人気のトレイルレースのひとつ、ハセツネ30Kはまさかの男女ともに1位のランナーが「必要装備品不足」で失格になりました。必ず持って走るべき雨具を装備していなかったそうです。
たった30kmのレースで、しかも天気予報から考えてレインウェアが必要な状況にはならない。ならば少しでも荷物を軽くするために、勝手に不要だと判断して、雨具を持たずにスタートしたのでしょう。
こういうことはトレイルレースでは「珍しくない」そうです。
ハセツネ30Kの規則と意図的な不正
この大会は水1.5リットル以上とレインウェア、そして行動食が必要装備になるのですが、受付前に確認をするだけでスタート地点ではノーチェック。律儀に水1.5リットル以上持っているトップランナーなどほとんどいないのだとか。
もしかしたら、ハセツネ30Kではゴール後も装備チェックがないのかもしれません。だから本人、もしくはサポートスタッフが「持たなくて大丈夫」と言ったのかもしれません。
ではなぜ男女の1位がレインウェアを持っていないことが発覚したか。それは上の写真を見てもらうとわかると思います。2人のランナーが背負っているのはどちらもサロモンの製品で、レインウェアを入れるポケットがありません。
見た目ではっきりとレインウェアを装備していないことがわかります。おそらく水も少ししか持っていないはずです。2人がこのバックパックを選んだということは、レインウェアを忘れたのではなく「意図的に」持たなかったということになります。
そもそもこの大会は競技色が強い大会ではなく、ハセツネCUPの入門レースであり、トレイルレースを楽しむ大会です。その方針から勝つことを重要視せずに、装備は本人たちの判断に任せていたのかもしれません。
ただし、「明らかに装備していない」うえに1位になったということは看過できなかったのでしょう。
他のトレイルランナーたちの意識
男女の1位のランナーがともに失格になったことについて、「かわいそう」「誰も雨具なんて持ってない」という声がいくつか聞こえました。実は他のランナーも雨具を装備しているランナーが少ないのかもしれません。
「絶対に必要のない雨具を持つ理由がわからない」そんなところかもしれませんが、持つ必要があるかどうかは主催者が決めることであって、参加者はそれに従うからレースが成立します。
ところが「雨具を持たないのはあたりまえ」という認識のランナーがいるのがトレイルレースの現実。
一般ランナーがルールを破ってまで、少しでも速く走りたい理由は、この大会で男子1000位、女子に200位以内に与えられるハセツネCUPの優先出場権です。そしてトップランナーはハセツネ30Kの優勝者という称号。
それらを手にするために「誰も守ってくれないルール」なんて守る必要はない。もしそれがトレイルレース界の常識であるならば、トレランはこれからも狭い世界の競技のまま終わってしまいます。
勝つために工夫や努力をすることは素晴らしいことですが、勝つためにルールを破っていいというのは違います。それはトレランそのものへの冒涜とも言えます。
「バレなければ何してもいい」という考え方
「バレなければ何してもいい」日本人気質なのか、この国ではこの考え方がいつまでたってもなくなりません。もちろん正しくルールの範囲で競う人たちのほうが多いのも知っています。
それでも一部の「バレなければ何してもいい」が競技をダメにしているという事実と、きちんと向き合わないといけない時期になっています。そういう意味では今回の失格は意味のあるものだったのかもしれません。
「バレなければ何してもいい」は何もこの2人のランナーだけの話ではなく、もちろん他のランナーだけの話ではありません。わたしたち自身もそれぞれが日常生活から心がけなくては「バレなければ何してもいい」はゆっくりと忍び寄ってきます。
今回の失格で、山でハイカーや登山者からトレイルランナーが嫌われている理由を垣間見たような気がします。山には山のルールがあります。明文化されていなくても暗黙の了解になっているルール。
そういうものも守らないトレイルランナーはわたしが思っている以上に多いのかもしれません。トップ争いをするトレイルランナーの一部ですが「バレなければ何してもいい」と考えているのが現実ですから。
トレランの世界はビジネスの世界になっている
マラソンなどのロードレースと違い、多くのトップランナーがスポンサー契約を結んでいるのがトレランの世界です。結果がすべての世界においては何をしてでも勝つという方向性になるのは珍しくありません。
ルールにおけるグレーゾーンを上手く突いて、好成績につなげる。これもひとつの技術です。
それが度を過ぎると選手はスポンサーの指示に逆らえなくなり、逆らうとサポートしてもらえなくなります。トップランナーはトレランのレースで活動していくためにスポンサーは外せません。
いや外せないことはないのですが、外す勇気のあるランナーなどほとんどいないのでしょう。最新のトレイルグッズを提供してもらい、優先的に大会に参加することが出来るスポンサー契約。
なにかとお金のかかるトレランのレースを楽しみたければ、上位争いをし続けること、勝ち続けることが求められます。
そのことがプラスに働けばいいのですが、今回のようにマイナスに向いたときどうすべきか。日本のトレラン業界全体で考えていく必要があります。
トレランはする側も、見る側も楽しめる競技です。これからももっとメジャーになってもらいたい。ただ、不正があたりまえの世界だと思うと、わたし自身はレースに参加する気持ちは萎んで消えてしまいます。
小さな不正かもしれませんが、それが新規参入者を減らし、トレラン業界の発展を妨げているということについて、トレラン業界は真剣に考える必要があるように感じたハセツネ30Kでした。
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