
ニュースを見て驚きました。フルマラソン女子の世界最高記録が更新されたばかりなのに、男子もケニアのキプタム選手が世界最高記録を大幅に塗り替える2時間35秒。2時間の壁まであと35秒というところまできてしまいました。2時間の壁も早ければ今シーズン中に崩れるかもしれません。
以前の世界最高記録保持者であるキプチョゲを凌ぐ才能と言われていたものの、まだ23歳であり、初マラソンは昨年12月ということなので、経験値もかなり低い状態での世界最高記録。ここからさらに……と多くのマラソンファンが期待するのも当然です。
きっと本人もそのつもりなのでしょうし、次はサブ2をターゲットにして高速レースに出場するはずです。そして、マラソンの記録というのは1人が世界最高記録を更新すると、立て続けにそれに近いタイムが出るものなので、思わぬ伏兵が2時間の壁を壊すかもしれません。
ここまで記録が伸びたのは間違いなくランニングシューズの進化が影響しています。しかも私はランニングシューズ好きなので、シューズ開発がすごいという視点が強めになっていましたが、今回は選手の進化、そしてトレーニング理論について考えさせられました。
キプタム選手は、今回のレースに対して十分な準備ができていなかったとコメントしました。この言葉をそのまま受け取ると「十分な準備ができればサブ2もいけるのでは?」と思いたくなるのですが、2時間35秒は準備不足で出るタイムではありません。
実際に思うようにトレーニングができていなかったのでしょう。でも、結果から逆説的に考えると、十分な準備ができていないことで、最高のコンディションを手に入れることができたとも言えます。これまでのトレーニング理論が間違っていた可能性があるということです。
マラソンの世界には結果を出すためのトレーニング理論があります。トップレベルになると、科学的根拠のあるトレーニング方法を採用しており、完璧な準備をしてスタートラインに立ちます。でも、その科学的根拠がどこかで間違っているのではないかというのが私の推測。
その分岐点になったのが、やはり厚底シューズの登場になります。厚底シューズを履いて結果が出るようになったものの、まだ数年しか経過していないので、厚底シューズでポテンシャルを100%引き出すためのトレーニング理論というのはまだ確立されていません。
もちろんある程度の科学的アプローチはされているのですが、過去の経験に基づいて条件設定をしているのでしょうから、たとえば「練習量を半分にする」みたいなアプローチはしていない可能性があります。本当は練習量をもっと減らすべきなのに、従来どおりに距離を積み重ねているとしたら?
おそらく、今回の「準備不足」で世界最高記録を出したことに対して、何らかの検証が行われるはずです。その結果、世界のランニングにおけるトレーニング理論が大きく変わるかもしれません。そして大事なのは距離の積み重ねではなくランニング技術だとなる予感もあります。
走るという行為は誰にでもできることなので、ランニング技術について語られることがほとんどありません。ランニングフォームに対する議論はされていますが、もっと細かい技術があって、そこを追求する時代がやってくるのではないかと考えています。
今回の世界最高記録更新は、それくらいインパクトのあるできごとで、過去の世界最高記録更新とは根本的に意味合いが違うと感じているのは私だけではないはずです。そしてその先にあるのはサブ2の世界。ランニング技術が向上し、複数のランナーが2時間の壁を超えてくる。そんな時代を楽しみに待っています。