高反発でクッション性に優れるシューズを物理的に考える

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フルマラソンの距離を2時間以内で走りきろうというナイキのチャレンジBREAKING2.0のノウハウを活かしたシューズの発売が開始されました。

いまのところはナイキズームフライとナイキ エア ズーム ペガサス34だけですが、近日中にサブ3ランナーのためのナイキ ズームヴェイパーフライ4%も発売されます。

ナイキズームフライとナイキ ズームヴェイパーフライ4%は、インソールにカーボンプレートを搭載しています。これに関しては賛否があるようですが、個人的な興味はそこではなく、高反発でありながらクッション性に優れるという考え方がとても気になります。

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ナイキのシューズだけでなく、アディダスのBOOSTも同じように高反発でクッション性に優れるのが特徴です。

アディダスのイベントを取材する機会が多いため、裸足ランナーでありながらBOOSTシューズで走ることがよくあります。ただ、高反発でなおかつクッション性が優れるということに対する疑問は常に持ち続けています。

物理的に考えてそんなことが可能なのでしょうか。

わたしはこう見えてバリバリの理系脳です。理系に行ったのは英語の授業が簡単だからという純粋な思いからでしたが(本当に切実な問題だった)、理系の思考というのは間違いなくいまのわたしのベースになっています。

理系脳は論理的でなければ、納得出来ないように出来ています。あらゆる現象には理由があり、突発的に物事が目の前に現れるということを受け入れることができません。そのため何をするにしても理屈っぽくなります。

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めんどくさい生き方をしているとよく言われますが、このめんどくさいところがわたしの良いところも作っている(そんなものがあるならですが)わけですから、とても大切なことです。

そしてその理系脳からすると、クッション性があるのに反発力があるというのは、なかなか理解しがたいものがあります。まったく理解できないわけではありません。例えばスーパーボールなどがその代表的なものです。

いまの若い人にはスーパーボールが分からないかもしれませんが、説明するのが面倒なのでわからない人はググってください。スーパーボールは指で変形するくらいの柔らかさがありますが、地面に叩きつけると驚くほど弾みます。

ただし、腰の高さくらいから手を離して落下させても大して弾みません。

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物と物がぶつかったときには、そこでエネルギーのロスが発生します。それは音だったり、熱だったりするわけですが、このロスが少なければ少ないほど、入力したエネルギーは返ってくるエネルギーに近くなります。

スーパーボールは衝突する瞬間に形状を変形させて、衝突によるエネルギーのロスを少なくしているため、返ってくるエネルギーが大きくなって反発します。

ところが、衝突するときのエネルギーが小さすぎると変形することもできないため、ロスが大きくなって、反発力が小さくなります(説明のために少し乱暴に書いています)。

高反発でクッション性に優れるランニングシューズの考え方も同じです。接地したときに地面に対してかかる力をソールを変形させながら力を蓄えて、その力をバネのようにして足裏を押し出して推進力を生み出します。

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接地するときの力が少なければ、その力はソールを変形させることができずに、反発力を生み出せません。

ナイキのカーボンプレートの入ったシューズは履いたことがありませんので、なんとも言えませんが、BREAKING2.0を観るかぎり、明らかに後半反発していなかったので考え方は同じです。もちろんアディダスのBOOSTも。

要するにこれらのシューズは誰が履いても速く走れるというわけではないということです。しっかりソールを変形させられる力がなければ、BOOSTやカーボンプレートからの戻ってくる力を作り出せません。

そして悩ましいのが、物理的に考えれば最高の反発を得られるための力というものがあるということです。

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スーパーボールは、力強く地面に叩きつけたほうが高く跳ね上がりますが、加える力をどんどん上げていっても跳ね返る高さにはどこかで限界がきてしまい、そこからはむしろ跳ねなくなります。100の力を加えるよりも80の力を加えたほうが、最適な反発を得られることがあります。

またシューズのソールに対して、どの部分に力がかかったときに、最高の反発力が得られるかも決まっています。

野球のバットやテニスのラケットで言うスイートスポットというやつです。もっと言えば、スイートスポットそのものも2つあります。

・足への衝撃を最小限にするスイートスポット
・最大の反発力を得られるスイートスポット

 この2つに対して、シューズメーカーがどう考えているかはわかりませんが、狙いとしてはおそらくこの2つのスイートスポットを同じ場所にしようとするはずです。そして特注品の場合は、ランナーに合ったスイートスポットを作り、市販品は、反発力や吸収力をを減らすなどをしてスイートスポットを広くします。

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もっともいくら広くするとはいえ、フォア(前)側にスイートスポットがあって、ヒール側で着地するとスイートスポット以外のところで走ることになり、まったくシューズの特性を活かせないことになります。

アディダスのBOOSTの中でも匠senなどはブーストがフォア部分にしか入っていません。これはトップランナーの多くがフォア側で着地するためで、必要な場所にだけBOOSTを入れることでスイートスポットを明確にしています。

ですので匠senで踵側からの着地をしたり、フラットな着地をしても、いいタイムは出せません。

ナイキズームフライでも同じようなことが言えます。BREAKING2.0では、各ランナーに最適なセッティングがなされていたはずです。最適な場所にスイートスポットを作り、最高のショック吸収力とその吸収した力から反発力を生み出します。

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市販品のナイキズームフライはスイートスポットを多めに取っているはずですが、合っていない走りをすれば、「使えないシューズ」と言う人も出てくるはずです。

そして実はスイートスポットはもうひとつあります。それは膝への振動を最小限に抑えるスイートスポットです。

おそらくハイレベルなシューズほど、このスイートスポットを無視して作られています。実業団クラスの選手にもなると膝周りの筋肉がしっかりしているため、このスイートスポットを無視しても問題ないためです。

いや、問題があってもそれを考慮して反発力が弱まると意味がありません。走って生計を立てている人は、命を削って稼いでいるわけですから、故障してでも1秒を縮めることを選ぶわけです。

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一般的な初心者向けシューズというのは、足への衝撃を最小限にするスイートスポットと膝への振動を抑えるスイートスポットを考慮して作られているはずです。反発力を考えないのでそのシューズではいつまでたってもスピードを出して走れません。

膝を故障するメカニズムは他のところにも原因がありますが、ランニングシューズの開発においては、3つのスイートスポットの考え方が基本になっています。意図的かどうかはわかりませんが、少なくともわたしはそう感じています。

話は戻って高反発でクッション性に優れるシューズですが、これはあくまでもシューズ設計者の夢であり、ランナーの夢のシューズでもあります。

なぜなら、ランナーは走り続けることで消耗をするからです。

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どんなに優れたランナーでもスタートと35㎞地点では体の状態が同じというわけにはいきません。何万回も地面に足を叩きつける行為をしているのですから当然です。少し難しい話ですが、このようなことを繰り返すことは痛みを感じる感覚を強くしてしまいます。

このため、前半と後半ではスイートスポットが変わってきます。シューズはどこかで最高の力を発揮できなくなってしまうのがマラソンです。もっともフルマラソン2時間切りなどを狙わずに、力を残して走りきれば話は別ですが。

ランニングシューズの開発は、解なき問題の最適解を導き出すような作業ですが、ちょっとそこからランナーが置いて行かれているように、わたしは感じています。

ランナーは各メーカーのプロモーションによってシューズを選び、運が良ければシューズとの相性が良くていい走りができ、相性が悪ければ膝を故障してしまいます。

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いま、ランニング界ではこのミスマッチが平然と放置されています。

意図的に放置しているのか、このミスマッチに気づいていないのかまでは分かりません。ここで説明したことも開発者から聞いたことではなく、あくまでも物理的に考えた結果の考察でしかありません。大きく外しているつもりもありませんが。

ここで「だから高反発で高クッション性のシューズはよくない」なんてことを言いたいわけではなく、そういう客観的な事実を知っておいてもらいたいというだけのことです。

少なくとも3つのスイートスポットの考え方を理解しているだけで、走り方によって選ぶべきシューズが違うということは分かってもらえるはずです。それだけ分かってもらえれば、そこから次に考えるのはそれぞれが行うことです。

自分に最適なシューズについては自分で考えて見つけてください。

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