「福士加代子」を読み終えて【走るのが好きということ】

ようやく福士加代子さんの自伝「福士加代子」を読み終えました。私はランニングにかかわる仕事をしていながら、陸上競技にはそれほど興味がありません。陸上競技だけでなく、あらゆることに「応援する」という行為にあまりうまくハマれないタイプです。

そんな私でも、いつも気になる存在だったのが福士加代子さんでした。彼女がエントリーされているというだけでワクワクしますし、何かをやってくれるのではないかと期待してしまう自分がいました。私にとって存在がエンターテインメントなんです。

そんな彼女が引退し、そして著書を発売しました。すぐにAmazonで購入したのですが、ご存知のように貧乏暇なしの生活をしており、なおかつ紙媒体の本というのは今の時代はなかなか面倒なものでして、なんやかんやで時間をかけて読了。

1度だけアディダスのイベントで撮影している私に声をかけてくれたことがあったのですが、そのときに感じたのが人を惹きつける力。懐の深さだったのですが、「福士加代子」の中にはその背景にあるものがギュッと詰め込まれていました。

正直言えば、これがすべてではないんだろうなとは思います。まだ福士加代子という沼の1段目くらい。もっと深いところがある人なんだと思います。それは本人もわからない部分かもしれませんし、人間はそう簡単にすべでさらけ出したりはしないもの。

きっと身近な人だけが触れることのできる深い部分があって、でもこの本だけでもそのさわりだけですが感じられます。いや、きっと本質的な部分まで書き始めたら、きっと上下巻でも済まなくなるのかもしれません。もっとも彼女はそこまで語らないんだろうなとは思います。

「福士加代子」ではそのときどきの心理状態なども書かれていますが、それ以上に自分の周りの人のことに触れていて、ことあるごとに周りの人のおかげというようなことを書いています。それは彼女にとっての本心であり、彼女の本質のひとつ。

自分だけではどうにもならないことがあって、自分を支えてくれる人がいて、今そこに立っている。ただ、スタートラインに立ったら、そこからは自分の責任。上手くいけば周りのおかげ、失敗したら自分の責任。こんな人を周りが放っておくわけもありません。

本書から伝わってくるのはマラソンの難しさと奥深さ。そして、福士加代子さんが走ることが好きだということ。ただそれは高橋尚子さんの「走るのが好き」というのとはまた違った「好き」のようにも感じます。私の思い違いかもしれませんが。

高橋尚子さんの「走るのが好き」というのは「LOVE」に近い好き。マラソンを愛してマラソンに愛されている感じ。福士加代子さんの「走るのが好き」は学者的な「好き」に近くて、どちらかといえば片想い。愚直という表現をするとネガティブに感じるかもしれませんが、とにかく真っ直ぐ。

嘘がないからそこに魅了される。高橋尚子さんに嘘があるというわけではなく、福士加代子さんはあけっぴろげというかオープンな感じがするわけです。それはスターだけが持つ特性のひとつで、だからこそみんなが期待してしまう。

どことなくシンパシーを感じる部分もあるのですが、私と違って彼女は逃げない人。どんなときも逃げずに前を向いて走り出す。転んでも先頭から引き離されても。その真っ直ぐさを羨ましくも感じ、そしてその姿をもう見れないことを少しだけ残念。

ただ彼女はまた違った形でランニングの世界に戻ってくるはず。それがスターの定めですから。

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