映画「のさりの島」が教えてくれたこと【それは必要な嘘なのかもしれない】

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誰もが嘘を抱えている……かどうかはわからない。でも私でさえ墓場まで持っていかなくてはいけない嘘があり、そして時々それが真実になる。ありえないと思うだろうか?少なくとも、私以外の人にとっては嘘が真実で、真実が嘘になる。だから、それが真実かどうかは本当のところそれほど大切ではない。

そんな難しいことを思ったのは、「のさりの島」が語らない映画だっあから。

天草に行くタイミングで天草を舞台にした映画が上映されると知り、渋谷まで行ってきました。実は2週間前にも行ったのですが、その日は満席で入れず。昨日は念のためと思って予約を入れておいたので、入れないということはなかったのですが、間引きした座席ではあったものの、そこそこ埋まっている状態。

小山薫堂さんプロデュースということもあるのか、それとも熊本出身の人に口コミで広まっているのか。理由は分かりませんが、注目はされているんだと思います。まだ上映してない地域も多いので、渋谷に人が集まっているだけかもしれませんが。年齢層は私より少し若いくらいでしょうか。最近は説明のない映画は若者にウケないと聞きましたが、まぁ通じる人には通じるもので。

ただ、行間を読むというのとはちょっと違います。語らなくても伝わってきますし、語らないから伝わってくることもあります。

オレオレ詐欺をしている若者と天草の商店街で楽器屋をしているおばあさんの物語。オレオレ詐欺で騙すつもりが、おばあさんに本当の孫として迎えられるという奇妙な展開でストーリーが始まります。それ以降はネタバレになるので語りませんが、大どんでん返しとか、スリルのある展開にはならず、2人の嘘が真実になるように話が進んでいくとだけ。

物語に合わせて、天草の今を伝えてくれる映画にもなっています。私は勝手に天草は自然豊かな地方の町だと思ってたんですが、映像に映る天草は想像していたものとまったく違い、寂れていく地方の街で、映画もシャッター商店街が舞台となっています。天草の素敵なところだけを飾って伝えるのではなく、現実を映し出しながらもサブリミナル的に魅力を伝える。

足りないものも過剰なものもない物語。そう、物語と表現するのが一番分かりやすいかもしれません。何も特別なことが起きないからこそ、2人の嘘が引き立つ。だからずっと惹きつけられていました。まるで自分が映画の中の世界にいるかのようなカメラワークも織り込まれてて、でも没頭しすぎないちょうどいい距離感。

映画を作る人の頭の中ってどうなってるんでしょうね。ただの物書きには一生かけても理解できそうにありません。理解できないから映画を観るわけですが。自分の伝えたいメッセージがあり、クライアントが伝えたいメッセージもある。それでいて観るものを魅了しないといけない。こういうのもいずれAIで出来たりするのでしょうか?

話を少しだけ「のさりの島」に戻します。私は根無草なので故郷や地元というものがありません。「地元が大好きで守りたいと思う」という感覚は分かりません。だから寂れていく街に対する寂しさとか、地域を盛り上げようという気持ちもありません。だから、そういう場所を持っている人に少し嫉妬します。好き嫌いを語れる地元があるだけでも羨ましいこと。

でも好きだという想いだけでは、抗えないものがあります。街から人がいなくなるというのは天草に限らず、国内のどこでも起こっている問題のひとつです。魅力的な町おこしをすれば人が留まったり、集まったりするわけではありません。これは「いいものを作れば売れる」という勘違いと同じで、どれだけ素敵な街を作っても、都会の引力の方が人は離れていきます。

だからといって、それを黙って受け入れるのではなく、流れをなんとかして変えたいというのが「のさりの島」が撮られた理由なのかなと自分なりに解釈しています。ただ、これがきっかけで天草が活気を取り戻すことはないことも理解してる。それでも地元の人はほんの少しだけ勇気をもらえるわけです。都会に出た天草の人も、故郷を思う機会になるわけです。

もしかしたら今年の夏休みには天草に行こうという人も出てくるはずです。ただそれは幻のようなもので、すぐに消えてしまうもの。でも天草の人にはその幻が、その嘘が必要なのかもしれません。必要な理由は人それぞれ違うのでしょうが、優しい嘘が彼らに生きる力を与えてくれる。諦めない気持ちを与えてくれる。

だとしたら、それは必要な嘘なのかもしれません。

とはいえそれは映画の世界でのできごと。実際の天草の空気は自分で感じとるしかありません。そして必要な嘘があるとわかっていても、私はこれ以上自分に嘘を増やしたくはないので(棺桶に入らなくなる)、できるだけ正直に天草と向き合ってこようと思います。

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