「いい大会」では淘汰されていくという可能性:上がり続ける求められる水準

静岡マラソンを観戦してきたのですが、見事な運営で非の打ち所がない素晴らしいものでした。あえて言うなら、人を使い過ぎな気もするのですが、それはワンウェイコースなので仕方ないのかもしれません。そしてそんなことは走っているランナーには関係ありません。

間違いなく「良い大会」のひとつなんですが、どこか物足りなく感じてしまったのも事実。もしかしたらマラソン大会というのは100点満点の運営というだけでは評価されないのかもしれません。当たり前のことを当たり前にやって80点。残り20点はプラスアルファなのかもしれません。

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驚きがなければ高評価にならない

宿の運営を手伝ってわかったことですが、人は何かを評価するときに、トラブルもなくスムーズだった場合に、高い評価を付けてくれません。いや、宿の評価でいえば10点満点で8点をつけてくれます。これでも十分に高評価なのですが、それ以上は付けてくれません。

ところがサービスにミスや不足があっても、驚くような体験をすると10点満点をつけてくれます。10点満点というのは「心が動かされた」ときに付けてくれる点です。マラソン大会でいえば愛媛マラソンがそれにあたります。

静岡マラソンも景色の素晴らしさがありましたが、それは天候次第で変わるため驚きが約束されたものではありません。だから冷静に考えてみると物足りなさを感じます。そうなると参加者は重箱の隅をつつくようなことをしてしまうんです(もちろん悪気はなく、むしろ期待も込められていることもありますが)。

そして、私が今シーズン見ただけでも大阪マラソンと愛媛マラソンが、驚くような体験を提供しようと新しいことにチャレンジして、これまでとは違うステージを目指しているように感じました。東京マラソンも舵を切ろうとしているのが伝わってきます。ということは他の大会でも同じような変化が始まっている可能性があります。

そうなると、過去の成功と同じことをしても、サプライズ体験のない運営をしても評価してもらえなくなります。別に静岡マラソンの運営がダメだと言いたいわけではありません。現実として、他の大会も含めて生き残り競争になったときに、快晴を天に祈るような運営では耐えきれなくなるという話です。

ランナーが求める水準が上がり過ぎている

マラソン大会に求められるものが増えてきて、評価の基準が高くなっている。これはランナーの舌が肥えたことも原因のひとつになります。マラソン大会慣れして、魅力的な大会をいくつも経験し、その水準にないものを「良くない」と感じている状態。

ランナー側からしたら、期待する水準まで上げてくればいいと思うかもしれませんが、あらゆるマラソン大会には予算があります。予算の範囲内でしか運営ができず、「こうしたい!」みたいな声が上がっても、実現できないことが多々あります。

でもそれも、ランナーにしてみれば「知ったことではない」となるわけです。他の大会と予算を比較して評価するわけではないので当然です。「なぜ他の大会でできていることができないのか」と批判する人がいますが、答えはシンプルで「予算がないから」なんです。

正直、ランナーが求める水準が高過ぎます。本来は大きなトラブルもなくスタートでき、無事にフィニッシュラインを超えることができればそれで運営の役割は果たしています。プラスアルファなんてなくてもいいんです。でも現実はそうではありません。

この状態は改善されるべきことなのですが、マラソン大会は今、「ランナーは神様です」状態にあり、しばらくは改善されることはないような気がします。ランナーも運営もどちらが偉いなんてことはなく、対等な立場にあるにもかかわらず。

ランナーの要求がランナー自身を苦しめることに

ランナーが多くを求めて何が悪いと開き直る人がいるかもしれません。「自分は参加費を払っているのだから、大会側が満足度の高いレースを提供して当然だ」という考えの人もいますよね。どう考えるかはそれぞれの自由です。でも求める水準を満たすには、もっと多くの予算が必要になります。

もちろん工夫も必要です。経費削減などの努力もいるのかもしれません。でも、どの大会も参加費で儲けようなんて考えていません。むしろ、大会運営だけを見れば持ち出しの赤字です。静岡マラソンのために、静岡市はは1億円の予算を組んでいます。

そんな状態で「いま以上」を望んだら、参加費がまた高騰します。ただでさえ参加費が上がって大会に出にくくなっているのに。極論ですが、ランナーが「ゴールとフィニッシュだけあればいいよ」と言えば、参加費は1,000円以下で済みます。でもそうじゃない。

こうなってしまったのは、マラソン大会とは何なのかという議論をしてこなかったことに原因があります。何のためにマラソン大会があるのか。なぜランナーはマラソン大会を走るのか。マラソン大会とはどうあるべきなのかを議論していないから、方向修正ができないわけです。

もちろんRUNNING STREET 365にも(すなわち私にも)責任があります。ただ、もう引き返せないところまで来ています。マラソン人気が落ちて、たくさんのマラソン大会がなくなってしまうまで、この状況は変わらない気がしています。

今はまだ改善だけで乗り切れるかもしれませんが、いつか限界がきます。そのときにフルマラソンの参加費が2万円みたいなことにならないことを願っています。

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