どんな仕事でも「段取八分仕事二分」と言います。段取りさえしっかりしておけば、現場でのロスを最小限に抑えることができます。ただ、この段取りの部分の質が驚くほど低下しているのを感じています。例えば先日行った商品の品出しの仕事。
棚の高さが図面に描かれており、その通りに仕上がっているのですが、いざ商品を入れようとすると、寸足らずで入らないということが何度もありました。全国展開しているお店だから、どの商品のパッケージがどれくらいの高さなのか、分かりそうなものなのに。
同時に「こういう感じに配置して欲しい」という写真も掲載されているのですが、その写真の通りに配置すると、商品を取り出せないなんてこともありました。元設計者としては、とても考えられないミスであり、でも似たようなことが最近よくあります。
おそらく新人もしくは経験の浅い社員が図面を引いているのだと思います。その新人がミスをするのは仕方ないことなのですが、それを承認する人がいるわけで、その人がミスに気づけないということが問題です。正確にはミスに気づく余裕がないことが問題です。
少なくとも私が社会人になったばかりの24年前には、上司による図面のチェックがあり、束になった図面に赤を入れられて戻されました。かなり細かく見られるのですが、その入れられた赤が自分の糧になります。そうやって私は技術力を高めていきました。
でも、今の時代は赤を入れる余裕がないわけです。ちゃんとチェックしている上司がいるのに、ミスをしているのだとすれば、それはそれで問題になります。ミスに気づかない上司がいる会社で経験値を積む部下。もう目も当てられない未来しか待っていません。
最近はパワハラだとか、労働者を守れとか、いろいろうるさくなっていますが、その結果が技術力の低下を招いています。技術力はそのまま国力に繋がります。少なくとも日本はモノづくりで成り上がっていった国です。でも、そのモノづくりの根底が揺らいでいるわけです。
でも、これはずっと前から言ってきたことです。三六協定の影響で残業に厳しくなったことが、技術力の低下に繋がっています。残業ができなくなるから時間内に後輩の面倒を見る余裕なんてないんです。そしたら新人が育たないのですが、育たないまま新人は先輩になってしまいます。
きれいな負の連鎖ができあがるのは容易に想像がつくはずです。でも、この連鎖を止める方法がありません。少し前なら三六協定の見直しという選択肢もありましたが、ここまできてしまうと打つ手がありません。ゆっくりと崩れていくのを待つだけです。
図面に問題があると、苦労するのは現場です。その現場だって労働時間が無限にあるわけではなく、むしろ労働者が足りなくて、予定通りに工程を進めることができません。その結果、現場でのコストが上がります。そして物価高につながりますが、労働者そのものの給料は増えません。
元エンジニアとして、今の状況をかなり厳しく感じています。そして、それは絶望へと続いている。この国がモノづくりで息を吹き返すことはありません。観光など他の部分で伸びる可能性はありますが、技術力は落ちていく未来しかありません。
これは何もモノづくりに限ったことではないのかもしれません。日本が世界に誇ってきたものの多くが、衰退の一途を進んでいる。でも、それに対する警笛はほとんどなく、あっても響かないという現実。あと5年もしたら、「日本製品はクオリティが低い」が定説になるかもしれません。