最近はずっと裸足でマラソンを走っていたが、来年の愛媛マラソンに向けてシューズを履いて調整を始めよう。そんな思いでシューズを履いての練習を始めたのだけれどもスピードが出ない。
金沢マラソンの疲労が抜けていないのか、それとも練習不足なのか。どんなに頑張っても1kmを5分ちょっとのスピードしか維持できず、このままではまずいと思いながら、天童ラ・フランスマラソン2016に参加するため、山形へとわたしは向かった。
先に出発したラン仲間と合流するために、まずは夜行バスで仙台へと移動。夜行バスは3列シートで快適なはずが、与えられた座席は一番前の席で、足を伸ばすことが出来ない。東京から仙台まで4000円。値段相応と考えるか、運が悪かったと思うべきか。
集合場所は仙台の作並。作並温泉で前泊している仲間と合流して、そのまま銀山温泉へ。マラソンの遠征は1人で行うことが多いのだが、たまにはこうして集団での行動もいいもんだ。電車が1時間に1本しかないことを除けば。
今回のマラソン遠征では、天童に実家のあるラン仲間の家に泊めさせてもらう。こういうのもちょっと嬉しい。1人で走っていたころにはありえないようなこと。同じ山形で開催される米沢おしょうしなマラソンを走るために遠征に出た10年前が懐かしい。
そしてラン仲間のお母さんによる手料理と、お父さんが用意してくれた山形の地酒。この時点はわたしは、シューズで走ることを諦めていた。コンディションを整えて一生懸命走るのもいいのだけれども、そのためにこの前夜祭をセーブするのはもったいない。
いや、単純に日本酒が美味しすぎて止まらなくなっていただけのこと。
前置きが長くなったが、天童ラ・フランスマラソンのスタートラインには裸足で立っていた。気温は11月の山形とは思えない18℃のぽかぽか陽気で、寒さを感じることはない。わたしの裸足を歓迎するかのような絶好の裸足日和である。もちろんわたしの思い込みに過ぎないが。
天童ラ・フランスマラソンは3000人が走るハーフマラソン。スタート地点のNDソフトスタジアム山形には、山形や宮城のランナーを中心に全国各地からランナーが集結してくる。
並んだ場所はほぼ最後尾。わたしにとって裸足で走るということは、スピードも順位も気にせずに体と心の思うがままに走るということ。前方でがむしゃらに走るのではなく、できるだけ多くの人に裸足ランニングを見てもらいたい。「うわ裸足!」と言われていい気分になりたいだけというのが本音だが。
コースはアップダウンの激しいと表現するよりも、坂しかないというような設定になっている。スタートからゆっくりと坂道を上り、5km地点を過ぎたところから、一気に坂道を駆け上がることになる。裸足ランナーにとって上り坂は大好物。ここで一気にランナーを追い抜いていく。
ところが下り坂の傾斜が厳しすぎて、下りになるとどんどんと抜かれていく。そして何よりもこの大会において「全エイド制覇」を勝手に目標設定としていたわたしは、その目標のための困難が現れる。
天童ラ・フランスマラソンはすべてのエイドでラ・フランスを食べることができる。大切なことだからもう一度書くが「すべてのエイドでラ・フランスが置いてある」。エイドは全てで6ヶ所くらい用意されているはずなのだが、実際にあったエイドの数は9。
実はわたしはラ・フランスはあまり得意ではない。ぬるっとした感じが苦手なのだが、最初のエイドでラ・フランスを口にしたわたしは一気にラ・フランス好きに方針を転換することになる。
「ラ・フランスは美味しい」
この後のエイドが楽しみだと思いながら、ラ・フランスと一緒に置かれているおみ漬けも食べる。このときはまだ全エイド制覇の目標がわたしを苦しめることになるとに気づいていなかった。
ラン仲間とはほぼ同じペースで走っているが、集団になるのではなくそれぞれが抜きつ抜かれる。エイドに寄るたびに抜かれる河童。上り坂で追いつこうとするものの、下り坂で突き放される。やっと背中が見えたと思うと、エイドがやってきて、ラ・フランスでのロスタイムが発生する。
エイドのラ・フランスは1切れで十分なのだが、山形の人たちは親切で4切れも入れてくれるエイドもある。ゴミ箱はエイドにしかないので、エイドの区間で食べきっておく必要がある。
口いっぱいにラ・フランスを含んで、走り始めると息ができなくなりまたしてもロス。
そうこうしている間に、山ゾーンが終わり平地エリアへ。ただし平地エリアも小さく起伏している。路面がきれいなこと、沿道の応援に出ているおじいちゃんおばあちゃんの笑顔が素敵なことがわたしの救い。
小さな子どもたちもハイタッチのために、沿道からいっぱいに手を伸ばしてくれる。
大都市マラソンのように途切れない沿道からの声援ではないが、だからこそ一人ひとりの声援がしっかり届いてくるのが、このサイズの地方マラソンの魅力でもある。この大会はそれほど歴史があるわけではないが、市長を中心に自治体が盛り上げていることもあって、地元での認知度は高い。
コースがややフラットになって、さあここからと思ったところで体の異変を感じ始める。お腹の調子がよくないかもしれない。前日に食べすぎて飲みすぎたところにすべてのエイドでラ・フランスを食べてきたことが、後半になってボディブローのように効いてくる。
トイレに行くべきか、それとも一刻も早くゴールを目指してトイレに行くべきか。レース途中でトイレに行くと、またしてもラン仲間に抜かれてしまう。ちょうど2時間切りが目指せそうなタイムだったので、トイレでのロスタイムは避けたいところ。
わたしは前に向かうことを決意した。
ペースを上げたい河童。ペースを上げるとお腹が痛くなる。でも1kmを5分で走りたい。時間が気になるがお腹も気になる。そこにまたしてもエイドがやってくる。もちろんラ・フランスを食べる。さらに苦しくなる胃袋。
胃袋がつらくなる上に、エイドで時間をロスしてしまうので、さらにスピードが求められる。
スピードを上げる。お腹が痛みだす。足りなくなる時間。
最後の力を振り絞って、ゴールまで走りきろうと決意した瞬間。信じられないものが視界に飛び込んでくる。
エイド。
残り2kmもないところで、まさかのエイドの出現。しかもラ・フランスだけではなくおみ漬けも並んでいる。この瞬間わたしの天童ラ・フランスマラソンの勝負は終了した。
最後のラ・フランスを口にして、わたしはゆっくりと加速する。明らかに2時間以内でのゴールは無理。それでも裸足ランナーとしての維持で、いまできる最高のスピードで山形・天童を駆け抜ける。
2時間1分5秒
ゴールした安心感で、さらにお腹が緩んでいたわたしに悲劇が起こる。ゴール後でランナーにインタビューをしていたMCがわたしに近づいてくる。
必死の作り笑顔。
いやぁ危なかった。もう少しインタビューが長引いたら、大事件になるところだった。完走の喜びなど微塵もなく、急いでトイレに飛び込んで、わたしの天童ラ・フランスマラソンは終了した。
大都市マラソン好きには退屈かもしれないが、天童ラ・フランスマラソン素敵なマラソン大会。秋にしっかり走り込みしたい人、心地いい空気に包まれながら走りたい人にはおすすめする。ただし、全エイド制覇はやめておいたほうがいいとだけ助言しておくとしよう。
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