったよりも大変です。

キプチョゲ選手のピッチは約185歩/分とされています。2時間で22,200歩です。1歩あたり1.9m進む計算になります。フルマラソンを2時間で走るということは「ピッチ185歩/分・ストライド1.9m」で走り続けることになります。達成したいのであれば、少なくともこの2つの条件を意識してトレーニングする必要があります。

ちなみに100mの桐生選手のピッチは2.13mで、100mのトップランナーと比べて20cm短いだけ。それぞれの1歩あたりの運動エネルギーを計算してみましょう。

●キプチョゲ選手(フルマラソン)

体重:52 kg
速度:5.86 m/s
運動エネルギー:892.8 J

●桐生選手(100m)

体重:70 kg
速度:10.02 m/s
運動エネルギー:3514 J

マラソンでは短距離走の1/4の出力で走れることになります。これはロスを無視しているためかなり粗い計算になりますが、100m走とマラソンの違いがイメージできたのではないでしょうか。私はマラソンにはパワーが必要だと言ってきましたが、実際に走るときには大きな瞬発力は不要で、25%に抑えられた出力を100m走の720倍の時間維持する力が求められることがわかります。

もちろん筋トレは必要という考え方は変わりません。特に40代以降の市民ランナーは、そもそもの出力が大幅に低下しています。こちらも雑な計算ですが1年に1%ほど低下しているとして、30代のピークからは40代で10%、50代で20%も落ちているので、それを30代の状態にまで戻すことには意味があります。

話を戻しましょう。フルマラソンを2時間で走るということ。それは大きな出力はなくても、それを維持する能力が求められます。ただし、人間の体には42.195kmを走り切るだけのグリコーゲンを貯め込むことができません。これがマラソンというスポーツを面白くしているのですが、いずれにしても2時間で走るにはグリコーゲンをどうにかして補わなくてはいけません。

市民ランナーレベルですと「体脂肪を燃やせばいい」という考え方もできますが、2時間で42.195kmという高負荷の状況において体脂肪を燃やして走るというのは現実的ではありません。そこでトップランナーはMAURTENのような糖質を多く含んだドリンクで給水します。

ただし同じMAURTENを使っていても、最後までペースが落ちない人と30kmで失速する人がいます。最近の研究で分かっていることのひとつが、ケニア系ランナーは糖をたくさん吸収できるということ。普段から糖質中心の食事になっているため、他のランナーよりも糖の吸収スピードが早いということ。

逆説的に言えば、その能力がないとフルマラソンを失速せずに走り切るのは難しいということ。もちろん市民ランナーレベルなら「体脂肪を燃やす」作戦を使えます。あくまでもフルマラソンを2時間で走り切るということを考えたときに、鍛えなくてはいけないのは走力だけではないという話です。

日本人は栄養バランスを重視していますが、それは「健康に暮らすため」の食事であって、マラソンを速く走るための食事ではありません。そういえば飛脚が走っていた江戸時代の日本人だって、糖質がエネルギーのメインでした。いや、江戸時代まで遡らなくとも宮沢賢治の「雨ニモマケズ」に「一日ニ玄米四合ト 味噌ト少シノ野菜ヲタベ」とあります。

現代の日本では糖質は親の仇みたいになっていますが、この状態が続けばきっと日本人がオリンピックで世界のトップランナーと優勝争いをする未来はやって来ないのかもしれません。たぶんあと数年でトップランナーの食事が見直されるとは思いますけどね。ちょっと先取りして試してみたい気もしますが、1日4合の玄米か……ちょっと気が遠くなりそうです。

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