「厳しい戦いになるから」そう言って仲間のパンダを部屋に置いてきた。となり町がスタート会場なのになぜかアウェイに乗り込む気持ちでわたしは家を出た。
いやこれはまぎれもなくアウェイ。
大山登山マラソンに裸足の仮装ランナーが乗り込むのだ。受け入れられないことだってある。大山登山マラソンは全国から猛者が集まるハイレベルな戦いが繰り広げられる大会だから。
「ふざけないでくれ」そう言われてもおかしくない。
だがわたしはふざけているわけではない。本気で大山登山マラソンを裸足で走り抜けたいのだ。わたしの周りにいるえげつない裸足ランナーたちに大きく差をつけられているような気がしているから。
わたしはわたしの裸足力を試したいのだ。
裸足ランナーとしての自分を取り戻すための戦い。
会場に入ったのはスタートの2時間半前。
気負っていたのではない。
ただ時間を間違っただけ・・・河童が川を流れる日もある。
河童が河童に会う日もある。
自分の名札を首から吊るすゆるキャラ、斬新過ぎる・・・
偉そうなことを書いたが、実はスタート前までFLOPEEZEで走るという選択肢も考えていた。大山山頂が白く染まっていたから。雪道を裸足で走る勇気なんてない。痛いとか辛いとかそういうのはいらない。
わたしはみんなが思っている以上に軟弱な裸足ランナーだ。
大山登山マラソンのゴールのある大山阿夫利神社の気温が11℃とのアナウンスで、ようやく裸足で走る決意を固める軟弱な河童。
たださすがにアウェイ。注目度が半端ではない。褒めてくれているのか、バカにされているのかはわからないが、普通のロードの大会よりも声を掛けてくれる人、質問をしてくれる人が多い。
最近普通のマラソン大会で裸足は珍しくなくなったが、さすがにここではまだ天然記念物扱い。チヤホヤされたい裸足ランナーは大山登山マラソンに来るといい。
スタートからは撥水対応の粗めの路面が続く。
痛い・・・
だがここは大都会ではない。耐えていれば間違いなく撥水対応は終わる。そう信じてスピードを上げすぎず、周りのペースに合わせて走る。
痛いところで頑張れるような根性はないし、わたしは裸足にそういうのは求めていない。だからえげつない人たちに離されていくのだが、痛いものは痛いのだ。
「ならぬことはならぬものです」会津藩でもそう教えているではないか。
コースは徐々に傾斜が上がっていく。粗い路面が終わったところでいつもと違う自分に気づく。わたしの裸足ランは1kmを7分ペースで走るのが基本。上り坂なのに1kmが6分を切るペースになっている。
サブ3用に取り組んでいるフォームをそのまま裸足に持ち込んだら、当然のように裸足でもスピードが出る。そして足の運びが荒くなる。考えても仕方ない。とにかく体に任せて走るだけ。
傾斜がきつくなるにつれて、なぜかテンションが上がる河童。このグイグイ上がっていく感覚は嫌いじゃない。いやむしろ好きかもしれない。周りのランナーをどんどん抜いていく。
めっちゃ楽しい、これ。
実はマラソンを始めた頃から気になっていたけど逃げていた大会。こんなにおもしろいならもっと早くから出ておくべきだったが、いまの自分だから楽しいのかもしれない。
そして調子に乗りすぎた7km地点の先に悲劇は待っていた、大山の参道に入りコースは階段になるところ。ただ上ればいいだけなのにわたしはなぜか左足を踏み外してしまった。
大事にはならなかったが左足の親指を階段でがっつり持って行かれた。
不覚・・・
これさえなければ、もう少し満足度が高い状態で家に帰れただろう。裸足ランナーとして血の流れるケガすることほどみっともないことはない。
そして残り1kmまで来たところから本格的な山道と階段。以前男坂を裸足で走ったことがあるが、今回走る女坂は下ったことがあるだけ。
そのときは女坂は楽だと思ったのだが、全然楽じゃない。足裏が冷たくて仕方がない。
そして想定外の事態発生した。左膝に鋭利な痛みが発生。
裸足の河童はここで撃沈した。道が狭いのもあり周りが歩くのに合わせて歩いてしまう。筋肉的には余力があるのに足裏が弱ってしまった結果、歩くしかない。
結果1時間13分53秒。初出場なので速いのか遅いのかすらわからない。タイムは気にしていなかったし最後まで走りきれなかったことのほうがよっぽど重要な問題だ。
わたしは大山登山マラソンに負けてしまったのだ。最後まで裸足でゴールすることはできたが、わたしが求めていたのはこういうことではない。走り切ることがわたしの勝利だったのだ。
とはいえ過ぎたことは仕方ない。
このリベンジは必ず果たすとしよう。とりあえず次の土曜日に「大山とうふ味めぐりラン」をほぼ同じコースで開催するので、残り1kmだけでも裸足で・・・いや、これはイベントだからやめておこう。
大山登山マラソンの借りは大山登山マラソンで返すしかない。
来年は絶対に走り切る!できることなら1時間以内のゴールを目指そう。それまではヘタレ裸足ランナーとして裸足道を邁進しよう。次の裸足レースは万里の長城マラソン5km。もちろん世界を取りに行く。
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