2016年のUTMF(Ultra Trail Mt. Fuji)は大雨警報の影響により、2時間ほどスタート時間を遅らせ、当初は様子を見ながら随時判断ということでしたが、スタート30分前にA3麓までの49kmで行うことが発表されました。
代表者である鏑木毅さんの涙ながらの発表だったようですが、このために1年間用意してきたランナーさんにとっても悲しい発表だったのではないでしょうか。
海外から参加したランナーも多く、100マイル160kmを走るつもりだったのに、まさかの49kmで終了です。
STY(静岡から山梨)についてはまだ方針が発表されていませんが、路面状態によってはこちらも距離の短縮が考えられます。
昨年のUTMFも前日までの雨の影響で路面がぬかるみ、上り坂を登れないランナーや、下り坂で恐怖を感じてしまったランナーで渋滞が発生し、多くのランナーが関門でひっかかってしまいました。
運営側としてはそれらに対する対策をしっかり行った上での今年の大会で、天候からもその準備が発揮されるはずだったのですが、予想外の大雨でとても安全を確保できないと判断したのでしょう。
この判断に対しては正しいとか正しくないというのはフェアではありません。無理に開催して何の問題もなくゴールできれば確かに、開催して正解ということになりますが、そんなものは結果論でしかありません。
UTMFに限らず、多くのマラソン大会でも同様です。主催者が中止や短縮を決めれば、その意図を汲み取り従うのがランナーのあるべき形だとわたしは信じています。
こんなわたしも、実は一度だけ、主催者の決めた判断に背いて走ったことがあります。それが2013年の万里の長城マラソンでした。
コース変更により、制限時間内に誰もゴールできないという状態が発生し、夕方になり、走るのに危険な時間になったので、主催者の朱さんは大会の終了を告げました。
正直わたしは「終わってくれてありがたい」と思うほど疲弊していました。
ところが、欧米人の女性2人が「すたーとが遅れたのだから私たちは走る権利がある」とまくし立てます。そして静止を振り切って、走り始めました。わたしはとっさに「スイーパーをする」と言って、最終ラップに向かいました。
結果的にわたしは彼女たちをサポートする代わりに、「完走」することができました。
そのことは今でも後悔しています。もっと良い対処方法があったのではないか。何があっても彼女たちを説得すべきだったのではないかと。
そしてその後悔から、わたしは代表の朱さんに「迷惑をかけたので来年以降出ないことにする」と伝えましたが、朱さんの回答は「そんなことよりも、万里の長城マラソンの日本事務局をやってほしい」ということでした。
そして現在の体制になっているのですが、それでもあの時、止められているにも関わらず、理由をつけて走りに行ったことに対する罪悪感が消えることはありません。
それは大会の主催者側となった、いまだからこそ余計にその思いが強くなっています。
さてわたしの話はともかくUTMFです。
スタート時間を遅らせている間にいろいろと考えたのだと思います。トレイルではなくロードを組み合わせて走れないか、危険な場所の迂回路がないかなど。その結果としての涙ながらの決断になったはずです。
この判断が正しかったかの議論はおそらくこれから日本各地で、いや世界を巻き込んでの議論になるかもしれません。
でも、覚えておいてもらいたいのは正解はなく、参加者それぞれに想いがあるのは理解しますが、大会に参加する以上は主催者の判断は絶対だということ。
もし走っていないランナーが主催者を悪く言うようなことがあれば、参加した人たちが全力で主催者を守る。あの判断は間違いではなかったと言い切ってもらえればUTMFはもっと魅力的な大会に近づいていくでしょう。
できることなら、今年で失効するエントリーのためのポイントを来年まで持ち越すなどの配慮があってもいいかとは思いますが、それでは単純に倍率が上がるだけなのかもしれません。
9月開催に関してもきっと議論されることでしょう。9月の日本は秋雨前線や台風の影響でどうしても天候が不安定になりがちです。おそらく来年開催に向けての議題になるかと思います。
ただし、いま大会側が行うべきことは、STYをどうするか、そしてUTMFをA3麓でゴールした選手たちの休息場所の確保です。
それに対しては外部のわたしがどうこう言う必要はありませんが、今できるベストを尽くすことで未来はつながります。できることを最大限に行うことで、参加者たちも納得してくれるはずです。
日本最大級のイベントで、このような事態が発生したことは、日本のトレイル界にとって、大きな経験であり、将来への大きな財産になるはずです。
自然はいつだって思い通りにはならない。だからこそトレイルは楽しい。
おそらくUTMFを走った人に鏑木さんを責める人は1人もいないはずです。みんな選ばれたトレイルランナーですから。みんな山の怖さを知っていますから。
ですので鏑木さんは胸を張って、最高の笑顔でUTMFを完走したランナーたちを迎えてほしいなと思います。規模は違えど、同じランニングイベントを主催するものとして、そして山を愛するものとして、そう願わずにはいられません。
UTMFを走ることは多くの日本人トレイルランナーの夢であり目標です。
こうやって一つひとつの困難を参加者とともに乗り切ることで、10年後、20年後には世界中のトレイルランナーの憧れの大会になるのでしょう。今はまだ耐えるところ。
悔しさや涙は、次へのステップです。
まずはすべてのランナーが無事に49km先のゴールにたどり着けることを願い、そして49kmを走り終えたところで、コースが短縮されたことの意味をそれぞれのランナーがが消化できていることを願います。
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