危険を察知して立ち止まることは恥ずかしいことではない

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2代目山の神の柏原竜二さんが現役引退。度重なるケガが原因ということなのですが、陸上界でトップレベルを維持しなくてはいけないということは、どれほどハードなことなのかが伝わってきます。

健康のためにマラソンをしている人からすると、信じられないくらいに自分を追い込み、体の限界を越えてまで走り込んでも結果が出ない。マラソンだけではなく陸上の難しさが伝わってきます。

マラソンに限らず、トップアスリートと呼ばれる人たちは、ほとんどがみんなどこかに故障を抱えています。賛否はあるかとは思いますが、アスリートとして生きていくというのはそういうことです。

そこまで努力しても芽が出ない人のほうが圧倒的に多く、日本で活躍できても世界ではまったく通用しないのが今のマラソンです。そのかわり短距離界では日本人アスリートが活躍しています。

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マラソンのような個人競技の場合、たった1つの才能があればまた日本の時代がやってきます。いまは単純に陸上を選ぶ人が少ないか、もしくは才能がある若者がサッカーや野球、バスケのような華のあるスポーツを選んでいるか。

陸連も含め、一生懸命に競技人口を増やそうとはしていますが、いかんせん陸上で食べていける人はほとんどおらず、実業団に入って仕事をしながら練習もするというスタイルから脱却できないでいます。

あまりにも夢がなさすぎる競技に対して、もっと才能がある若者に向いてもらいたいというのは無理があります。

そして何よりも陸上選手はケガが多すぎます。箱根駅伝でも有力な選手がケガで出られないというようなことが頻繁に起きています。そこまで頑張らないと速くなれないのに、そこまで頑張っても夢がない。

とてもアンバランスな状態にあるのがいまの日本のマラソン界です。

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ケガをなくさなくてはいけないというのは、何もトップアスリートだけの問題ではありません。普通の市民ランナーもケガの経験がないという人のほうが圧倒的に多く、何のためのマラソンだかわかりません。

そもそもフルマラソンの距離を6時間以内で走るということに人間の体の構造としての無理があります。

1日12時間かけて60km走ることは無理はありませんが、6時間で40kmは必ず体に問題を抱えます。もちろんそれが4時間でも3時間でも同じです。自分のリズムで無理なく走るのと、関門やタイムを気にして追い込むのは違います。

それでも簡単ではないから挑戦しがいがあり、完走したときの達成感が心地良いというのは事実です。

だから追い込まないようにしてほしいなんてことは言いませんし、追い込みたい人はどんどん追い込んだらいいと思います。ただ、危険を察知するということは忘れないようにしてもらいたいところです。

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有名な登山家の多くは、この危機察知能力に優れているそうです。

例えば目の前にピークがあっても、危険だと思ったら引き返すそうです。これは理屈ではなく感覚の世界で、本能的に進むことを拒否したら、どんな理由があってもそこで中断するそうです。

もちろん前に進むか、それとも戻るかで意見が割れることもあるそうですが、生きて返ってこなければ登山は成功とはいえませんので、絶対に無理はしないそうです。

そこで無理をするような人は、いずれどこかで失敗をします。たまたま上手く登頂できても、いつかは雪崩などに巻き込まれてしまうそうです。

マラソンを走る人も、これに近い感覚を持つべきなんじゃないかと思います。マラソンだけでなくトレランも同じです。走ることによる危険性をいつも考えて、いかにしてそれを回避するか。

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普段の練習で道路を走る場合は、横から車が出てくる可能性をいつも想定しなくてはいけませんし、体がアスファルトから受けるダメージの蓄積も想定する必要もあります。

最悪の事態を常に考えて行動する。また登山家の話になりますが、彼らは「滑る」前提で1歩を踏み出すそうです。次の一歩が石の上だった場合、そこが滑ることをイメージして前に進みます。

そうすることで、想定外に滑ってしまうよりも被害を小さくすることができます。

この考え方は別にマラソンや登山に限ったことではなく、日々の生活でも活かすことができます。常に最悪を想定してトラブルが発生しても戸惑うことなく対応します。

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これとは別に、なんに対しても「なんとかなるさ」というケセラセラの気持ちで向き合う人もいます。どちらがいいということはありませんが、天才肌の人に多く、成功するときには大成功するのですが、失敗するときは大失敗をします。

世界で活躍するような人は後者が多く、安定して力を発揮するような人は前者が多いように感じます。

柏原竜二さんが、どちらのタイプなのかがわかりませんが、山の神と呼ばれるくらいですから、感覚を大事にするタイプなのかもしれません。無理をしても「まだ大丈夫」と追い込んでしまうからケガをしてしまう。

「これは危ない」と思ってケガをする前に立ち止まる。市民ランナーはそういう感覚を大切にしてもらいたいなと、わたしは思います。自己ベストを更新したことを誇るのと同じくらい、毎日ケガなく気持ちよく走れることを誇る。

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60代、70代になっても走る意欲が衰えないことを誇れる。それが市民ランナーのひとつの形ではないかと思います。

目の前に起こる危険を察知し、自分の体に起こる危険を察知すること。大きなトラブルになる前に立ち止まること。それは決して恥ずかしいことではありません。止まる勇気、スピードを落とす勇気。

今日の1秒を縮めることよりも、明日の1歩を大切にする。

全力をつくすことを否定はしません。どちらかと言えばわたしもそちら側の人間です。ただ、それだけが正解ではないということを知っておいてください。全力で明日の1歩を守るという生き方だって恥ずかしいことではありません。


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