同じ場所に立っているとしても、同じ場所へ向かえるわけではない

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境川を逆流するように、大和から町田まで歩いている。久しぶりに日差しと風が気持ち良い休日。約9キロの遊歩道をゆっくり歩けば3時間弱になる。急いでいるわけじゃないから、考えごとをしながら歩くのにちょうどいい時間。考えごとといってもとくに悩みがあるわけでもなく、どうでもいいことが頭をめぐっては消えていく。歩くことがおいらの原点だ。どの旅先でもまずは歩いて街の感覚をつかむようにしている。ただひたすらに歩くのが好きなのだ。目的もなく意味も考えず。

さっきから何度も頭に浮かんでくることがある。facebookやmixiなどでつながっている若者の意識の高さというのはいったいなんなのだろうか。積極的に海外に出ていき、日本国内でも高い意識をもってボランティアをしたり、個々の活動を楽しんでいる。おいらの時代の他の学生もそうだったのだろうか。少なくともおいらには高い意識なんていうものはなかった。工学系の大学に進んだにも関わらず、将来の夢はプロサッカー選手だった。そういう意味では意識は高かった。誰からみても上手とはいえないおいらが、どうすればプロサッカー選手になれるかを真剣に考えて、あと少しで手が届きそうなところまではたどり着いた。

そんな自慢をしたいわけじゃない。SNSでつながる若者たちは、おいらが就職活動をするときに読んでいた就職ジャーナルのお手本のような生き方をしている。オールマイティになんでも出来て、人生経験も豊かだ。そのうえ自己表現もとてもうまい。就職活動のライバルとしてこういう人たちを相手にしていたのだと思うと、どう考えても勝ち目のない競争をしていたのだと虚しくなる。

3キロほど歩いたところで頭痛が始まった。2週間も仕事以外はほぼ寝たきりだったのだから劇的に体力が落ちているのだから仕方がない。病原体は体から去ったのだろうけど、体はすでに消耗しきって、とても自分の体とは思えないほど衰弱している。それでも歩かなければいけない。1週間後のフルマラソンでリタイアだけはしたくない。いや、リタイアしないための闘いを今しているのだ。

精力的な若者に学生時代会わなかったのは、住んでいる世界が違ったのだろう。同じ学生であっても、たとえば早稲田や慶応といった大学に通う人と、おいらのように湘南工科大学という、いま風に言えばFランの大学に通っている人には基本的に接点はなかった。別に湘南工科大学卒業ということを卑下しているわけではない。おいらは湘南工科大学で学べて本当に良かったと思っているし、そこで出会えた仲間を誇りに思っている。ただ、事実として接点がなかったと言っているだけだ。

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境川の周りは秋の色が濃くなっている。亀は久しぶりの暖かさに甲羅干しをしている。鯉は自由を謳歌するかのように川の流れに乗って漂っている。落ち葉も多く、葉の色も数カ月前の濃緑が信じられないほど赤色や黄色に色づいている。世の中にどんなことがあっても夏は秋になり、秋は冬になる。大学院を修了してから13回目の冬が目前にせまっている。学生時代のことは断片的にしか覚えていない。ただそこで過ごした日々が今の自分の一部であることは間違いない。

あの頃から時代は大きく流れて「日本人」を一括りに表現することが不可能なほど日本人が多様化してきた。今の学生もそうなのだろう。いや、学生はすでに当時から多様化していたのかもしれない。そして就職ジャーナルのような就職関係の情報はすべて、トップクラスの大学をイメージして作られていた。おいらはなぜ自分にはやりたい仕事が無いのだろうと悩んでいた。そんなものほとんどの学生にはなかったのだ。少なくともおいらの周りの学生たちには。なのに同じ土俵に立とうとしていた。

町田近くまで来ると歩いている人の数も自然と増えてくる。部活帰りだろうか女子高生が友だちと談笑しながら自転車で向かってきた。疲労感はあるけどおいらにもそういう時代があったと感傷的になるほど弱ってはいない。彼女たちが就職するとき、彼女たちはどのような道の上を歩いているのだろうかと興味が湧いてくる。

人は進むべき道を選ぶとき、すでにそれぞれは違う道の上を歩んでいる。同じ就職をするにしても、同じ就職試験を受けるときに立っている場所は同じように見えても、そこに立つまでの過程でその先に進める道も違ってくる。こういうことはもっとアナウンスされなければいけない。なぜ1日1日を大切にしなければいけないのか、その理由をわかりやすく伝えなければいけない。

町田駅に到着した。3時間かけて歩いた道が、電車を使った帰りは20分もかからない。歩き旅やラン旅をしているとときどきそういう理不尽な思いをすることもあるが、自分の足で歩くことに意味がないとはこれっぽっちも思わない。その道を歩いたからこそ見えるもの、感じられるものが確かにあるのだから。

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