雨中の鹿児島マラソンでハダシスト史上最大の危機!

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タイムはともかく、最後まで走りきることを目標にしていた鹿児島マラソンでしたが、結果的には裸足でスタートラインに立っていました。

前日の受付を終えて、鹿児島の美味しいものを食べようと、裸足仲間と向かったのは天文館の繁華街。「振る舞い酒をしてるから」と誘われるがままついていき、焼酎を何倍もいただきました。

歓迎の路上ライブや踊りを満喫しているときに、ふと思ったことは「こんなにも楽しませてくれる鹿児島の人たちに対して、ただ走って帰るだけでいいのかということでした。

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もちろんわたし1人がシューズを履いて走ろうが、裸足で走ろうが鹿児島マラソンの成功にはなんら影響を与えないことは分かっていますが、シューズで42.195kmを走るのと、裸足で42.195kmを走るのとでは、見ている人に与えるインパクトは違います。

ただの河童が駆け抜けるのと、裸足の河童が駆け抜けるのとでは、そのあとに咲く笑顔の数が違います。

鹿児島の人たちが楽しませてくれるのに、自分の私欲のためだけに走るのはわたしらしくありません。真面目に走ろうと思うと、カメラだって軽めのものになってしまいます。レポートのために撮る写真も少なくなり、レポートへの情熱も変わってしまいます。

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ここまでしてもらえるなら、ランニングジャーナリストのわたしがすべきことは、鹿児島の人たちに楽しんでもらうこと。そして、鹿児島マラソンの魅力を余すことなく徹底的に伝えることです。

裸足仲間の強い勧めもあり、わたしは裸足で走ることを決めました。

とはいえ、鹿児島マラソンのコースはかなり裸足に適していないと聞いています。わたしが厳しいコースだと感じた大阪マラソンよりも粗い路面が8km以降、ゴールまで待ち受けているとのこと。

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裸足で走ると決めたあと、頭のなかにあるのはその荒れた路面だけでした。

天気予報では午後から雨の予報で、ゴール時間に少しぱらつく程度とのこと。熊本城マラソンと比べても気温が高めだと感じたことで、冬マラソンではいつも着用しているインナーはそもそも持ってきておらず、アームカバーもしないで整列します。

とはいえ、やや気温が低い感じもしたため、薄手のジャケットを着て会場入りです。

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裸足仲間3人でスタートブロックに並び、いよいよスタートというときになって、小雨がパラツキます。午後からの雨のはずが、スタートの号砲までに地面が完全に濡れてしまうほどの雨です。

とはいえ、これくらいの雨なら何とかなるかなという程度。予報通りならたまたま早めに降っただけで、雨はきっと止むだろうという楽観的な気持ちで42.195kmの旅に出かけます。

桜島はうっすらと見える程度。もし晴れてたら見事な景色を眺めながら、走れるのだろうなと思いながら1kmを重ねていきます。4kmくらいにあったJAのエイドではステーキがあり、「いやまだ早いだろう」と言いながらも美味しくいただきます。

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公設エイドではなくJAのエイドだから食べ物が早いのかと思いきや、少し先の公設エイドでも食べ物が出てきます。やや寒さも感じていたので、エネルギー消費が多いはずと思って、早めの給食を心がけます(ただの食いしん坊の虫が騒ぎ出しただけです)。

コースが市街地に入ると沿道には溢れんばかりの人。小さい子からおじいちゃんおばあちゃんまで、裸足の河童を喜んでくれます。裸足になって正解だった。この時点ではこのあと起きる悲劇については、ほんの少しも感じていませんでした。

ただただ楽しい気持ちで鹿児島の街を走り、沿道の人たちとハイタッチを交わしながら前に進みます。ペーストしては平均で6分半くらいです。わたしは裸足のときはできるかぎりゆっくり走ります。一人でも多くの人とハイタッチをしたり、声援に応えたりするためにスピードは抑えてペタペタ走ります。

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繁華街の真ん中、8km地点から路面が荒れはじめます。体が冷えてきたこともあり、マラソンの受付会場にもなっている8km地点でトイレ休憩。そこから続くであろう荒れた路面に対する気持ちの切り替えを行います。

実際にそこからは針のむしろを走るが如く、かなり集中力を使いながら走ることになります。とにかく体の力を抜いて、筋肉が硬ばらないように柔らかく走ります。

何度か伝えていることですが、痛みは感情です。感情ですからコントロールすることができます。痛みという不快感以上の楽しみや喜びがあれば、痛みを小さくすることができます。

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わたしがマラソン中にすることは、沿道の声援やボランティアスタッフに「ありがとう」と応えること。声を出すことが痛みを減らすためには1番有効です。誰もいないときは「いちに、いちに」と掛け声を出して走ります。

そうやって、荒い路面と向き合いながら、先を行く2人の裸足ランナーを追いかけます。20キロ地点で、裸足のピカチュウに追いつきます。ここではまだ、5時間ちょうどで完走するペース。

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裸足ランナーにはそれぞれのペースがありますので、並走することなくそのまま追い抜いて、もう1人の裸足ランナーを追います。ところが路面は荒くなっていく一方で、スピードはどんどん落ちていきます。

25キロの折り返し地点では、歩くことすら出来ないくらいの鋭利な路面。なんとか白線を綱渡りしながら前に進みます。

異変が発生したのは折り返して最初のエイドでした。気温が低すぎるのもあり、しかも冷たい雨が容赦なく降りつけてくるため、トイレが近くなります。それはわたしだけではなく、周りのランナーも同じこと。その結果トイレは大行列です。

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並ばないわけにもいかず、その列に並んでいたら、さらに体温が失われていくのを感じます。トイレを済ませて、コースに戻ったときに、体が震えそうになっています。そのときエイド横の救護所を見ると、たくさんのランナーが寒さに震えています。

このとき思い出したのは、以前書いた低体温症の記事でした。なぜ箱根駅伝のようなトップランナーが集う大会で低体温症になるランナーが出るのか。雨や雪の影響で、体内エネルギーを燃焼させるスピードよりも体を冷やすスピードの方が早いとき、低体温症が発生します。

人は走ると体が温まりますが、同時に風などにより冷やされてもいます。雨などに濡れると、その冷却効果が高まり、どんどんと体温を奪っていきます。そうなるとレース終了です。走ってるときに体が震えたら、それはもう棄権しなくてはいけないサインです。

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そしてわたしの体はその一歩手前。放っておけば確実に低体温症になる状態でした。やるべきことを体温を上げること。そのためにわたしが取った方法は、たくさん空気を吐き出して、心臓に負荷をかけること。走りを意図的に崩して、筋肉に負荷をかけること。

要するに効率の悪い走りに切り替えました。スピードもやや速めます。足裏は痛みますが、そんなことは言ってられません。体が冷えて震え出したら終わりで、今にも体は震えそうになっています。完全に綱渡り状態で、少しバランスを崩すとリタイアが待っています。

鹿児島の人たちを喜ばせたいと思って裸足になったのに、それどころではありません。エイドでも可能な限り立ち止まらず、一度だけまたトイレに行ったときは、負荷の高い動きをして、体が冷えないように工夫します。

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途中で追いついた裸足ランナーの赤鬼さんは、厳しい路面にやられ、さらに低体温症の状態になり、ただゴールへ移動するためにひたすら歩いている状態です。

わたし自身もおそらくガス欠にもなっていると判断して、このままでは危険と感じたため、念のため持っておいたシリアルバーを無理やり胃の中に流し込みます。なんとかして奈落の底に落ちないようにバランスを取り、気持ちを切らさないために、意図的に荒い路面も走ります。

そして、残り5キロくらいになったところで雨も弱まり、そこでようやく完走のイメージが湧いてきました。それでも気を抜くとすぐに体が冷えます。ここからは沿道の人たちがわたしを支えてくれました。裸足頑張れ!気をつけて!大声でわたしを奮い立たせてくれます。

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楽しんでもらうはずが、後半は完全にお世話になっていました。スピードは上がりませんが、最後まで笑顔を貫いて走ります。そうして、ゴール前の直線。ここまでたどり着けたことに感謝しながら、ただまっすぐに駆け抜けました。

こんなに苦しく、そして危険を感じたフルマラソンは初めてです。裸足で走ることと、冷たい雨との相性の悪さ。そして十分な準備をせずに裸足で走ることの怖さを知った鹿児島マラソンでした。一歩間違えれば、気温があと1度低ければ間違いなくリタイアしていたでしょう。

マラソンを甘くみてはいけない。裸足ランを甘くみてはいけない。そう教えられた鹿児島マラソン。そして沿道の声援に支えられての完走となりました。

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またひとつ裸足で走るために戻ってこなくてはいけない大会が増えました。抽選で当たらないと走ることができませんし、わたしが知る範囲内で、最も裸足ランナーに厳しいコースが待ち受けていますが、だからこそまた鹿児島マラソンを走りたい。

ただし、できれば次は澄み渡る青い空と、雄大な桜島を眺めながらポカポカ陽気の中を笑顔で走り抜けたいところです。


低体温症サバイバル・ハンドブッ
 著者:栗栖 茜
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